ただの自業自得なのに、被害者だと思い込んで「孤独と秘密」に酔う……そこが盛大に引っかかった『アデュー・マルセイユ』
 初日にソレでアタマ抱えたけれど、翌日には「穴を勝手に補完することでなんとかする」ことにした。

 ジェラールが抱えている「孤独と秘密」を、わたしの理解できるものにすれば、あとはそのままでヨシ。

 ……ので、わたしの中ではジェラールとモーリスの物語ができあがっているんですが、どうしましょう?(笑)

 「14年前の事件」と「現在の偽札事件」がごっちゃになっているから壊れてるんだなー。
 現在の事件を主とするには、回想シーンが無駄に長い。回想シーンを半分にして、マリアンヌとの恋愛場面を入れろ、と思う。わかりやすい恋愛場面がないと、彩音ちゃんの現在の演技力では表現できないってばよ。
 でも現実は、恋愛は忘れられていて、途中から取って付けられて、サヨナラ台詞ありきの使い方しかされていない。

 それなら、別のところに焦点を当ててたのしみましょう。
 どんな作品でもたのしむのがヲタクですから。

 わたしが主と見るのは、「14年前の事件」。
 少年ジェラールの決断と行動。

 親友シモンにネコババさせ、自分が主犯であるにも関わらず「ナニも知らない」と言い張って少年院生活。
 この謎の行動を、「わたし」が気持ちいいように理由付けすることから、すべてはじまる。イケコの意図なんぞ知らん。役者がナニを思って演じているかも知らん。わたしはわたしが納得できるよーに、登場人物の言動を考える。

 ジェラールは心正しい少年。まちがったこと、卑怯なことは許せない。
 ……とゆーことになっていたよね? 石鹸工場の社長が、幼い娘に「見どころのある少年」のことを話して聞かせ、幼い娘が憧れを抱くくらい。

 その「まちがったことは許せない」心正しき少年が、罪を犯した。

 その罪とは?

 地下水道で見知らぬ男からもらった金を、警察に届けず、横領した。
 親友シモンが金に困っていた。なんとかしてやりたいと思っていた。だが、たとえ拾った金であったとしても着服するのはいけないことだ。
 シモンもまともな少年だから、降って湧いた金を前に「警察に行く?」ととまどった声を上げる。
 本来ならここでジェラールは「もちろん、警察に届けるんだ」と力強く言うべきだった。
 母の薬代に困っているシモンが、「このお金、ネコババしてもわかんないよね?」と言い出す可能性はあったにしろ、正義のジェラールならば「盗んだお金で薬を買って、お母さんが喜ぶと思うのか?」てな正論で説き伏せるべきだろう。
 だが、横領を提案したのはジェラールの方だ。
「好きにしていいって言ってたから、いいんだ」
 とまどうシモンの尻を叩き、罪を犯させた。横領の共犯に。

 たしかに、これは罪だ。
 普段のジェラールならまずしない。

 だがこれはまだ、「親友シモンのため」という理由がある。
 実際シモンのためだけにやったことだ。
 ここまでなら、あとで取り返しがつくんだ。
 心正しいジェラールならば、シモンの母の病状が落ち着いてから自首するなりして、決着をつけるだろう。あくまでも、犯人は自分で、シモンは自分に従っただけ。
 「主犯はジェラール」であるために、シモンより先にネコババを言い出した。大金を手にしたままいれば、シモンがそう言い出さない保証はない。そのあとでネコババしたなら、実際に金を使うのもシモンなのだから、主犯はシモンになっしまう。

 金を盗み、その罪をジェラールが着て、自首する。少年院に収容される。
 ……ここまでは流れとしてまちがっていないし、十分アリだろう。

「金に困っている親友を助けたくて、盗みました。反省しています」
 横領は罪だが、少なくともジェラールは正直だ。嘘はついていない。まちがったこと、卑怯なことを許せない正義感の強い少年、というキャラ設定に澱みはない。

 だが。

 ジェラールの罪は、他人の金を横領したことではないんだ。
 そこまでなら、ジェラール的になにもまちがっていない。そのあとに、彼は過ちを犯す。罪を、犯す。

 シモンに金を持たせて逃がしたあと。
 ジェラールは鞄を追っている男たちに捕まってしまう。

 鞄の中身を探している男たちは、ジェラールに詰め寄る。「中身はどこだ」と。

 ジェラールは、嘘をついた。

「鞄は拾った。中身は知らない」
 嘘をつく。つき続ける。

 なんのために?

 金を取ったのは親友のためだった。だが、嘘をついたのは?

 もちろん、自分の命惜しさだ。

 目の前で、鞄の持ち主は殺されている。ジェラールが生かされているのは、鞄と関わった、だがどこまで知っているのかわからない、鞄の中身の在処を知っている、と思われているためだ。

「なにも知らない」
 そう言い続けるしか選択肢はない。
 「中には封筒に入った金が入っていただけだ。それは親友が持って逃げた。金はすぐに使ってしまったはず」……そう真実を口にすれば、そこでジェラールは消される。鞄の男と同じように。そのあとシモンがどうなるかはそのとき次第、また別の問題。
 ジェラールが沈黙を守るのは、自分のためだ。親友のためじゃない。

 まちがったこと、卑怯なことを許せない、正義感の強い少年……そのジェラールが、自分のために、嘘をついた。

 自分のために、他人を犠牲にした。

 誰を?

 ジェラールのことを「天使」と呼んだ男の人生。

 ジェラールが沈黙することで、鞄の男の真実もまた闇の中。彼が命を懸けてまでナニをしようとしていたか、誰にも調べてもらえないまま。
 ジェラールはひとりの男の「命を懸けた行動」をも握りつぶした。

 ただ「秘密」を守るだけなら、それほど追いつめられはしない。若いジェラールの救いになるものはいくらだってあるだろう。
 ジェラールがシモンのために罪を犯したと思い込んでいる母親は、少年院へやってきて励ましてくれる。
 シモンの命を守るために沈黙しているのだと思えば、もっと他に動きようもあった。
 面会に来た人間に頼んで、鞄の男のことを調べてもらうとか、問題の金や封筒について調べてもらうとか。
 シモンにだけはあのあとなにがあり、何故自分が少年院に入れられたか、打ち明けるべきだ。あの日シモンも地下水道にいたことが悪者たちに知れれば、シモンの身も危なくなる。
 少年院の内と外で連携して、事件を解決しなければ、いくらジェラールが「秘密」を守っていたってなんの解決にもならない。シモンは危険なままだ。

 だがジェラールはなにもしなかった。
 頑なに、沈黙を守る。
 なにもかも「なかった」かのように。

 彼が守りたかったのはシモンではない。自分自身だ。
 だから、自分だけが安全であるように、「秘密」を守り通した。沈黙していれば、とりあえず命だけは保証されるから。

 ただ「秘密」を持つだけで、あれほど「孤独」にはならない。秘密を持ったところで、信頼できる人々がいれば問題ないからだ。

 だがジェラールは「孤独」だった。
 鞄の男の人生も、シモンの安全も無視し、自分の命だけを守って「秘密」を持ったときから、心を預けられる者など存在しなくなった。

 母にも嘘をついた。
 親友のことは見捨てた。
 故郷にも、もう帰れない。

 どこにも、居場所はない。

 ジェラールにあるものは、「孤独と秘密」だけだった……。

 
 てなもんなんですがね。わたしが納得できる流れとしては。
 だからポイントは「嘘」であり、その嘘ゆえに葬られた「鞄の男の人生」であり……。

 舞台は14年後に移る。
 以下別欄で。


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