そして、未来へ。@アデュー・マルセイユ
2007年10月13日 タカラヅカ 『アデュー・マルセイユ』本編の穴を、わけわかんないところを、自分の想像で自分の都合よく補完していく話、の続き、エピローグです。
「14年間の謎が解けたってワケか」
「ああ。俺の心の鎖も解かれたようだ」
って会話を、シモンとジェラールはしているけれど、ちょっと待て、14年前殺された男がモーリスの父親だった、つーだけで、他はなんにもわかってないじゃん、なんにも明らかになってないじゃん。
それで解き放たれるジェラールの「心の鎖」ってナニ?!
と、観客が総ツッコミと化すこの展開。
このことの辻褄を合わせたくて、それともうひとつ、ラストのジェラールの台詞の辻褄を合わせたくて、長々と書いて来たよーなもんだ。
ジェラールが任務を離れ、自分の過去の清算のためにスタンドプレイをしたことに、フィリップは気づいているのか。
静止した闇の中にいたジェラールを、自由に動くことの出来る場所へ、新しい名前と共に放してくれたのが、このフィリップだ。
「来てくれたんですね」
達観したものを持つ大人の男へ向けて、ジェラールは深いものを含ませた笑顔を向ける。
「舞踏会の晩には、なにか起こると思っていた」
愛嬌を込めて、フィリップは答える。なにもかもわかっていたかのように。
そうそう、忘れないでマリアンヌのカンチガイを解いておく。
舞踏会でキスしてしまったため、また彼女は「私はジェラールの恋人」と思い込んでいる。
あれほど「女性参政」と意気をあげていたことも忘れ、「そんなのどーでもいい、恋がいちばん大切よ」とすがりついてくる。あまりに愚かな「女」部分を剥き出しにした少女。
「失った自分自身」であるマリアンヌ。彼女の幼さも愚かさも、昔の自分を見ているようで、苛立たしくもあり、またたしかに惹かれてもいた。
だが人は、子どものままではいられない。
少年時代に郷愁はあっても、もうそこに還ることはできない、帰ってはいけないのだ。
罪も傷も、見て見ぬふりは出来ない。割れた花瓶を継ぎ合わせて割れていないことにするのではなく、割れてもう今はなくなってしまったけれど、美しかったこと、愛していたことを心に刻んでいればいい。
罪を告白し、魂を解放したあとのジェラールには、マリアンヌのことは男女の感情には結びつかず、むしろ兄が妹を思うような穏やかな感情に昇華されている。
幼い君にはまだわからないだろうけれど、いつか君も、心の傷を傷と認めて、自分自身を受け止める日がやってくる。
彼女の愚かさは、ジェラールにもたしかにあった愚かさ。
否定するでなく蔑むでなく、とても愛しく思う。
「大きな未来に向かって進んでいくんだ。君は君の未来に向かって、僕は僕の未来に向かって。……落ち着いたら手紙をくれ」
新しい世界で生活することで、少女はきっと彼への気持ちを忘れるだろう。恋に恋していただけだと気づくだろう。
今、気休めが必要ならばいくらでも、彼女が望む言葉とやさしいキスを与えてあげられる。
マリアンヌから届く何通目かの手紙は、結婚式の招待状かもしれない。たぶん彼女は、政治家になどならずふつうに、ごく若いうちに結婚するだろうから。
シモンがバカで幸いした。
彼は「刑事のジェラールがスコルピオ組の潜入捜査のためにマルセイユへ来た」と思い込んでいる。
「この野郎、俺を担ぎやがって!」
と笑うシモンは、そもそも自分が疑われていたことを、カケラも疑っていない。
「親友」である自分は、「清廉潔白」である自分は、他人から疑われることなどないと、素直に信じ切っている。
ジェラールに絶交を言い渡した理由も、「これ以上お前を疑いたくない」だった。
ひとを疑うことに慣れていないシモン。想像もつかないシモン。
ジェラールの「もうひとつの未来」であるシモンは、今のジェラールが持ち得ない素直さでキラキラ笑う。
シモンには、なれなかった。
だけどもういい。ジェラールはジェラールだ。シモンになる必要はない。
たしかに罪を犯した。卑怯だった。臆病だった。
だが、己れの弱さを受け止め、傷として糧としてその魂に刻み、前へ進むことができるのも、他でもないジェラールだからだ。
幼くまっすぐな誰かでも、純粋で疑心を知らない誰かでもなく、間違いやら歪みや澱みやらを全部持ち合わせたジェラールだからこそ、進む道もある。
なにも知らず、理解しようともせず、シモンは笑う。
「俺たち、ずっと友だちだもんな」
「ああ、友だちだ」
バカみたいな会話。
だけど、それでいい。
シモンの変わらないバカさに、ジェラールは救われ、惹かれてきたのだから。
唯一、ジャンヌはすべてを察していたかもしれない。ジェラールの手相を見て「秘密が消えてる」と言う賢い彼女は、なにもかもわかったうえで、バカなシモンを愛するのだろう。
ジェラールの「心の闇」そのものだった美しい故郷マルセイユ。
それまでここは、「帰りたくても帰れない」場所だった。
仕事を名目に、純粋だった少年時代を、粉々に打ち壊すためにやってきた。
帰れない場所ならば、もう二度と意味など持たないくらい、完全に葬り去りたかった。
だが、己れの罪を認めた今、ジェラールはジェラール自身を取り戻した。
少年時代の彼も、彼がなるはずだった未来の彼も、彼の罪の結果も、すべてを受け入れた。
美しい故郷マルセイユ。
これでいつでも、帰ってくることができる。
いつふらりと訪れても、親友はあたたかく迎えてくれることだろう。
「アデュー」
と、彼がつぶやくのは、彼の中の故郷。
彼の心の闇。彼の幼さ。
彼を縛っていたのは、事件でも犯人でもなく、彼自身の弱さだから。
振り返る彼の目に映るマルセイユの人々は、やさしい仲間たちだけでなく、観光客も街の人間も夜の女も、スコルピオの男たちまでいる。
清も濁も、すべてがみな、美しい光の中にいる。
光に目をすがめ、愛しそうに見回して。受け止めて。
だから彼は、永い別れの言葉を口にするのだ。
「14年間の謎が解けたってワケか」
「ああ。俺の心の鎖も解かれたようだ」
って会話を、シモンとジェラールはしているけれど、ちょっと待て、14年前殺された男がモーリスの父親だった、つーだけで、他はなんにもわかってないじゃん、なんにも明らかになってないじゃん。
それで解き放たれるジェラールの「心の鎖」ってナニ?!
と、観客が総ツッコミと化すこの展開。
このことの辻褄を合わせたくて、それともうひとつ、ラストのジェラールの台詞の辻褄を合わせたくて、長々と書いて来たよーなもんだ。
ジェラールが任務を離れ、自分の過去の清算のためにスタンドプレイをしたことに、フィリップは気づいているのか。
静止した闇の中にいたジェラールを、自由に動くことの出来る場所へ、新しい名前と共に放してくれたのが、このフィリップだ。
「来てくれたんですね」
達観したものを持つ大人の男へ向けて、ジェラールは深いものを含ませた笑顔を向ける。
「舞踏会の晩には、なにか起こると思っていた」
愛嬌を込めて、フィリップは答える。なにもかもわかっていたかのように。
そうそう、忘れないでマリアンヌのカンチガイを解いておく。
舞踏会でキスしてしまったため、また彼女は「私はジェラールの恋人」と思い込んでいる。
あれほど「女性参政」と意気をあげていたことも忘れ、「そんなのどーでもいい、恋がいちばん大切よ」とすがりついてくる。あまりに愚かな「女」部分を剥き出しにした少女。
「失った自分自身」であるマリアンヌ。彼女の幼さも愚かさも、昔の自分を見ているようで、苛立たしくもあり、またたしかに惹かれてもいた。
だが人は、子どものままではいられない。
少年時代に郷愁はあっても、もうそこに還ることはできない、帰ってはいけないのだ。
罪も傷も、見て見ぬふりは出来ない。割れた花瓶を継ぎ合わせて割れていないことにするのではなく、割れてもう今はなくなってしまったけれど、美しかったこと、愛していたことを心に刻んでいればいい。
罪を告白し、魂を解放したあとのジェラールには、マリアンヌのことは男女の感情には結びつかず、むしろ兄が妹を思うような穏やかな感情に昇華されている。
幼い君にはまだわからないだろうけれど、いつか君も、心の傷を傷と認めて、自分自身を受け止める日がやってくる。
彼女の愚かさは、ジェラールにもたしかにあった愚かさ。
否定するでなく蔑むでなく、とても愛しく思う。
「大きな未来に向かって進んでいくんだ。君は君の未来に向かって、僕は僕の未来に向かって。……落ち着いたら手紙をくれ」
新しい世界で生活することで、少女はきっと彼への気持ちを忘れるだろう。恋に恋していただけだと気づくだろう。
今、気休めが必要ならばいくらでも、彼女が望む言葉とやさしいキスを与えてあげられる。
マリアンヌから届く何通目かの手紙は、結婚式の招待状かもしれない。たぶん彼女は、政治家になどならずふつうに、ごく若いうちに結婚するだろうから。
シモンがバカで幸いした。
彼は「刑事のジェラールがスコルピオ組の潜入捜査のためにマルセイユへ来た」と思い込んでいる。
「この野郎、俺を担ぎやがって!」
と笑うシモンは、そもそも自分が疑われていたことを、カケラも疑っていない。
「親友」である自分は、「清廉潔白」である自分は、他人から疑われることなどないと、素直に信じ切っている。
ジェラールに絶交を言い渡した理由も、「これ以上お前を疑いたくない」だった。
ひとを疑うことに慣れていないシモン。想像もつかないシモン。
ジェラールの「もうひとつの未来」であるシモンは、今のジェラールが持ち得ない素直さでキラキラ笑う。
シモンには、なれなかった。
だけどもういい。ジェラールはジェラールだ。シモンになる必要はない。
たしかに罪を犯した。卑怯だった。臆病だった。
だが、己れの弱さを受け止め、傷として糧としてその魂に刻み、前へ進むことができるのも、他でもないジェラールだからだ。
幼くまっすぐな誰かでも、純粋で疑心を知らない誰かでもなく、間違いやら歪みや澱みやらを全部持ち合わせたジェラールだからこそ、進む道もある。
なにも知らず、理解しようともせず、シモンは笑う。
「俺たち、ずっと友だちだもんな」
「ああ、友だちだ」
バカみたいな会話。
だけど、それでいい。
シモンの変わらないバカさに、ジェラールは救われ、惹かれてきたのだから。
唯一、ジャンヌはすべてを察していたかもしれない。ジェラールの手相を見て「秘密が消えてる」と言う賢い彼女は、なにもかもわかったうえで、バカなシモンを愛するのだろう。
ジェラールの「心の闇」そのものだった美しい故郷マルセイユ。
それまでここは、「帰りたくても帰れない」場所だった。
仕事を名目に、純粋だった少年時代を、粉々に打ち壊すためにやってきた。
帰れない場所ならば、もう二度と意味など持たないくらい、完全に葬り去りたかった。
だが、己れの罪を認めた今、ジェラールはジェラール自身を取り戻した。
少年時代の彼も、彼がなるはずだった未来の彼も、彼の罪の結果も、すべてを受け入れた。
美しい故郷マルセイユ。
これでいつでも、帰ってくることができる。
いつふらりと訪れても、親友はあたたかく迎えてくれることだろう。
「アデュー」
と、彼がつぶやくのは、彼の中の故郷。
彼の心の闇。彼の幼さ。
彼を縛っていたのは、事件でも犯人でもなく、彼自身の弱さだから。
振り返る彼の目に映るマルセイユの人々は、やさしい仲間たちだけでなく、観光客も街の人間も夜の女も、スコルピオの男たちまでいる。
清も濁も、すべてがみな、美しい光の中にいる。
光に目をすがめ、愛しそうに見回して。受け止めて。
だから彼は、永い別れの言葉を口にするのだ。
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