何故、ジェラールは故郷マルセイユに帰れなかったのか。

 仕事でなら帰れた、ということは、べつに物理的に帰れない理由はなかったのよ。地下水道での事件はもう「終わった」こと、誰も気にしていない。少年院を出たあといくらでも帰ることができた。仕事でアメリカに行っていたとはいえ、何年間もフリータイムが1日たりともなかったとは思えない。

 ……てな、『アデュー・マルセイユ』本編の穴を、わけわかんないところを、自分の想像で自分の都合よく補完していく話、その2です。
 はい、スタート。
 

 「孤独と秘密」ゆえに少年院に長逗留していたジェラール。成人した彼の元へ、ICPOのフィリップがやってくる。
 自らの罪と裏切りゆえに故郷に帰ることのできないジェラールは、フィリップのスカウトにふたつ返事。
 ジェラールにとっての魅力は、「別人になれる」ことだったんじゃないのか。

 正しいこと、に誇りを持っていた潔癖な少年が、自分かわいさに他人を踏みつけにした。
 安全な少年院に逃げ込んで何年も過ごし、その間に無条件に味方になってくれていた母も死んだ。
 過去は苦いだけでしかない。
 ジェラールは過去の自分を捨てた。本名を明かさない訓練所の生活や、最初から「嘘」だとわかっているルイ・マレーという名の男として生きる方が楽だ。

 ジェラールが故郷に帰れなかったのは、そこが彼の「罪の記憶」と結びついた場所だからだ。

 物理的なことならいくらでも解決できる。だが、心の問題はそうはいかない。

 嘘をつき、裏切り、葬った。

 シモンはなにも知らず無事に暮らしているらしい。それくらいは、調べればすぐにわかる。
 だが、地下水道で殺されたあの男は?
 彼の人生を踏みにじった事実は、消えない。
 スコルピオや悪徳刑事に殺されることが怖くて沈黙した。

 マルセイユは、ジェラールの「心の闇」そのものだ。

 いつも、明け方には夢に見る。愛しい故郷、マルセイユ。
 二度と戻れない故郷。二度と戻れない、公明正大だった自分。「まちがったこと、卑怯なことは許せない」と胸を張っていられた少年の自分。
 まちがい、卑怯になってしまった今は、決して帰ることができない……美しい場所。

 14年の時を経て、仕事という名目を得てよーやく故郷の地を踏むことができたジェラール。
 何故、今帰ることができたのか。

 純粋だった少年時代を、粉々に打ち壊すために。

 ジェラールの任務は、偽札組織の摘発。
 そして、マルセイユに渡った目的は、1ヶ月前に偽札騒動があった、ギャング経営カジノの調査。
 つまり。シモンを、調べることが目的。

 シモンが犯人ならば逮捕する。
 美しい故郷マルセイユ。愛していた親友と、誰にでも胸を張れた心の正しい自分自身。

 すべてを、壊すために。

 故郷を葬るために、ジェラールはマルセイユに降り立った。

 訪問することは、あらかじめ手紙で知らせてあった。シモンは無邪気に旧友との再会を喜ぶ。ジェラールもそれに応えてはしゃいでみせる。……それ以降のジェラールのテンションから考えると、不自然なほどに。再会の銀橋だけ大はしゃぎ。

 少年時代のジェラールが、どれほど心正しく頼りがいがあったかを、シモンは誇らしそうにたのしそうに、自分の恋人ジャンヌへ話す。
 それを聞きながらジェラールは、あのころの自分が「まちがったことは許せなかった」のだと、遠い目でつぶやく。シモンにおだてられても、相好を崩すことなく。

 長い時を超えて幼なじみを信用させるために、ジェラールはわざと14年前の事件の話を蒸し返した。

 シモンはなにも知らなかったのに。自分がきっかけでジェラールが少年院送りになったなんて知り、この単純な男はどれほど心を痛めたろう。
 傷つけることが、目的だった。
 罪悪感で目がくらみ、しっぽを出せばいい。偽札組織に関わっているならば。

 恩を着せ、騙すつもりで近づいたジェラール。
 なにも知らず、心からの信頼を寄せるシモン。

 幼なじみの親友同士の愛と裏切りの物語っつったら、これくらいやるもんだろお?
 なんでシモンは「いてもいなくてもいい」「だだのバカ」に成り下がってるんだイケコ。

 調べていくうちに、シモンは無関係……てゆーか、このバカにンな大それたことができるわけないとわかるのだけど。
 そして、少年のまま、純粋なままのシモンの姿に、ジェラールの心は揺れるのだけど。
 シモンを騙していること、利用するつもりでやって来たことは、覆しようもない。

 「孤独と秘密」……歌うジェラールの絶望は深い。いつかこの孤独は報われるのだろうか。

 さて。
 表面上は仲良く幼なじみをやり、シモンのオリオン組を調べる傍ら、ジェラールは昔懐かしの石鹸工場へ足を踏み入れる。
 そこで、マルセイユ帰郷初日に駅前で出会った「アルテミス婦人同盟」のマリアンヌと再会する。
 「マルセイユを愛しているのね」……なにも知らない、見るからに世間知らずの潔癖娘は簡単に言う。肯定するジェラールの、心の闇に気づくはずもなく。

 シモンに対しての疑いは薄れていたにしろ、オリオン組を張っていたのは正しい。カジノ・オリオンでの2度目の偽札騒ぎが起こった。やはり鍵はここにある。
 密輸業者ルイ・マレーを名乗るジェラールに、カジノ・オリオンの常客イタリア・マフィアのジオラモが接触を図ってきた。
 ジオラモの誘いに乗ることで、マルセイユに巣くう密輸組織の中枢に入り込むことに、ジェラールは成功した。

 ソレは奇しくも、14年前の地下水道事件の悪党たちとの再会でもあった。

 14年前の市長汚職と助役ピエール殺害については本編でなにも語られていないので、詳しいことはわからない。イケコのアタマの中ではどーなっていたのかねえ。きっと辻褄なんか存在しないんだろーけど、まあいいや。

 動揺を押し隠すジェラール。「目的は復讐ではない」と自分に言い聞かせる。
 復讐もなにも。過去を葬ったのは自分自身だ。できれば一生、見なかったこと、聞かなかったことにしていたいと思っていた。
 だから自分に言い聞かせる。14年前の事件を調べないのは、今は別の任務中だからだ。過去の自身の罪と向き合うのがこわいわけじゃない。

 いくら今は他の任務中、ったって、14年前の事件と同じ顔ぶれが揃って現れりゃ、なにかしら調べるべきだろ。偽札事件はスコルピオが怪しいと踏んでいるのだから。
 だがジェラールは頑なに14年前の事件を調べない。考えない。

 屈折しきり、闇の中で喘いでいるジェラールの前で、理想家のマリアンヌは「バカだろ、オマエ」と言われても気づかないほどの純粋さでキラキラしている。
 色も匂いもない石鹸みたいと言われて、皮肉だとわからない、誉め言葉だと受け取ってしまうようなバカ娘。
 「正しいことは、正しい」と意気をあげている、「まちがったこと、卑怯なことは許せない」と声に出して宣誓してしまえるよーな、幼さゆえのイタさを持った少女。

 マリアンヌのイタさは、まるであの日のジェラール自身のようで。

 彼女を無視できないのは、彼女がなんとなく、どーしても引っかかってしまうのは、仕方ないことなのかもしれない……。

 
 ……てな感じで、恋愛も同時進行してます、いちおー。
 まだ続きます、以下翌日欄。


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