『アデュー・マルセイユ』が、恋愛アドベンチャーゲームなら。
 主人公ジェラールの、公式ダーリンキャラはとりあえず3人だよね?

 公式ダーリン……つまり、説明書に「ラヴ・エンディングあり」と明記されているキャラクタ。

 ギャングのシモン、婦人参政運動活動家マリアンヌ、市会議員モーリス。
 この3人の中からはいどーぞ、お好きなキャラとエンディングを迎えてください。

 1回はエンディングを迎えたあと、2週目のプレイからはジオラモ・エンド、フィリップ・エンドもあり。隠しキャラつーか、オトせるけれど最難関キャラはもちろんジャンヌで。
 全部のエンディングをコンプしたあとなら、禁断の少年院裏バージョンがプレイできるとか、その場合のラヴ・エンディングはペラン刑事のみだ覚悟しとけ、とか。

 まあいろいろ考えられますが(誰か実写取り込みでゲーム作ってくれ……)、王道は、シモンでしょう。

 幼なじみ設定。ベタだけどコレは恋愛ゲームの王道中の王道。
 ねえ?

 つーことで、『アデュー・マルセイユ』本編の穴を、わけわかんないところを、自分の想像で自分の都合よく補完していく話、その3です。

 もーすっかりグレているジェラール。すさんでいるジェラール。「心の傷」そのもののマルセイユへ、過去すべてを壊す覚悟でやってきたジェラール。
 シモンに近づいたのも、任務ゆえ。偽札事件に関わっていれば、逮捕するため。

 だけど。

 シモンと一緒に過ごすうち、ジェラールは変わりはじめた。

 マルセイユに巣くう密輸組織にスカウトされる頃には、ジェラールはシモンへの疑いは捨てていたと思う。たとえ彼のカジノで偽札が発見されたとしても。
 むしろ、スコルピオ組の狡猾さの前に、愚直なオリオン組の未来に暗澹たるものを感じていたのでは。
 ホテル・ネプチューンで悪党会議@ジオラモの歌によるキャラ紹介、ののち道で酔っぱらいシモンに会ったときのジェラールは、すでにかなりほだされてる。シモンに。

 ジェラールには、シモンくらい明るいバカが必要だ。

 「孤独と秘密」でがんじがらめ、じめじめしているジェラールを、シモンの晴れ渡った青空のようなバカさで、救って欲しい。

 酔っぱらいシモンのアタマを撫でるジェラール。
 あるときは笑いながら、あるときは真顔で。

 真顔の方が、好みです。

 すっげー真面目な顔で、まとぶのアタマ撫でてるの、オサ様。
 や、あくまでも役の話ですが。

 それまで意識してなかったのに、シモンのアタマをつい、撫でてしまったとき、ジェラールは気づく。
 シモンを、愛していることに。

 ……えー、この場合の「愛」は、友愛でいいですよ、めんどーなので。そーゆー名前で呼んでくれていいです。

 傷つけるために、なにもかも壊すために、来たのに。
 シモンを利用して、うち捨てるつもりでいたのに。
 気が付いたら、彼のことを心配している。彼に笑っていてほしい、信じていて欲しいと思っている……。

 幼なじみだから、というのではなく。
 シモンというひとりの男を、好ましく思っている。

 
 思うんだけど、ジェラールは、バカに弱いんだと思う。
 「純粋」と言葉を換えてもいい。

 マリアンヌにしろ、シモンにしろ、性格は違うがどっちも潔いまでにバカだ。

 「アルテミス婦人同盟」のバザーで、世間知らずお嬢様マリアンヌとうっかり盛り上がってしまうジェラール。
 純粋ゆえに、ひたむきさゆえに全力疾走、あちこち尖っている女の子が、ぽろりと弱音を吐く。

 マリアンヌは、ジェラールのイタい過去の姿。
 純粋すぎて曲がることが出来ず、ぶつかって砕け散ることになった、幼い正義感。
 彼女に対し、苛立ちを感じるのも、またどうしようもなく惹かれるのも、そのため。

 もしも同じシチュエーションで、シモンが弱音を吐いたら、ジェラールは同じようになぐさめ、盛り上がって最後はキスするね(笑)。

 営業停止になった無人のカジノ・オリオンあたりでさ。
 いつもアホ全開のシモンが不意に真顔になって、
「俺だって不安なんだ……」
 とか、言い出して。
 ギリシア神話ダイスキなジェラールが、てきとーなうんちくこねて。や、悲劇で終わるアルテミスとオリオンの神話で女の子を口説くよーな男だから、スコルピオとオリオンの神話でシモンを慰めるぐらいするぞ、きっと(笑)。

 うっかり盛り上がって手なんか握っちゃったふたりが、はっとして離れて。
 んで、最後は、
「忘れ物だ」
 つってジェラールがシモンにキスする、と。ピンスポから暗転へ。

 ……いかん、どう考えてもコントだ……。

 冗談はともかく。
 マリアンヌが「昔の自分」スキルを持った「バカ」ならば。

 シモンは、「もうひとつの未来の自分」スキルを持った「バカ」なんだ。

 もしも14年前、あんな事件がなかったら。
 シモンと一緒にこの街でのどかに育ったならば。
 ジェラールも、シモンのようになっていたかもしれない。

 故郷を愛し、仲間を愛し、この地で商売をして、仁義を守って。

 ジェラールのことをなんの疑いもなく信じ、懐を開き、受け入れる。
 そのまっすぐさ、バカ正直さが、まぶしい。

 バカだと思う。騙されていることも知らないで、と。だがその一方で。

 こんなバカになりたかったと、心が悲鳴を上げる。

 マリアンヌと、シモン。
 ふたりのバカ。

 ジェラールの胸を熱くさせる、「過去」と「もうひとつの未来」。

 マリアンヌにキスをするくらい、心がやわらく、傷つきやすく、弱りはじめているジェラール。
 冷たい石だと思っていた。もう心は動かないと思っていた。なのに今、捨てたはずの故郷でココロが動いている。
 愛したい、愛されたい。

 生きたい。

 14年前、失ってしまったはずのもの。
 自ら、封印してしまったもの。

 そう、揺れ動きはじめたときに。

 シモンが、ジェラールに別れを突きつける。

 はい、なんと見られていたんですね。ジェラールがジオラモの部屋に出入りしているところを。
 ジェラールがスコルピオ組とつるんでいることが、バレてしまった。オリオン組組長のシモンとしては、筋を通さなければならない。

 シモンはなにも知らない。
 スコルピオ以前に、ジェラールはICPOの刑事であり、偽札組織を調べるためにやって来たんだ。シモンを逮捕するつもりで近づいたんだ。
 そのことがバレなかっただけでも、よかった。まだ最悪の状況ではない。
 でも。

「俺を信じてくれ。お前を裏切るようなことはしていない」
 ……口にする言葉の、熱はどこから?
 全部嘘。最初から嘘。なのにこの熱はなに? この痛みはなに?

 傷つけるつもりで近づいたのに。

 今、傷ついているシモンを前にして。
 シモンから別れを告げられて。

 信じて欲しい、失いたくない、と、切望する自分を知る。

 シモンが突きつけるのは、14年前の封筒。ジェラールの運命を変えたもの。
 考え無しの少年だったシモンが、この封筒をずっと持っていた……彼はずっと、ほんとうにずっと、ジェラールのことを想っていたんだ。
 その真心を傷に代えて、流れる血をかつての親友に捧げる。

 ジェラールは、こんなに曲がってしまったのに。
 シモンは見せつける。「もうひとつの未来」を。こんなときにさえ。

 まっすぐに。

 
 ……てなところで、以下翌日以降欄へ続く。


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