『君を愛してる−Je t’aime−』のいいところのひとつは、登場人物それぞれの視点に、それぞれの物語があること。

 物語とは人間が関わり合うことで成り立っている。多くの人間、多くの人生が交差した物語ほど、視点を変えるおもしろさがある。
 まあ、「キャラが立っている」という一言に集約できるんだけどね(笑)。

 つーことで、今回はアルガン様@ゆみこの視点で考えてみる。
 

 アルガンってさ、ジョルジュのこと、「知らない」よね?(笑)

 大物プロデューサー、アルガン氏。若くして成功した時の人。強引で俺様。
 弱小サーカスを出発点にしたが、今は大きなサーカスを経営する身。恋人アリ。

 そう、「恋人アリ」。

 アルガンは、マルキーズと別れたつもりナイよね?(笑)

 「生き方がチガウ」ということで、マルキーズ@となみはアルガンとは「別れた」と言っている。
 実際、「わたしたち、もう終わりね」「別れましょう」とか、すげー身も蓋もない定例句をマルキーズは言ったんだと思う。なにしろキムシン脚本だし。

 でもアルガンは、それを本気にしていない。
 ただの「ケンカ」だと思っている。アルガンがマルキーズのサーカス団を出て別の道を選んだことで、ギクシャクしてしまったのだと。
 いろいろあって今はうまくいってない。でもきっと彼女はわかってくれる。いや、わからせてみせる。
 強引で俺様な彼は、ナチュラルにそう信じている。

 でないと、プロポーズしないって。

 とっくに別れた、別の男のいる女に、いきなり脅迫まがいのプロポーズしないって。

 アルガンは、ジョルジュ@水を知らない。
 だって彼の世界では、マルキーズは変わらず彼の恋人。スターのマルキーズに入れあげたファンが彼女の周りをちょろちょろしていることなんて、別にめずらしくない。
 だから何度か目が合うくらいのことはあっても、その存在を認知していない。気にしていない。

 ケンカしたまま、ぎこちなくなってしまっている恋人。
 彼女をしあわせにしたい。彼女としあわせに生きたい。
 彼女をしあわせにする術が、彼にはある。その明確なプランがあるのに、彼女はうんと言わない。
 彼女が求めるモノは彼が信じる道に不要だと思うモノが多いのだけど、それを彼女が欲するなら受け入れよう。すべては、彼女のために。
 彼にとって不要なモノでも、それがあることで彼女が満ち足りるなら、譲歩しよう。

 素直じゃない恋人。強情な恋人。
 あまりにこじれてしまっているし、彼もまた言葉が足りない、誤解されやすい人間だということは自覚している。
 ここはひとつ、強引に出よう。
 彼がアクションを起こすことで、アクシデントを乗り越えられるはず。

 だってふたりは、愛し合っているのだから。

 つーことで、プロポーズ。
 アルガン視点では、長年つきあってきた恋人に結婚を申し込んだだけ。

 自分が悪役になっているなんて、知らないから。
 や、多少悪だとは思っているけど、それは「俺って強引だな。悪い男だ。フッ」てな程度で、自分のやっていることが金にものを言わせて、泣いて嫌がる娘(恋人アリ)を妻にしようとする成金エロじじいみたいだなんて、わかってないから。

 サーカス団千秋楽貸切公演にて、乱入してきたジョルジュの「君を愛してる」、応えるマルキーズの「あなたを愛してる」は、寝耳に水。

 サーカス団のメンバー全員引き取るって言ったのに。ただの給料泥棒になるだけだとわかっている使えない団員まで全部、金を捨てるつもりで引き受けると言ったのに。
 団員たちはそれを断るし。
 そしてマルキーズもまた、自分との婚約を無視して知らない男と盛り上がっているし。

 ちょっと待て、なんだこの展開。
 俺、なに?
 俺、悪役?
 俺、空気読めない奴?
 俺、いい面の皮?

 いやあ、アルセストが飛び出してきたときのアルガン様がステキです。

 アルガンにとってはジョルジュだって十分知らない人。何度かサーカスで会ったというかすれ違ったというか「いたな、そんな奴」程度だっつーに、アルセスト@かなめに至っては「誰?」状態。
 人生の一大事、「ちょっと待て、僕との婚約はどーなった?!」と恋人に問いただしている肝心要なときに、いきなりまったく知らない男が飛び出してきて「君を愛してるっっ。許してくれ、ボクは臆病だったっっ」とかなんとか、いきなり別世界。
 でもってこれまたまったく知らない女が「ゆるしてあげるっ、だってあなたを愛してるっっ」で、ちからいっぱいラヴシーン・クライマックス。

 あの、俺の物語……俺が主役の……?

 目の前で突然怒濤の展開を見せる、ひとさまの物語についてゆけず、ぼーぜんと立ちつくすアルガン様が傑作です。

 すごすごと舞台奥へ退場していくアルガン様は、そこではじめて知るのだと思う。ここに、自分の「居場所」がないことに。

 彼の中の「物語」では、サーカス団の「時」は止まっていたのだと思う。
 彼がいた頃……彼が「このままじゃダメだ」と見捨てた頃のまま。
 シャルル@ひろみは頼りない若手のままだし、アルガンがいなくてはどーしよーもないのんきものたちの集まり、「仲間」だった頃のアルガンが見ていたままの世界。

 だから彼は知らなかった。
 シャルルが成長していることも、仲間たちが彼をもう仲間だと思っていないことも、マルキーズが本当に彼に反発し、嫌がっていることも。

 ジョルジュという知らない男がサーカス団に受け入れられ、「仲間」として輪の中で笑い、マルキーズに愛されていることにも。

 なにも、気付かなかった。
 気付けなかった。

 彼は、自分が見たいモノしか、見なかったから。

 マルキーズが他の男と婚約したとか、自分が振られたとか。
 それもたしかにヘヴィな事実で、彼を打ちのめしただろうけれど。

 それだけじゃなくて。

 アルガンに突きつけられたのは、「現実」。

 彼が彼であるがゆえに「見なかった」ものたち。
 彼の狭量さ。彼の愚かさ。

 だから。

 アルガンは、歌うんだ。

 なにもかも受け入れて。
 や、だって、振られても仕方ないじゃん? 自分が狭量だったせいなんだから。
 事実はずっとそこにあったのに、見なかったのは自分の愚かさ。都合良く解釈していた自分勝手さ。

 横から強引に恋人を奪われたなら、いくらマルキーズがその男を愛していたとしたって、許したりしない。自分の方がマルキーズを愛している、しあわせにできると信じられるなら、正面から闘うだろう。

 自分の足りなさ、至らなさを見せつけられたから。痛感したから。

 歌うしかない。肯定し、祝福するしかない。
 そうやって、前へ進むしかない。

 アルガンは、いろいろと不器用なだけの「イイ奴」だから。悪人でも理不尽でもない、等身大の青年だから。
 強引でも俺様でも、心に曇りのない人間だから。

 
 わたしはどっぷり三角関係が好きなので、主人公と恋敵の関係は濃ければ濃い方が好きだ。
 相手に対し深い感情を持っている方が、ひとりの女をめぐる関係がおもしろいものになるからだ。
 てゆーか主人公を中心に物語を描くのだから、2番手演じる恋敵は主人公に深く関係し、見せ場をいっぱい描くべきだと思っている。
 だからキムシンの前作『明智小五郎の事件簿―黒蜥蜴』では、「2番手演じる恋敵」を主人公が存在すら認識していないのが不満だった。恋敵もまた、主人公のことを大して重要視してなかったしな。不満不満。
 でも。

 『君愛』に関しては、未認識が萌え(笑)。

 それぞれの人生、それぞれの視点。
 アリでしょ、こーゆーの。

 あー、アルガン様、好きだなー。
 すげーいいキャラだ。

 レイチェル@圭子女史がんばれー(笑)。


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