フランツ単体で観ていると、チガウ意味でおもしろいんだろうなあ、と思う。
 雪組再演『エリザベート』

 これほど、主役がフランツを顧みない『エリザベート』は、はじめてだ。

 もともとフランツは辛抱役というか、たぶん作品の本質的には2番手役ではないので地味になりがちだけど……でもいちおー、主要人物として、ヒロインの人生に深く関わる人として描かれていたと思う。
 それが、今回の『エリザベート』では。

 主人公エリザベートがフランツにまったく興味を持っていないので、主要人物になっていない。

 とーぜんのことだが、物語は主人公を中心に展開する。
 主人公の人生に関係ある人や出来事がクローズアップされ、それがどんなに大事だろうと主人公と無関係なら物語上は出てこない。シシィがヨーロッパを放浪しているとき日本がどんなだったとか、関係ないから出てこないように。
 歴史上エリザベートの夫はフランツだっちゅーことになっているが、史実がどうであれエリザベートが彼をなんとも思わずスルーしていたら、物語的に絡みようがない。

 いやあ、見事ですね、今回。シシィ、フランツに興味なし。
 おかげでフランツの役の比重がどーんと下がり、脇役のひとりになっている。

 ムラ初日に観たときは、真ん中が大変そうでまだ主役としてのオーラを発するどころではなかったので、フランツ@ゆみこの確実な実力、「ミュージカル」を構築する技術に喝采を送ったんだが。この作品にゆみこがいてくれてよかった!てなもんだったんだが。
 回数を重ねるにつれ真ん中が主役としての仕事をしはじめると、どんどんフランツは地味になっていき……。

 東宝楽では、ここまで脇に回ってますか!

 夫としてそこにいるのに、妻を愛し、「生涯の伴侶はこの私」と必死でアピールしているのに。
 まるっと無視ですか! ヒロイン、興味ナシですか!
 ヒロインの心の視界にいないせいで、すっかり脇役ですか!

 はっきり言って、好みです(笑)。

 物語の中心ライト、というのがあるとして、それはエリザベートやトート、ルキーニといったキャラクタを照らしている。必要に応じてルドルフだったりエルマーだったりを照らしているときもある。
 ところが。
 フランツはそのライトからはずれまくり。シシィだけがぽっかり照らし出され、フランツはその外にいる。彼にライトがあたっていたのは、登場時だとかプロポーズ時だとかの、限られた場面のみ。物語が進むと、彼にライトがあたることはなくなった。

 なのに。
 フランツ@ゆみこはもー、細かい演技をしているのよ!
 ライトからはずれているのに。物語の中心、主人公の視線は彼からはずれているのに。
 主役を中心に観客の目線がある、と仮定するならば、誰も見ていないのに、すっごくきっちり演技しているのよ。心があるのよ。

 それがもー、すげーツボだ(笑)。

 中心ライトのはずれっぷりと、そのライト外の暗いところで、それでも心のある演技を続けている様がステキです。堅実で、がっしり屋台骨を支えている感じ。

 傷ついた表情が絶品。

 てゆーか、よく傷ついてますよこの人。シシィは気にもしてないけど。

 いいなあ、好きだなあ、この人。
 これだけ嫁に無視されまくっているのに、最終答弁でオトコマエにトート閣下にくってかかれるのは、彼に、自信があるからだ。
 たとえどんだけライトの外であったとしても、誰にも見てもらっていなくても、彼はやるべきことをやりつづけたのだから。
 そのことに、胸を張っていい。
 自分の人生を決めるのは、自分自身だ。
 誰が評価しなくったって、自分自身が評価すればいいだけのこと。

 フランツは、自分を認めていたんだね。
 だからシシィを愛し続けられたし、また、最終答弁で「エリザベートは私の妻だ」と断言できた。

 その強さがも気持ちいい。

 ……今までライトの外にいたから、忘れた頃に出てきて胸を張られても、真ん中ライトしか見ていないふつーの「物語目線」の人にとっては、「はぁ? 今さらナニ、この人?」てなもんかもしれないが(笑)。

 
 このハブとマングースが戦い続ける『エリザベート』には、ゆみこフランツでいいんだと思う。
 シシィの夫役ですらない、一歩も二歩も下がった役割が似合っている。
 や、見たことないけどな、ここまで脇役なフランツって。でも、この作品中では、この力加減がいい。

 
 ただ。

 ゆみこだから、こうやって作品カラーに合わせて引いてくれたけれど。

 もしもフランツ役が、絶対に脇役にならない、ヒロインの夫役なんだからその位置を下がる気はないぞ、無視されたままでなんかいないぞ、さあ振り返って俺を愛するんだ、脚本通りの比重はもらうぞ、てな持ち味というか芸風の人が演じていたら、どうなってたかなあ。
 ジェンヌ本人も、そしてファンも、そーゆーものを望むタイプの人が、フランツを演じていたら……。

 これほどトートとシシィの物語なのに、それでも恋敵として名乗りを上げ、パッショネイトに男と女の三角関係を打ち出しただろうか。

 ヒロインがふたりの男の間で迷う図、になったのだろうか。

 せっかくトートとフランツが直接対決する「最終答弁」があるんだから、そういう強いフランツも見てみたかった気もする……(笑)。ただの辛抱役ではない、色男なフランツ。
 トップコンビと、拮抗した2番手男役による、正トライアングル。って、ソレはソレでヅカの醍醐味ってもんだと思うが。

 『エリザベート』という作品には、いろんな可能性がある。

 今回のフランツの無視されっぷりは、実にわたし好みでした。なにしろわたし、樹@『天の鼓』がダイスキだった人ですから!(婚約者を寝取られたうえに、冤罪で死刑判決。命乞いに現れた婚約者は、彼ではなく鼓の命乞いをしたという……トンデモ史に残るだろう悲惨な男)
 や、樹よりずっとずっとオトコマエですけどね、陛下。ヒロインと物語の中枢からまるっと無視されているにもかかわらず、地道にステキ、という共通点が……。

 フランツ単体で見たとしても、めっさ好みの造形なので、きっとチガウ意味でたのしかったのだろうと思う。

 いろんな角度から、目線から、たのしめる作品だもの。


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