正塚晴彦最新作、『マジシャンの憂鬱』

 荒唐無稽でツッコミどころ満載。どーした正塚、どっかで転んでアタマでも打った?
 と、ストーリーから設定から、えらいことになっているんですが。

 
 透視ができるっつーんで一躍大スターとなったマジシャン、シャンドール@あさこの元へ、極秘に皇太子ボルディジャール@きりやんから依頼が入った。3年前に事故死した皇太子妃マレーク@あいあいの事故の真相を透視して欲しい、と。皇太子は暗殺ではないかと疑っているのだ。
 透視とはいっても、シャンドールが本当に超能力者なわけもなく、仲間たちの調査・工作によってあたかも透視をしているかのように見せていただけのこと。こんな大きな事件に巻き込まれるのは計算外。
 てきとーに「事故死です」とでたらめを言って終了させようとしたのに、シャンドールが何者かに狙撃された。シャンドールに真実を透視されると困る人間の仕業らしい。
 つまり皇太子妃の死は事故ではないということだ。そして犯人はシャンドールを本気で超能力者だと思い、命を狙っている。
 シャンドールを狙撃から守ったのは皇太子妃の忠実な侍女(兼ボディガード)ヴェロニカ@かなみだ。彼女は「命がけで守ります」との言葉通りに、シャンドールのそばに付き従う。
 皇太子妃暗殺の真相は? そして徐々に心が近づいていくシャンドールとヴェロニカの関係は……?
 

 とにかく「動」部分の本筋となる皇太子妃暗殺事件がめちゃくちゃ過ぎてびびる(笑)。
 あー、ネタバレなんで、ヤな人は本日の日記は読まず、まるっとトバしてくれ。

 この「動」部分において。
 犯人がいったいナニをしたかったのかが、いちばんのミステリだ。
 マジわからないっす。

 えー、皇太子と妃は、王制廃止論者だった、と。
 そーなると現在の政府で甘い汁を吸っている人たちが危機感を持つ。さすがに皇太子に手は出せないが、よそ者の妃ならいいや、暗殺してしまえ。
 妃にベタ惚れの皇太子は、妃を失えば何もできなくなるだろう。
 んな情の問題ではなくもっとビジネスライクに考えるならば、仕事の相棒を失うことによって、彼らのプロジェクトは痛手を受け、頓挫することだろう、とか?

 まあ、ここまではわかる。
 実際パッショネイト皇太子は妻を失ってから3年も、ただふやけていたらしい。
 亡き妻のために目的に向かってエンジンかけりゃーいいのに、なにもせずにいたっぽい。ダメダメだな皇太子。
 この現実を見れば、犯人の目論見は正しかったことになる。

 問題は、何故皇太子妃を生かしておいたのか、だ。

 3年ですよ、3年。
 地下墓地で老婆が匿っていた、って、そんな馬鹿な。

 シャンドールたちは「人質か」で納得していたけれど、なんのための人質?
 皇太子が王制を廃止しようと動き出したら、脅迫するの? 妻の命が惜しかったら余計なことはするな、とか?
 妃の事故をこれ以上調べるな、とか、とにかくなにか都合の悪いことを皇太子がしようとしたら、脅迫するの?
 で、ソレいつまで効力があるの?
 1回2回は皇太子も言うことを聞くかもしれないが、彼が生きている間中、ずーっと同じ脅迫をするの? なんか、話が遠大すぎて気が遠くなるんですが。
 犯人の身が危うくなったときに、彼女を楯にするの? だが楯にしなきゃならないときって、すでに犯人は身の破滅状態ってことだよね?
 犯人は名もなきテロリストではない。地位も名誉もある人間だ。それを守るための暗殺事件だったんだから、それらを失い、ただ命を守るためだけに人質を使うならば、もうソレ本末転倒だし。

 せっかく事故ってことで片が付いている事件の唯一の証人を、生かしておく意味がわからない。
 もしものときに人質にするメリットより、もしものときをまねくデメリットの方がはるかに高いのに。
 妃の記憶があるないは関係ないよ。
 だって、記憶がたとえ一生戻らなくても、「事故死」したはずの妃を地下に閉じこめている段階で、「暗殺」だった証拠になるもの。「犯罪」の証拠だもの。

 犯人……バカじゃねえの?

 とまあ、3年前の事件の段階で、相当おかしいんだが。

 「事故ではない」とバレそうだ、と思ったから、皇太子の前で透視者シャンドールを狙撃……って。
 ありえないでしょうソレ。
 こっそりと殺さなきゃ。それこそ事故死でないと。

 そのせいで「暗殺だ」とバレる。
 墓地を改めると土しかない。……って、いったいどんな葬儀をしたんだ。
 替え玉の死体を用意することすらなかったのか?
 てゆーか、3年も経っていれば白骨化前提、てきとーな死体を入れておけば、もう絶対バレなかったんじゃないの、時代的に?

 骨がないから、「妃は生きている」とバレる。
 透視をしたシャンドールの前に犯人の部下たち現れ、暴力で彼を拉致する。
 が。
 あのー。
 拉致して、どうするんですか?
 なにか利用価値を考えていた? なにかはわからないけれど、まあ、そう考えたということにしてもいい。
 問題は、何故シャンドールとヴェロニカを、妃を監禁している地下墓地へ無傷で放り込んだのかということ。

 妃に会わせたらまずいじゃん!!
 切り札なんでしょう、彼女。その切り札を、何故簡単に人目にさらす?
 墓守の老婆@シビさんは、シャンドールとヴェロニカが墓地に現れることを知らなかった。大切な人質の世話役にすらなにも知らせず、危険な敵の超能力者を野放しにするなんて。

 生かしておくこと自体が「犯罪の証拠」であって危険な妃を、苦労して生かしていた。
 生かしておくこと自体が「犯罪を透視される」ので危険な超能力者を、苦労して捕らえ、「知られてはいけない切り札」のいる場所へ連れて行き、なにもかも知られてしまう。

 犯人はいったい、なにがしたいんだ?
 多重人格?
 「してはいけないこと」を、いちいちしていくんですが。
 いちばんのミステリ。
 誰かこの謎を解いて下さい。

 もちろん、勝手にいろいろでっちあげて、「犯人は、ここでこう思ったからこうしたんだけど、計算外にこんなコトがあって、それで仕方なくこんな結果になった」とか、埋めていくことはできるよ。
 でもソレ、まちがってるから。
 「動」の部分は、観客が想像して補完するのではなく、「物語」として現実に描かなければ。

 犯人の行動があまりに支離滅裂で。
 ひとことで言うなら、ご都合主義。

 どうして犯人がこんな馬鹿な行動を取るのかというと、そうしないと、話が作者の都合通りに進まないからということに尽きる。

 簡単だよなあ。
 辻褄の合わないところは全部「バカな人がバカなことをしました」。
 どうしてそんなことをしたんだ、おかしいじゃないか。「だってバカだからです。バカな人は、ふつうの人がおかしいと思うことでも平気でします」。
 物語の中での森羅万象を、すべて説明できる最強の理屈だ(笑)。

 まあ、いいんだソレは。
 ご都合主義でもアラだらけでも、全体として魅力があれば。

 ただ、なあ。
 そこまでズルをしまくってストーリー進めて来てさあ。

 バカな犯人がバカなことばかりするので、シャンドールは妃を救出。
 軍人が事件に関わっていることがわかった。

 ということで、最後の大仕掛け。犯人をいぶり出しましょう。

 ……ということになるんだが、最後の仕掛けがなにをやったのか、わからない。

 具体的にどんなことをしたのか、それによってなにがどーなってこの結果に行き着いたのか。
 シャンドールがどれほどすごいか。かっこいいか。

 論理的に、唸らせるべき場面。

 それまでのズルを全部帳消しにするくらい、「コレをやるために、ズルをしてきたのか!」と思わせるくらい、徹底的に盛り上げなければならないのに……。
 説明に欠けてますがな……。
 あるのは「雰囲気」だけ。ヲイヲイヲイ(嘆息)。

 とまあ、「動」部分の本筋は、ボロボロです。

 でも、いいのよ、マジで。そんなことはどーでも。

 とゆーことで、続く〜〜。


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