当初の設定と異なり、シモンは何故ジェラールが少年院に入ったのかを知らない、ということになっている。

 そこで。

 14年後に再会した折に、なんとジェラールさんは言うわけですよ。

「シモンのせいで、少年院送りになった。俺が辛い目にあったのはみーんなオマエのせいだけど、もう時効だ、俺は気にしてない」

 いや、あの。

 本当にシモンの責任であったとして。

 何故、ソレを本人に言う?

 言ってしまったら、かばってきた意味がないだろう? 母親には「ケンカに巻き込まれて逮捕された」という理由が嘘であることを告げている様子なのに、当の親友に少年院送りの原因を告げずにいたのは、彼を傷つけないためではなかったのか?

 「時効だ」と「罪の所在」を押しつけるのは、なんのため?
 かばい通して少年院で長い時を過ごした、ほどの「大切な親友」ならば、墓の中まで真実を持っていくべきだろう。
 ここで明かしてしまったら、ジェラールはただの「恩着せがましい奴」でしかない。

 何故ここで、打ち明け話をするのか。
 ソレは「地下水道での事件」を説明するため……てゆーか、ジェラールが少年院送りになる事件は、そもそも最初のプロットでは、

ある日ジェラールとシモンは菓子屋の屋台でかっぱらいを働き、逃げる途中でシモンが捕まってしまう。ジェラールは逃げ切れたが、つかまったシモンを救うため、自らおとりとなって警官に捕まり、学校を退学させられる。シモンはいつかこの借りはきっと返す、二人の友情は永遠だと誓う。

 てことで、双方知っているはずだったんだよね。

 ふたり共通の想い出ってことで、回想するはずだった。

 それがイケコの中でプロットが二転三転……十転くらいしたもんだから、わけがわかんなくなった。
 ジェラールは正義感の強い子どもで、悪いことをしたシモンを人知れずかばって院送りになった、ということになった。
 人知れず、だからシモンも知らない。ふたりで思い出話が出来ない。
 つーことで、ジェラールが「俺が院に送られたのは、オマエのせいだったんだ」と話すことになった……って、ヲイ。

 ここで確実に、ジェラールの人格にヒビが入っている。

 一生秘密にしておくべきことを、わざわざシモンに打ち明けるのなら、理由が必要だ。
 たとえば、あのときの鞄の男について調べたい、とか、自分を陥れたスコルピオの入れ墨の男と悪徳警官に復讐したい、とか。
 シモンの協力が必要だから、当時の真実を話す……てならアリだ。

 しかし、そんなつもりもない。
 ジェラールはなーんの意識も理由もなく、シモンを傷つけることがわかっている打ち明け話をする。

 
 ええ。
 現在の『アデュー・マルセイユ』の、どーにも引っかかる部分の話、その2です。

 ただでさえ、無意味に秘密を打ち明けるジェラールは人としておかしい。
 本当にシモンのせいだったとしても、よ?

 でもさ、前の欄で書いた通り、そもそも真犯人はジェラールであり、シモンはほぼ無関係、そそのかされて協力しただけなのよ?

 ジェラールが院送りになったのも、「秘密と孤独」を胸に生きてこなければならなかったのも、全部、自業自得なの。

 悪いのは自分なのに、シモンのせいにしている。
 しかも、わざわざ昔話を蒸し返し、シモンに罪の意識を植え付けている。

 故意にやっているなら、まだいいのよ。
 スルーできないくらい引っかかるのは、ジェラールが、本心からシモンのせいだと思っているらしいことなのよ。

 悪いのは自分なのに、脳内で勝手に別ストーリーを展開、俺は悪くない、悪いのは他人と都合良く変換したみたいで。
 自分の罪を他人に押しつけ、その上自分は被害者面してるみたいで。

 うわーん。ここ、すごい引っかかるんですけどー。

 無意識だとしたら、嫌すぎる。
 せめてわざとだと思いたい。

 そう。
 ジェラールは、悪の人。

 自業自得で苦労して故郷に戻ってきてみれば、昔の友人がえらく出世して、羽振りが良くなっている。
 夜の帝王だあ? シモンのくせに生意気な。

 よし、こいつを利用しちゃえ。

 バカだから、てきとーなことを言って恩を着せちゃえ。

 14年前の地下水道の一件、どう考えたってシモンは悪くないのに、さもシモンのせいだ、とアンニュイに影なんか背負って打ち明ける。

 おバカなシモンは「俺のせいで、オマエの人生が台無しに……!!」。
 や、台無しとか言うな、失礼な。まだ俺の人生終わってないっつーの。ふん。

 まったくもって唐突に、恩だけ着せてジェラールはポーズを決める。
 チョロいチョロい。

 
 ……って。

 逃げて。
 シモン、逃げて〜〜!!

 その男、アナタを利用するつもりよ、アナタがバカなのにつけ込んで!!

 
 えーと。
 そーゆー話になってしまいますが、『アデュー・マルセイユ』。

 頼むよイケコ。
 最初のプロットから、別の話になってしまったんだから、ちゃんとフォローしてよ。

 初日、最初にここでつまづいたわたしは、ジェラールって、ひどくね?!と愕然としていたために、いろいろと乗り遅れましたよ。
 彼の言動や人格にヒビが入っていても、寿美礼サマが歌声で異次元へ連れて行ってくれるから、そこで酔えるんだけどね。

 初日の幕間、ジオラモ@まっつのことでさんざんウケまくり、話題になったあと。
 なんか仲間たちみんなそろって口にしたよね。

「で、まとぶの役はアレでいいの?」
 
 ジェラールが少年院送りになった事件と無関係で、現在のジェラールの捜査にも無関係って……あのー、それじゃ彼、いなくてもいい役なんぢゃあ……?

 最初のプロットでは、関係していたのよね。重要な役だったのよね。
 ただ、二転三転……十転しているうちに、どーでもいい役になってしまっただけで。
 シモンとその愉快な仲間たちがほのぼのしている分、ジェラールの孤独が際立つ、という作用はあるが、別にソレ、シモンでなくてもいいし。
 物語に絡んでいない2番手の役ってのは、構成上「失敗したな、イケコ」と取られて仕方ないよ。

 最初のプロットでは、あくまでも、ジェラールとシモンの友情がメインの物語だったはずなのに。

 シモンが「いなくてもいい役」にまで落ちたんじゃあなあ。
 おーい、イケコぉ。


コメント

日記内を検索