こっそりとトドロキの話、その2。

 トドの舞台は、面白みがない。
 彼の舞台は、あまり変わらないんだ。初日からずっと。

「雪組って初日から出来上がってるのね!! ウチの組なんか初日は公開舞台稽古よ?!」
 とか、
「前半は観に来ないでね、ウチの組を観るときは千秋楽近辺にして。楽近辺でようやく8割出来上がって、東宝が本番だから」
 とか、他組ファンの人に言われ、雪組しかリピートしない(他組は1回観るだけ)のわたしは、ぴんと来なかったもんだ。

 なに言ってんの? 初日から仕上げてくるのが当然じゃん、プロなんだから。
 と、わたしもふつーに思っていた。あのころは(笑)。

 トドのファンをやっていたために、「ナマモノ」としての舞台の愉しみ方のひとつを、長い間知らなかったよーな気がする。や、よくも悪くも。
 もちろんトド様だって機械じゃないから、まったく同じであることはありえないんだけど、レベルっていうかトーンは揃えてくる人だったからさー。

 トップスターお披露目公演では、トップとも思えないひでー作品でひでー扱いを受け、次の作品では主要メンバー総入れ替えでわけわかんなくなっていて。
 トドは毛を逆立てて警戒して緊張して、すごい痛々しいことになっていたんだけど。

 変わっていくんだ。

 いつも同じ舞台を、四角四面に作ってくるトド。
 初日も楽も大した変化ナシ。
 そんな人だったけれど。

 アドリブでなにかするのが好きな人だけど、そーゆーことではなく、「舞台の空気」で「チガウ」こと、「ナマだということ」を感じさせてくれたときは、感動したなー。

 『再会』の1000days劇場公演で、「なんかトドちゃん変?」と首を傾げるほどテンションが高く、ラストシーンで相手役のぐんちゃん抱き上げてくるくる回り出したのを観た日にゃあ……ト、トドちゃんどーしたのっ?! と、目を疑ったさ……。
 

 トップ3作目『浅茅が宿』『ラヴィール』はとんでもない駄作で、ファンのわたしですら初日・新公・楽しか観なかった。
 やはり組の顔ぶれががらりと変わり、馴染みのない人たちが真ん中にずらりといることも、2作連続日本物ということもキツかった。

 『浅茅が宿』の入りが、あまりにものすごいことになっていたせいだろうか。

 千秋楽の日に、入口で急遽チラシが配られた。

「轟悠一人芝居『THE FICTION』」

 ……えーと。
 年間予定表に、こんな公演はありませんでした。
 『浅茅が宿』のあとにタータン主演の『凍てついた明日』の公演は決まっていて、ポスターも貼られていたけれど、トドのバウホール公演なんてものは、なかった。

 突然、決まったんだ。
 しかも日程がすごい。

 『浅茅が宿』大劇場公演千秋楽から、たった9日後。

 未だかつて、こんなタイトな日程の公演を見たことがない。
 告知が間に合わないから、大劇場でチラシ配りですよ、劇団の人。

 ひとり芝居?
 たったひとりでフタ桁もの役をやり、2時間弱演じ続けるのに、お稽古期間いったい何日あるの?

 ……トドロキの痛々しさは、ここで全開になっていた。
 求道者めいた芸風は、ここで極まったなと思う。

 期間は5日間。
 会に入っていないわたしは正攻法でチケ取りするしかなくて、全部は観られなかった。もちろん完売、サバキ待ちもしたけど手に入らなかったりしたし。初日と楽はなにがなんでも観たくて、バウ下のサバキ待ち場所で半泣きになっていたのもいい思い出(笑)。
 客席だけでなく舞台上にも客席が特設されており、ものすごく濃密な空間だった。
 とくに初日の、あの針が落ちてもわかるだろう緊張感。

 追いつめられて、追いつめられて。
 結局自身の実力で、技術で、這い上がってきたんだなと思う。

 この異様な日程のひとり芝居という、前代未聞の公演が意味するモノはなんだったのか。
 憶測・噂はいろいろ飛び交っていた。

 このひとり芝居のあと、中日『浅茅が宿』でケガをして演出変更、ダンス一切ナシ、階段降り羽ナシになったんだっけか。
 日程が合わなかったことと、なにより作品を嫌い過ぎて観には行ってないんだが。

 そのあとだ。
 4作目の『再会』『ノバ・ボサ・ノバ』。

 とにかく毎回顔ぶれが変わっていて。
 またしても主要メンバーに組替えがあり、ナルセ、コムのふたりが加わっていた……上に、ショーは彼らとトウコの役替わり付き。劇団もいろいろ考えるよな。

 まあそれはともかく、トドロキ氏。

 なんかすごく、たのしそうだった。

 ひとり芝居なんかしちゃうくらい、そしてそんなことを劇団がさせちゃうくらい「相手役いらず」に見えたトドロキが、ぐんちゃんのことを見ていた。たのしそうに。

 『再会』は、自分以外興味なさそうなトドロキが、異次元生物ぐんちゃん(笑)に心を開いていく過程、という意味ではすげー興味深かった……。

 えーと、ぐんちゃんと組んで3作目だよね? 今ごろですか、警戒心解くの?
 突然のひとり芝居やらケガやらで、なにかしら心境の変化があったのかなんなのか。
 舞台しか観てない者には、知りようもないが。

 彼女への愛情が高まっていく様が、日を追うごとにわかるのね。
 1000daysまで行くと、そのコワレっぷりに「いいパートナーができて、よかったね」と涙したもんだよ……。トドの浮かれっぷりが恥ずかしいやら微笑ましいやらで。
 孤高の人だったから余計に、「共に歩む相手」ができたことがうれしかった。

 それまでまともに恋愛する役をやったことがなく、「キスシーンをしたことがない」という男役トップスター轟悠。

 そんな硬派な彼が、政略結婚をさせられて。

 最初は警戒心むき出しだったのが、どんどん鎧がはがれていき。やがて。
 嫁にめろめろになってます。

 は、恥ずかしい。
 こんな人だったの、トド様って。

 ぐんちゃんに対する態度が、愛情ダダ漏れ。ソレが妻に対する男の愛情なのか、愉快なイキモノを愛でているだけなのかまではわかんないにしろ、とにかくぐんちゃんのことを好きなのは、よーっくわかった。
 ぐんちゃんのことがおもしろくてならないらしい。
 たのしくて、かまっていたい、見ていたい、と思っているようだ。

 トドって結構、バカップル属性だったんだー……。

 と、嫁にメロメロなのを隠しもしない姿に、長年のファンはあきれるやら恥ずかしいやら。

 なにをやっても同じテンション、同じ舞台を作るトド様ですら、こうやって変化をまんま舞台に上げてくることがあった。
 なつかしいなあ。

 ぐんちゃん抱き上げて(姫抱っこにあらず。トド様非力だからそんなことできっこない・笑)、ぐるぐるいつまでも回られて、ぐんちゃんがきゃーきゃー言って笑って、バカバカしいけどしあわせで。

 ……まあその、そのあとぐんちゃんとナニがあったのか知らないが、関係が冷えていったのは、やはり舞台から感じられたけれど。
 最初はラヴラヴだったのよ。
 蜜月は、たしかにあったのよ。

 トドが変わり、組自体がまとまって、加速していくのを肌で感じた。
 このあとの『バッカスと呼ばれた男』『華麗なる千拍子’99』と。
 客入りのことは置いておいて(笑)、組ファンとしてトップファンとして、組のベクトルが正しくまとまったときの快感は言いようもない。
 

 作品ごとで、トドの演技自体はあまり変化がない(除く『再会』)。
 面白みのない人だと思う。

 でも、彼のヒストリーはやはりおもしろい。
 これからどこへ行くのか、興味深い。

 トド様がどんな人かなんか、わたしみたいな末端ファンにわかるはずもないけれど。

 ファンやって20年。
 新しい轟悠を見たいと思う。

 「専科」として、脇で舞台を締める……それは、主演を務めるとはまた別の重責であり、価値のある舞台人の姿だと思うのだけど。
 トド様は、脇の姿はもう二度とファンに見せてくれないのかなあ。いぶし銀の魅力を見せてほしいんだがなあ。


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