ウメちゃん休演は、スポーツ新聞以外にも載っていたらしい。ふつーの新聞しか読まない弟が「トップ娘役休演」を知っていた。
「すごいゴタゴタしてるんだろうな」
 と、弟。
「うん、代役立てて公演するの、すごく大変だと思う。でも結局のところ、なにも知らずにやってきた団体さんとか、ヅカファンってわけじゃないお客さんには、トップ娘役が代役だってことわかんないくらい、完璧に仕上げてくるんだと思う」

 そう。
 ファンにしかわからないレベルまで、あの人たちは仕上げてくる。
 純粋に、すごいと思うよ。

 とゆーことで、宙組公演『黎明の風』『Passion 愛の旅』初日に行ってきました。

 芝居の『黎明の風』について、基礎知識はなにもありません。白洲次郎? 誰ソレ?状態。
 タニちゃんがマッカーサー役だというから、「ああ、その辺(時代)の話か」と思うくらいのもので。や、わたしモノ知らずだし。

 ただ、石田昌也作の轟悠主演というので、かなりテンションは低かった。
 わたし、『猛き黄金の国』キライなんよ……かなりの熱意でもって。ちなみに『再会』もキライでな……。石田とトドロキのコンビは鬼門なのよ。

 型破りな主人公@トドロキかっこいい、というだけの話なんだろうなあ。『猛き黄金の国』もほんとソレだけで、ソレを描くためにあと全部都合よくぶっ壊して、壊れているゆえに結局は主役もかっこよく見えないという、魔の悪循環にハマッた最悪な話……になるんじゃないかと、観る前から辟易していた。

 で。
 想像した通り、『黎明の風』も白洲次郎@トドロキがかっこいい、というソレだけを描くことを目的とした物語だった。

 でも、想像していたような最悪の物語でもなかった。
 『猛き…』よりずっとおもしろい。

 有史以来はじめて「敗戦国」となった日本は、なにしろはじめての体験でどーしていいかわからない。おろおろしている人々の中、ただひとり白洲次郎だけが「なにをするべきか」を考え、実行していた。
 立ち位置と目的の自覚がある次郎だけが、戦勝国司令官マッカーサー@タニと対等に「会話」することが可能だった。
 つーことで、激動の時代を背景に「国家」を背負った男たちの「銃を持たない闘い」が繰り広げられる……。

 戦争や国家のあれこれを描くわけだから、たしかに「男の格好良さ」を描くに適した題材だと思う。
 だから「ヒーロー」を描くことを命題としたタカラヅカで上演するのはアリなんだろう。
 エピソードが切り貼りなのは石田作品の常だが、それでもちゃんと盛り上がって「いい話」になっているのだと思う。

 だからこれはわたしの個人的な好みに過ぎないんだが……。

 わたし、この時代のこの物語では、「タカラヅカ」として夢が見られない……。
 
 ほんとに、個人的な、ただの趣味、好みの問題だが。

 現実に近すぎ、また、わたしの生きる場所と陸続きだと、そこを「異世界」だと割り切れなくて。

 現代が舞台でも、ふつーのラヴ・ストーリーならぜんぜんかまわないんだが。
 「戦争」とか「思想」とか、生々しいモノがあり過ぎて、ちとキツいっす。

 まったく同じストーリー、同じテーマでも、「どこかの架空世界」が舞台なら平気なんだけど。
 ドレスに宮廷服の世界で、ありそでなさそなヨコ文字国名の話なら、わたしはもっと素直に楽しめたろうな。
 モンペも防空頭巾も出てこないし、男たちの軍服もキラキラで、政治家たちもフリルに燕尾で巻き髪で、とにかく目に派手な「これぞタカラヅカ」な画面なの。
 だけどやってることはみんな同じ、テーマも同じ。架空の世界だからこそ、思想も自由に綺麗事も自在に展開できる。

 わたし、「スマスマ」その他でタニちゃんの美貌に興味を持ったヅカ初心者をエスコートする約束してるんだが、この芝居を観ながら「どーしたもんか」と考えちゃったよー。
 ヅカ未体験で美少年が好きなジャニーズ・ファンの人に、最初に観てもらう作品が第二次世界大戦で原爆でモンペで東京裁判で……って、どうしよう。
 神風特攻隊で昭和時代のアイドルみたいな格好で踊っちゃってるんだけど、どうしよう……。つかトド様の歌がモロに「ムード歌謡」だし……。
 や、その、泣ける作品なのはわかっているが、それとは別に、初心者エスコートのことがアタマにあったもんだからいろいろ困惑したさ……。
 同じくらいムード歌謡で昭和な世界だとしても、ドレスで軍服で愛だ恋だやっている話の方が、いわゆる「タカラヅカ」として紹介しやすいよな、と。

 なんでコレ、タカラヅカで上演してるんだろうなあ?
 ヒーローものだからアリなのかもしれないが、もっと適したカンパニーが外部にはありそうな気がする。

 
 とまあ、作品へのとまどいは置くとして。

 「トップスターが休演」しているなんて、知らない人にはわからないくらい、宙組のみなさんは完璧に見せてくれました。

 やっぱすごいよな。
 わかっていたけど、そうだと思っていたけど、素晴らしいよ。

 ウメちゃんにいてほしいと思う気持ちとは別に、今の公演をすごいと思う。

 でもって、主人公の白洲次郎@トドロキ。
 やっぱ、美しい人だ。

 「男役」としての美しさに感嘆する。

 「タカラヅカ・スター」としての彼の最盛期は過ぎてしまった感はあるんだが、「役者」としてはまだまだこれから深めていけるのだと思う。
 スター力とか歌唱力とかが衰えていく姿を見るのは正直せつないんだが、それでも彼がどこまで行くのかは見届けたい。(だから芝居だけでいいんだけどなぁ……)

 で、もうひとりの主役……というか、今回は組トップが完璧に「2番手」扱いなんだが、ソレはいいのか? とゆー疑問を持ちつつも、マッカーサー@タニちゃんが、かっこよくてびびる。

 あの、かっこいいんです、タニちゃん。
 かわいいんじゃなくて。

 どうしよう、タニがかっこいいなんて。おろおろ。(うろたえなくても)

 次郎は「おじさん」呼びだし、子どもも出てくる。でもマッカーサーは美しい妻とラヴラヴしているだけ、で、双方の年齢には触れていないのね。
 史実がどうあれ、そうやって年齢的なことは誤魔化してしまっているから問題ない。
 次郎とマッカーサーってどっちが年上だっけ? とか、そもそもこの人たちいくつだっけ? とか、考えずにふつーに目に見えるモノだけを見ていられた。

 かっこよく描かれた次郎と対峙する、それゆえにかっこよく描かれたマッカーサーだ、かっこいいってば。

 でも「格好いい役」を本当にかっこよく演じられるかは、やはり役者の力が必要だ。
 タニちゃんは、「格好いいマッカーサー」を演じていたよ。美貌が映える大人の男だった。

 今までいちばん格好いいタニちゃんを見た。

 白洲正子@たっちんは、代役だと思えない堂々たるヒロインぶり。
 トドロキと並んでいると、タイムスリップしたみたいなキモチになる。や、どこのトドグンかと(笑)。わたしがダイスキだった雪組、あのころを思い出すわ。
 
 いつもの石田歴史物なので女はいなくていい程度の扱いゆえ、正子も影薄いし出番もほとんどない。や、とりあえず舞台にはいるけどなー。
 それでもかわいらしくも骨太に、よくぞヒロインとして立ってくれました。

 
 他の感想はまたぼちぼちと。


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