原作関係なし、舞台の上で表現されたものだけを素材に、『愛と死のアラビア』を作り直してみよう!その3。
 イチから作るのではなく、今すでにあるクライマックスを「変えてはならない」として、コレを盛り上げるためにナニが必要かを考える。

 
 エジプトの「敵」を明確にし、トマスが「エジプト」を愛し、そこで生きることを決意する。
 だからこそ、エジプトの未来のために死を選ぶんだ。
 処刑を目前にしたトマスが、トゥスンたちへ歌う歌も、「インシャラー」ではなく「美しいエジプト」とか、「カイロの子守歌」(曲名、超てきとー・笑)とかだ。
 ベタベタな「悲劇」「けなげ」にすることで、観客の涙を誘ってくれよ。
 
 
 次に、「2.一夜限りの妻となるアノウド」ですが。

 今のままだと、アノウド、いらないよね?

 彼女には人格がないし、そんなみょーな女と恋愛するなんてのは、トマスの男ぶりを下げるだけ。
 いつ彼女を愛したのかもわからないし、「近くにいる女なら誰でもいいの?」的、無節操さにもつながる。

 でもさ、すげー簡単なんだよ、アノウドをヒロインとして、ちゃんと描くのって。

 トマスに破綻したわけわかんない愛の歌を歌わせるヒマがあったら、アノウドに愛の歌を歌わせろ。

 ぶっちゃけ、ソレだけでイイの。
 四の五の説明したり、ふたりの心が近づく場面とかで時間とらなくても。
 今の『愛と死のアラビア』がキモチワルイのは、アノウドに人格がないから。
 彼女がナニを考えているのか、どうしたいのかを、彼女自身に語らせれば良いんだ。

 奴隷となって現れたアノウドにトマスがショックを受け、わけわかんない歌を長々と歌う。
 あの場面を変更するだけでいい。
「彼女と自分はこんなにチガウ、理解し合うことはできないのか? てゆーか奴隷って、俺のことそんなふーに見てたのか?! がーんがーん」→「こんなにショックを受けるなんて、実は俺、あの子のこと好きなんじゃ?」
 とゆー、トマスと。
「愛しています。でも、この愛を口にすることは出来ない。奴隷でも側にいることが出来たら、それだけでしあわせなの」→「真実は封じて、耐えますわー、お仕えしますわー」
 とゆー、アノウド。

 歌と独白で、簡単にふたりの立ち位置を解説できる。
 そーすりゃ恋愛モノとして、成立する。

 ふたりそれぞれの事情をひとりずつ歌い、最後に「愛しているけれど、伝えてはいけない」という意味の歌詞をきれーにハモってみせるなりしてくれ。ベタにせつなく盛り上げてくれ。

 いちばんいいのは、ふたりの心が近づく過程を描くことだけど、そんな時間ないから。限られた時間の中で、最低限コレだけやればカタチは作れるんだってば。

 アノウド視点が存在しない。……それが、この芝居が気持ち悪くなっている原因。
 彩音ちゃんにものすげー演技力があるならともかく、今の彼女にはトマスへの気持ちを「言葉で説明」させなきゃダメだよ。

 もしもあともう数分時間を取れるなら、ベドウィンのキャンプでも、アノウドの語りを入れさせる。感謝の気持ちが恋になっていることを、侍女相手に告白させればいい。
 また、トマスがカイロに行っている間、場面転換の時間稼ぎでいいからアノウドを出して、トマスを想っていることを独白させる。トマスのおかげで身は守られているけれど、トマスがいないのなら安定に意味などない、とキャンプを飛び出し、危機に陥る→イブラヒムの手の者に助けられる、とか。
 時間が許す限り、彼女が彼女のできる範囲で、彼女の生きる宗教と掟の中で、最大限あがいているのだとエピソードを入れる。
 ぶっちゃけ、ふたりの出会いのまだるっこしい会話(「妹の名を訊ねることは許されていますか」とか、自己紹介だけで何分使うんだ)を短縮して、場面分けるべき。

 両想いなのに、すれ違っている。
 という図式を、明確にする。

 トマスはムハンマド・アリたちの前で改宗を宣言するわけだから、晴れてアノウドと結婚も出来るよーになる。でも、彼女に会ってプロポーズする前に、アジズとの決闘になって、投獄されるわけだからラストシーンには響かない。

 牢獄でアノウドと再会し、正式にプロポーズ、一夜限りの夫婦となる……わけだ。
 あ、「お兄様では結婚できない」「様はいらない」とかのお笑い会話はカットね(笑)。

 
 次に、「3.トゥスン、イブラヒムとの友情」だけど。
 トゥスンとの関係はさんざん描いているからもういいとして、イブラヒムなんだよね。
 今のままではイブラヒムが一方的に、勝手に盛り上がっているように見える。
 だから、トマスとイブラヒムの友情場面を「わかりやすく」する。

 イブラヒムは、わざわざアノウドを連れて来ることで、トマスへの好意を示している。ここでトマスときたら潔いほど、イブラヒムに興味がない。
 可哀想だから、ソレ!(笑)

 ついでに、イブラヒムとトゥスンの関係も表現しておいた方が、クライマックスがより盛り上がる。

 トマスの屋敷にわざわざやってきたイブラヒムと、トゥスンの話をする件で、もっと彼らの精神的関係に言及する。
「ほんとにオマエはトゥスンが好きなんだな」
 と言うイブラヒムに、「アナタだって弟がかわいくてしょーがないんでしょう?」てなツッコミをするトマス。
 ここをもう少し、わかりやすくする。

 突っ込まれたイブラヒムがわざとらしく咳払いをひとつする、それを見てトマスが笑う、とかで事は足りる。

 そして、「トゥスンは戦争に行くが、キミはココで留守番だ」てな話を、もっと突っ込んだ展開にさせる。

「トゥスンと一緒に行きたい」「無理だ」「そこをなんとか」「ダメだ」と、あくまでもイブラヒムにツンツンさせておいて、「太守に直談判すれば、どーにかなるかもよ? トゥスンも王宮に来ていることだし」とヒントを与える。
「そうか。ありがとう、イブラヒム」(満面の笑顔。がしっと彼の手を握る)
「……私はなにもしていない」(仏頂面。でも内心パニック……手、手握られちゃったよ!!)
 とか、大した時間をかけずに、ふたりの関係性を明確に出来るのに。

 イブラヒムは実はトゥスンのことがかわいくてならない良きおにーちゃんで、加えてトマスの魅力にメロメロになっていることを、ちゃんと描いておく。イブラヒム自身は、あくまでもクールに。

 イブラヒムがトマスを助けるつもりで牢獄にやって来たのだというのを、最後のどんでん返しとして温存したいのだとしても、彼のトマスやトゥスンへの好意を事前に描いておいて損はない。
 イブラヒムは冷静な政治家でもあるわけだから、たとえどんなにトマスたちに愛情があろうとも、冷酷に手を下せるのだ、と思わせておけばいいだけのことだから。
 ほんとうは愛情深い人、だとアピールしておく方が、武装して突入して来ることで、「あのトマスにメロメロな人(笑)が、あんなことを!」とか「あんなに弟大好きなおにーちゃん(笑)が、あんなことを!」と観客を切なくさせるはずだ。

 そして、ほんとはトマスを助けに来たんだとわかったときは、「やっぱりね(笑)」と、望んでいた行動に観客は喜ぶはず。

 
 クライマックスの、トマスの牢獄場面をとことん盛り上げるために、逆から物語を探ってきた。

 エジプトの「敵」を明確にし、トマスが「エジプト」を愛し、そこで生きることを決意する。
 アノウド視点を入れることによって、「両想いなのに、すれ違っている」という図式を、確立させる。
 イブラヒムがトマスにもトゥスンにも愛情を持っていることを、表現しておく。

 これらのことを満たして、物語全体を作り直してみよう。


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