さて、12月24日の花組千秋楽。
 オサ様を見送るために奔走していたこの日、もうひとつの闘いがあった。

 それが、『春野寿美礼ラストディ』ポスター限定発売だ。

 何故か千秋楽1日限りの販売。売り場は全国のキャトレと各ラストディ会場のみ。

 オサ様ファンなら絶対欲しいだろう。ポスターとして飾る・飾らないの問題じゃなく、「2007年12月24日」の日付の入ったグッズなんだ。

 遠征組のわたしは、前日以前からアタマを抱えていた。
 千秋楽当日は、朝から入り待ちして、日比谷でずーっと過ごし、夜の出待ちまでする予定だ。しかもそのまま夜行バス。

 ポスター持ったままで、あの驚異の人混みの中立ち続けるの?!

 押し合いとか起こったら、ポスターぐちゃぐちゃだよ?

 夜行バスだって、貴重品の運搬には向かない。びんぼー人のわたしは4列シートの格安バス利用だ、狭いし荷物を守れる場所もないし。

 オサ様ポスターが、人や荷物にぶつかって、ぶつけられて、ぐしゃぐしゃになっちゃったらどうしよう? おろおろおろ。

 購入したあと、ロッカーに入れる? 空いてるロッカーって、どこまで行けばあるだろう? それとも、厳重装備で即宅急便?
 ナイ頭をしぼっていろいろいろいろ考える。

 なんで当日1日だけの限定発売なんだろう。
 前もって売ってくれていれば、大阪で買っておいたのに。

 運搬、保管方法に悩むまでもなかった。
 何故ならば。

 「購入」自体が、闘いだったからだ。

 
 入り待ちのあと、某喫茶店に避難したわたしとどりーず東組のメンバーは、凍えたカラダを熱いお茶で溶かし、とりあえず生きた心地を取り戻していた。

 開演の1時半まではまだ時間がある。ゆっくりと英気を養い、きちんと食事をしてからそれぞれの劇場へ向かおう。

 つーことでわたしは、友人たちに「ちょっとポスター買いに行ってくる」と言って立ち上がった。
 お茶も飲みかけ。でも、キャトレ開店したころだから、様子見に行ってくる。あんまりものすごい列だったら、一旦戻ってきて先にごはんしようかな。

 すげー気軽に、財布と携帯だけ持って出かけた。

 甘かった。

 劇場キャトレはすでに完売。
 あわててシャンテへ向かう。

 シャンテ地下のキャトレでは、行列が店の外まで伸びていた。

 最後尾を探して、あわてて並ぶ。つか、最後尾を探した。列はわけのわからない蛇行をし、えんえん伸び続ける。

 なんなのこの人数。
 キャトレははるか遠い。
 それでも人は並び続ける。増え続ける。

 列がすごかったら先にごはんをしようなんて、無理。完売の恐怖があるから、なにを捨ててもまず購入するしかない。

「これ、なんの行列ですか?」
 一般人が声を掛けてくる。

 せ、説明しづらいな……。

 「お一人様3本まで」だった限定ポスターは、急遽「お一人様1本まで」に変更されていた。それでも劇場は売り切れだし、シャンテはこの有様。

 というか、列がいっこうに進まない。
 お一人様1本で、1本1000円のポスターだ。会計に時間がかかるはずもない。何故こんなに進みが遅い?
 どこの牛歩サークルだ?

 答えは、「限定発売専用レジ」を作っていないため、だ。

 一般の買い物客も混ざっているためだ。ふつーにいろんなグッズや書籍を購入するために並び、カードで会計したりもする。
 そりゃ時間かかるわ……。

 てゆーか。

 限定モノを販売するとき、専用レジを作るのは鉄則だろう。
 コミケだって行列必至の大手サークルでは「新刊専用列」「既刊専用列」を分ける。値段もあらかじめ、行列にお品書きを回覧することで告知してある。購入者は前もってお金を用意し、スムーズに購入していくさ。
 素人だってやっていることだ。
 たくさんの人が長時間行列をする=ウチのサークル大人気! というイメージ戦略のためにわざと会計を遅らせる牛歩サークルでもない限り。

 何故、プロの販売店がそんな初歩の初歩をしない?

 まあ、時間だけならまだいい。何時間並んでも、確実に購入できるならば。

 最悪は、まだその先にあった。

「購入していただけるかどうか、わかりません」

 すでに30分は並ばせたあとで。
 行列の最後尾はシャンテを縦断する勢いで伸びているというのに。

「ポスター購入目的で並んでいる方と、そうでない方の区別がつかないので、人数が把握できません」

 上がる悲鳴、ブーイング。

 限定販売をしておきながら、並ばせておきながら、人数把握できていないだと?

 あ、ありえない……。

 販売業やってたことあるけど、これはありえない大失態だ。
 どんだけクレームになって上層部巻き込んだ騒ぎになるか。や、ふつうなら。
 タカラヅカはふつーじゃないから、きっと平気なんだろうけど。

 限定販売をするときは、専用レジを分ける。あらかじめ整理券など発行する。
 無駄に並ばせない、購入できない人を並ばせない。
 会社の名誉にかけて、努力するだろう。混乱と事故のないように。

「並ばれても、購入できないかもしれませーん。ご承知の上、お並びくださーい」

 て、並ぶ前に言えよ。
 みんなもうえんえん並んだあとだ、なにを言われても列から動かない。

「購入できないかもしれませんよ」
 係の人が並び続ける人たちに、いちいち言って回る。さも「並んでいるのは自己責任、買えなくても店のせいにしないでね」と言わんばかりに。

 キャトレがアホなのは、今にはじまったことではないが。

 限定発売を、オサファンをなめてかかっていたのだろう。
 それ用の準備をナニもせず、ふつーの営業日の感覚で店を開け。
 開店と同時に客がなだれ打って来店、あれよあれよという間に行列が出来る。
 列を指揮するヒマもないから、列はわけのわからない蛇行をし、周囲のいろんなものに迷惑を掛ける。
 一般客とポスター目的客とか入り交じり、手の付けられない状況に陥る。
 まあ、ポスターいっばいあるから大丈夫だろう……と思っていたら、行列はシャンテの端まで延びる勢い。ちょっと待て、こんなに並んで在庫保つ?
 そこであわてて数を数えだした。
 やだー、並んでる人の方が、ポスター在庫よりはるかに多い〜〜、どーしよー。
 でもポスター買わない人もいるかもしんないしぃ。そんなの誰にもわかんないよねええ?

 てな思考回路が、なりゆきが頭に浮かぶ。

 行列が予定外に伸びた段階で、何故手を打たない?
 レジをひとつでいいから専用にし、「ポスター購入希望の方はこちらへ」と既成列から誘導すればいい。並び順は変えずに、あくまでも順番に。
 無軌道に伸びた列を整理し直すんだ。周囲に迷惑の掛からない場所に移動させるんだ。
 ひとり1本なんだから、専用列の人数を数えるだけで事故を防げる。
 落ち着いてきたら、レジの数を増やすなりして一気に販売を終わらせるんだ。

 そんな、素人でも考えつくことが、何故できない?
 ヅカファンはおとなしいから、理不尽なことをされても黙って耐えるから、野放しってか。

 キャトル・レーヴの販売業としてのレベルの低さに、眩暈がした。

 
 さて、わたしは大行列の最後尾を探して並んだ段階で、「なんとかならないもんか」と動いていた。
 ポスター発売場所は全国のキャトレとラストディ会場。たぶん、いちばん混むのがこの東宝とシャンテのキャトレだろう。案外ラストディ会場では簡単に購入できるんじゃないか。

 アタマではわかっているが、ラストディ会場での販売は「最後のチャンス」だ。そこで購入できなかったらアウト、もう手に入らないってことだろう。
 それなら、会場が開く前に販売しているキャトレで、押さえておきたい。安心したい。
 それは、ここに並んでいる人たちの共通の思いだろう。誰が好きこのんで何時間も並ぶモノか。確実に手に入れたいだけなんだ。

 周囲の人と話しながら、情報収集。
「福岡、名古屋のキャトレ完売」「ラストディ会場前にはすでに行列」……入ってくる情報の、きびしいこと。

 結局、1時間並んだかな。
 ようやく店内に入れ、レジがもう少し、というあたりで、名古屋の木ノ実さんから連絡。

「ポスターふたり分買えた!」

 ありがとう!!
 ……てことで、わたしは列から脱落した。1時間並んで、購入まであとちょいだったが、手に入った時点で購入権利は後ろに並ぶ別の人に譲るべき。
 一緒に理不尽な列に並び続けたオサファンの人たちに、挨拶とエール交換をして別れた。
 ポスター購入からすでに大変だけど、どうか1日、がんばりましょう!!

 ……てゆーか、わたしの後ろで1時間以上並び続けていた人たち、無事に購入できたんだろうか……。
 ラストディ会場ではふつうに購入できたらしいが、ラストディのチケットすらなくて、キャトレで購入することだけを頼りにしていた人とかいたら、どうするんだろう、歌劇団。
 大切な大切な、記念の日なのに。記念のグッズなのに。
 ひどい扱いだ……。

 
「帰ってこないから心配したよー」
「ちょっと行ってくる、って言ったまま……」

 喫茶店に戻り、友人たちに泣きつく。おなかすいたよー、つらかったよー。並ぶことが苦痛なんじゃなく、キャトレの対応のアホさ加減にストレス溜まったよー。

 そんな、歴史には残らない闘いが、たしかにあった、あの日。


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