「闇」を歌う女。@HOLLYWOOD LOVER
2008年1月14日 タカラヅカ 救いは、彼の愚かさだった。
ビリー@そのかが好きです。『HOLLYWOOD LOVER』において。
他のことはさておき、とにかく、ビリーが好き。
善良で物事を深く考えない、子どものような30男。妻と小さな息子がひとり。
子煩悩で陽気なパパで、愛情・友情に厚く、真面目に仕事に打ち込むごくふつーの感覚の男。
彼があまりにふつーに「いい家庭」をやっているから、「絵に描いたようなしあわせ家族」をやっているから。
そのほのぼの日だまりの横で、影がより鮮明になる。
ステファーノ@ゆーひ、ローズ@あいあい、リチャード@あひの三角関係もそうだけど。
ビリーの妻、マギー@あーちゃんの影。
物語の中で、多くは語られないが。
8年前、映画界で生きることを夢見た仲良し4人組……監督志望のステファーノ、駆け出しカメラマンのビリー、そして女優の卵ローズとマギー。
結局ローズは大物プロデューサーと結婚して大女優になり、マギーは引退してビリーと結婚、ビリーはそこそこ稼げるカメラマンになった。一度はハリウッドを追われたステファーノも、イタリアで成功して凱旋してきた。
仲良し4人組の中で、夢をあきらめたのは、マギーひとりなんだ。
もちろんそれで、悪いわけじゃない。不幸なわけじゃない。マギーは今も美しく、愛に溢れた生活を送っている。夫と子どものためだけに生きる人生が、まちがっているわけじゃない。
恋人だったステファーノを捨てて権力者の妻となり、大スターとなったローズに対し、割り切れないモノを抱えている。
マギーとはまったく逆の生き方……愛を取って夢を捨てたマギーと、愛を捨てて夢を叶えたローズと。
や、たとえマギーが愛を捨て仕事だけに打ち込んだとして、スターになれたかどうかは定かではないが。
とりあえず彼女は自分から可能性を捨てた……らしい。
少なくとも本人はそう思っている。思い込もうとしている。
女優として先が見えるから結婚したのではなく、愛を選んだために女優をあきらめたのだと。
彼女の中にある、闇。歪み。
ローズへの嫉妬。
闘う前に棄権して、「愛」という美しい「棄権理由」まで手にしているくせに、闘って栄光を得た友人を嫉んでいる。
私が栄光を手に出来なかったのは「棄権」したからであり、「愛」という美しいものを選んだためである。「棄権」しなければ、「愛」を捨てるという、ローズのように非道なことができれば、私だって栄光を手にしていたのに。
きれいで気の利く完璧な奥さん、である自分に価値を認めていながら、心のどこかに棘がある。
ローズを嫉み、彼女の不幸を悦ぶ棘がある。
それは、自分自身を傷つけつづける棘で。
マギーは、ローズがステファーノと再会し、愛を手にしようとしているのを許せず、リチャードに密告する。
愛を捨てて、代わりに他のすべて、それこそ「アメリカ中の女の子があこがれる」地位にいるローズ。
なのにそのローズが愛まで手に入れてしまったら。
マギーの人生が、否定される。
ローズが大スターなのは、しあわせなのは、「愛」を捨てたから。
私は「愛」を捨てるなんてひどいことはできないから、スターになれなかったの。
その言い訳が、成り立たなくなってしまう。
ローズが、なにもかも手に入れるなんて。
富も名声も得た上に、愛まで手に入れるなんて。
じゃあ、愛を選んで女優としての未来を閉じた私はどうなるの? 私はなんなの?
や。
それだけの人間、それだけの器だったんだよ。
それだけのことなんだよ。
……でもそれは、認めたくない真実で。気付いてはならないことで。
密告した理由を、「リチャードを裏切ってはいけないから」とかなんとか、微妙に辻褄の合わないことで誤魔化しながら。
ローズがふつうの精神状態なら、マギーの真実に気付いたかもしれないけど、彼女もそれどころじゃなかったのでマギーの言い分を信じ、というか考えることもせず受け止めてしまった。
おかげでマギーはさらに袋小路に入る。
「嘘つき。わたしを嫉んでたんでしょう」
そう言ってローズが責めてくれたなら、爆発することが出来たのにね。
何年も抱え込んでいた澱をすべて。
でもローズは自分の傷に手一杯で。マギーのことまで考える余裕はない。
ステファーノは気付いていたよーな気がするけれど、彼は女性にそんなひどい問いを突きつける男じゃない。むしろ、密告という行為をしなければならないほど追いつめられたマギーの精神状態を気遣う男だ。
そして、一連の流れを全部目のアタリにしながら、思いっきり当事者のひとりであるはずの、マギーの夫ビリーは、なにもわかっていない。
マギーの言い訳をそのまま信じているんだろう。不倫はいけないよなそりゃ。マギーは既婚者だから、その立場で考えれば友だちの不貞を正しても不思議じゃない。
ビリーはナニも気づかない。
マギーの抱える闇、毒、絶望。
なにひとつ。
そのくせ、愛している。
闇を、毒を、絶望を抱えたマギーを。
受け入れている。
たとえマギーがすべてぶちまけたとしても、ビリーは変わらないだろう。
だって彼は「わからない」、今まで気づかずにいたのだから、言われたところで「そーゆーもんか?」と思うことは出来ても真実理解は出来ない。
だから彼は受け入れるだろう。
汚れたマギーを。
ただ、愛して。
その腕で抱擁し、すべての重荷をその背で背負うだろう。
真実に届かないまま。そんなもん、どーでもいいとばかりに。理解しないまま、マギーの闇を、毒を、絶望を、全部肯定して。
抱えていたものを打ち明けるマギーに、「ぜんぜん気づかなかった」と真顔で言ってしまう男。
や、一歩まちがうと離婚言い渡されるぞ、その台詞。でも、それくらいすげえ台詞だってことすら、ビリーは気づいていない。
あまりにも、愚かで。
その愚かさこそに、救われる。
ビリーが好きだ。
この大らかな光は、多少の闇とか毒とか、全部まるっと「なかったこと」にして包んでくれる。
わたしから闇や毒が消えることはないけれど、絶望がなくなることはないけれど、大丈夫。生きていける。アナタがいるから。
素直に、そう思える。
マギーはきっと、これからもいろいろ悩んだり迷ったり嫉んだり、すると思う。
ローズのことだけでなく、いろんなことに。
自分の人生を後悔したりすると思う。
そのたびに、ビリーに救われるのだと思う。
そのために、ビリーがいるんだと思う。
傷だらけのまま、生きていく。
その傷すら愛してくれるひとと共に。
ビリーが好きだ。
彼に会いたいと思う。
ビリー@そのかが好きです。『HOLLYWOOD LOVER』において。
他のことはさておき、とにかく、ビリーが好き。
善良で物事を深く考えない、子どものような30男。妻と小さな息子がひとり。
子煩悩で陽気なパパで、愛情・友情に厚く、真面目に仕事に打ち込むごくふつーの感覚の男。
彼があまりにふつーに「いい家庭」をやっているから、「絵に描いたようなしあわせ家族」をやっているから。
そのほのぼの日だまりの横で、影がより鮮明になる。
ステファーノ@ゆーひ、ローズ@あいあい、リチャード@あひの三角関係もそうだけど。
ビリーの妻、マギー@あーちゃんの影。
物語の中で、多くは語られないが。
8年前、映画界で生きることを夢見た仲良し4人組……監督志望のステファーノ、駆け出しカメラマンのビリー、そして女優の卵ローズとマギー。
結局ローズは大物プロデューサーと結婚して大女優になり、マギーは引退してビリーと結婚、ビリーはそこそこ稼げるカメラマンになった。一度はハリウッドを追われたステファーノも、イタリアで成功して凱旋してきた。
仲良し4人組の中で、夢をあきらめたのは、マギーひとりなんだ。
もちろんそれで、悪いわけじゃない。不幸なわけじゃない。マギーは今も美しく、愛に溢れた生活を送っている。夫と子どものためだけに生きる人生が、まちがっているわけじゃない。
恋人だったステファーノを捨てて権力者の妻となり、大スターとなったローズに対し、割り切れないモノを抱えている。
マギーとはまったく逆の生き方……愛を取って夢を捨てたマギーと、愛を捨てて夢を叶えたローズと。
や、たとえマギーが愛を捨て仕事だけに打ち込んだとして、スターになれたかどうかは定かではないが。
とりあえず彼女は自分から可能性を捨てた……らしい。
少なくとも本人はそう思っている。思い込もうとしている。
女優として先が見えるから結婚したのではなく、愛を選んだために女優をあきらめたのだと。
彼女の中にある、闇。歪み。
ローズへの嫉妬。
闘う前に棄権して、「愛」という美しい「棄権理由」まで手にしているくせに、闘って栄光を得た友人を嫉んでいる。
私が栄光を手に出来なかったのは「棄権」したからであり、「愛」という美しいものを選んだためである。「棄権」しなければ、「愛」を捨てるという、ローズのように非道なことができれば、私だって栄光を手にしていたのに。
きれいで気の利く完璧な奥さん、である自分に価値を認めていながら、心のどこかに棘がある。
ローズを嫉み、彼女の不幸を悦ぶ棘がある。
それは、自分自身を傷つけつづける棘で。
マギーは、ローズがステファーノと再会し、愛を手にしようとしているのを許せず、リチャードに密告する。
愛を捨てて、代わりに他のすべて、それこそ「アメリカ中の女の子があこがれる」地位にいるローズ。
なのにそのローズが愛まで手に入れてしまったら。
マギーの人生が、否定される。
ローズが大スターなのは、しあわせなのは、「愛」を捨てたから。
私は「愛」を捨てるなんてひどいことはできないから、スターになれなかったの。
その言い訳が、成り立たなくなってしまう。
ローズが、なにもかも手に入れるなんて。
富も名声も得た上に、愛まで手に入れるなんて。
じゃあ、愛を選んで女優としての未来を閉じた私はどうなるの? 私はなんなの?
や。
それだけの人間、それだけの器だったんだよ。
それだけのことなんだよ。
……でもそれは、認めたくない真実で。気付いてはならないことで。
密告した理由を、「リチャードを裏切ってはいけないから」とかなんとか、微妙に辻褄の合わないことで誤魔化しながら。
ローズがふつうの精神状態なら、マギーの真実に気付いたかもしれないけど、彼女もそれどころじゃなかったのでマギーの言い分を信じ、というか考えることもせず受け止めてしまった。
おかげでマギーはさらに袋小路に入る。
「嘘つき。わたしを嫉んでたんでしょう」
そう言ってローズが責めてくれたなら、爆発することが出来たのにね。
何年も抱え込んでいた澱をすべて。
でもローズは自分の傷に手一杯で。マギーのことまで考える余裕はない。
ステファーノは気付いていたよーな気がするけれど、彼は女性にそんなひどい問いを突きつける男じゃない。むしろ、密告という行為をしなければならないほど追いつめられたマギーの精神状態を気遣う男だ。
そして、一連の流れを全部目のアタリにしながら、思いっきり当事者のひとりであるはずの、マギーの夫ビリーは、なにもわかっていない。
マギーの言い訳をそのまま信じているんだろう。不倫はいけないよなそりゃ。マギーは既婚者だから、その立場で考えれば友だちの不貞を正しても不思議じゃない。
ビリーはナニも気づかない。
マギーの抱える闇、毒、絶望。
なにひとつ。
そのくせ、愛している。
闇を、毒を、絶望を抱えたマギーを。
受け入れている。
たとえマギーがすべてぶちまけたとしても、ビリーは変わらないだろう。
だって彼は「わからない」、今まで気づかずにいたのだから、言われたところで「そーゆーもんか?」と思うことは出来ても真実理解は出来ない。
だから彼は受け入れるだろう。
汚れたマギーを。
ただ、愛して。
その腕で抱擁し、すべての重荷をその背で背負うだろう。
真実に届かないまま。そんなもん、どーでもいいとばかりに。理解しないまま、マギーの闇を、毒を、絶望を、全部肯定して。
抱えていたものを打ち明けるマギーに、「ぜんぜん気づかなかった」と真顔で言ってしまう男。
や、一歩まちがうと離婚言い渡されるぞ、その台詞。でも、それくらいすげえ台詞だってことすら、ビリーは気づいていない。
あまりにも、愚かで。
その愚かさこそに、救われる。
ビリーが好きだ。
この大らかな光は、多少の闇とか毒とか、全部まるっと「なかったこと」にして包んでくれる。
わたしから闇や毒が消えることはないけれど、絶望がなくなることはないけれど、大丈夫。生きていける。アナタがいるから。
素直に、そう思える。
マギーはきっと、これからもいろいろ悩んだり迷ったり嫉んだり、すると思う。
ローズのことだけでなく、いろんなことに。
自分の人生を後悔したりすると思う。
そのたびに、ビリーに救われるのだと思う。
そのために、ビリーがいるんだと思う。
傷だらけのまま、生きていく。
その傷すら愛してくれるひとと共に。
ビリーが好きだ。
彼に会いたいと思う。
コメント