花組公演『愛と死のアラビア』『Red Hot Sea』千秋楽。

 ずっと気になっていた。
 公演が進むにつれ、まとぶさんの声が涸れていっていること。
 フィナーレのリフトの回転数と速度が落ちていること。

 それでも彼は、一度もアクセルをゆるめなかった。わたしが知る限り、一度も。
 いつでも全開だった。

 トマスという役は、「抜く」ところがない。いつも全力で力強く存在している。唯一のやわらかい場面である「インシャラー」でさえ、トマスは「抜く」ことがない。「主役」であること、「トップスター」であることを強く表現している。
 思えばまとぶんという人は、いつもそーゆー全力過ぎる姿勢で舞台に臨む人だった。前回の『アデュー・マルセイユ』のおちゃらけ酔っ払いシーンでさえ彼は、全力でギャグをやっていた。

 真面目な人だ。誠実な人だ。
 それが舞台から伝わってくる。

 涸れた声をものともせず、セーブすることなく楽をすることなく、今あるものすべてを客席めがけて放出する、姿。
 きっとすごく疲れているんだろうに、つらいんだろうに、手加減ナシに向き合ってくる、姿。
 衰えない目の力。なにかを「伝えよう」という、強い意志。

 彼がわたしたちの方を向いてくれているから、懸命になにかを投げかけてくれているから、わたしたちは彼を見つめるんだ。

 ……わたしは以前一応星担で、『落陽のパレルモ』から、花担になった。まとぶんの組替えと共に、やってきた。いやその、まとぶんのファンだっつーわけではなく、たまたま。
 ただの偶然だけど、星時代からまとぶんのことは見ていた。まとぶんがどんな人なのか知りようもないけれど、こうして彼の舞台を数年眺めてきて、どんどん、彼を好きになる。

 今の彼を、いい男だと思う。心から。
 ウチのトップさんはこんなに素敵なんだと、大声で言って回りたい(笑)。

 わたしはオサ様シンパなのでどーしても彼への想いを残しているのだれど、それとは別。今の花組トップスターはまとぶんだ。

 まとぶんは、いい男に成長した。たしかに大人で、それゆえの分別や義務感を持ち、されど青さと「大人未満」の男が持つ熱さを併せ持つ。
 破綻ない実力と若さは、今現在の能力だけに留まらない、未来の可能性をも内包し、わくわくさせる。

 ただ、真ん中の彼を改めて見つめたことで、問題点も見えた。
 「抜く」ことを知らない彼の舞台は、ある意味、疲れる。
 熱演なのはわかるが、ずっと熱演なので、おちゃらけてさえ熱演なので、めりはりに欠ける。彼の舞台を退屈だと思う人も、いるかもしれない。
 誠実さ熱意ゆえに殻が厚く、せっかくのパワーを内側でくすぶらせている面もある。
 生来の顔立ちの美しさに加え、男っぽさ、濃さを売りにしているのはわかるが、力任せになりすぎている気はする。ずっと声を張り上げて強く演技しつづけることだけが、男っぽさ・濃さじゃないと思う。

 長所と短所は紙一重で、「そこが惜しい」と思う部分を「そこが素敵」と思う人もいる。だから一概にどうこう言えるもんでもないんだが。

 今の体力配分も気力温存もあったもんぢゃねえ、いつでも全力疾走! 吠え続ける芸風! を愛しいと思いつつ、手抜きではなく舞台での空気を「抜く」ことをおぼえ、自在に「世界」を操れるようになる未来に、期待する。
 彼の実力と向上心、誠実さは、さらに高みを見せてくれるだろうと、素直に思えるんだ。

 
 作品に恵まれたとは言い難い本拠地お披露目公演ではあったけれど、駄作を塗り替えるのがトップの仕事、真正面からぶつかっていくまとぶんと花組を愛しく見つめた。
 これが、新しい花組。今の花組。そのことに、純粋にときめいていたい。

 つーことで。

 芝居『愛と死のアラビア』では、とくにアドリブはなかったと思う。
 ただただ熱演だった。

 トマス@まとぶさん、公演も後半になるとエンジン掛かりすぎちゃって、ラストシーンが歌舞伎になるんだよなー(笑)。
 兄弟対決まではいいんだけど、そのあとのアノウド@彩音ちゃんとのシーンが、『ベルばら』調、植爺歌舞伎。台詞の語尾の回し方(回すんですよ、これがなんと)、溜めの作り方、なにもかもノンストップに大芝居。
 星組育ちって、こーゆーことなのかー、と思ったり(笑)。
 彩音ちゃんは相変わらず風の吹き抜けるようなお芝居してるんで、噛み合ってなくてサワヤカです。いやその、ふたりでいきなり拍子木が聞こえてきそうな大歌舞伎やられてもこまるんで、彩音ちゃんの流しっぷりがちょうど良いというか(笑)。

 千秋楽もトマスが絶好調に歌舞伎をはじめたので、「キタキタ、コレがなきゃトマスぢゃないわ☆」とよろこびました。

 ショー『Red Hot Sea』ではまとぶさん、「幽霊船」でいつも「幽霊?」と言っているあたりで「幽霊……がいるかは、すべては神の思し召し」と「どっかで聞いた」台詞を言って笑いを取ってた。
 いつもは単語を口にするだけなので、千秋楽はふつーより長く喋っていたことになる。最後抱き合ってオチをつけなければならないみわさんが、「ゆうさん、どう出るの??」と言いたげに横目でまとぶ氏をガン見していたのが興味深かったです(笑)。や、全身でタイミングを計ってるの、みわっち。いつなにがあっても対応するぞ、と。
 
 まとぶとみわっちのコンビ、好きだわー。

 
 退団者ふたりがいつもにも増して、きらきらと美しかったのは、言うまでもなく。

 わたしは芝居でのかりやんの役名を知らないのだけど、ベドウィン音頭の最初、トゥスン@壮くんが叫んだのってかりやんの名前だよねえ? 彼の顔見ながらだったし。かりやんもすっげーいい顔で「にっ」と笑っていたし。
 みほちゃんの芝居でのダンスシーンにはそれぞれ登場と終了に拍手が入るし、ショーのみほちゃんかりやんが並んでまとぶんの後ろで踊る場面では、拍手が沸き上がり、そのまま手拍子になったのは、胸が熱くなった。
 ふたりがまた、いい顔で踊るんだ。
 まっすぐに前を向いた、明るい、なにか突き抜けたような表情でね。

 「引き潮」場面では、みほちゃんが白いリボンで髪を飾っていた。
 シンプルな白のドレスを飾らない代わりに、清楚な細いリボン。
 そのダンスも笑顔も、透明に輝いていて、この世のモノではないようなのに、その女の子らしいリボンが、彼女を現実の存在だと教えてくれているようで、光の中に消えていきそうな美しさとの対比になっていて、なんだか見ていて苦しかった。
 いっそ夢夢しいだけの存在なら、よかったのに。この美しさは現実のモノで、そして現実に彼女はこの夢の世界から去っていってしまうんだ……。
 美しくて、ただもう美しくて、切なかった。

 
 組長が読み上げるかりやんからの「メッセージ」がすげーおもしろかった。
 伝説の新人公演『ミケランジェロ』、かりやんも伝説を作っていたのか……。花組新公初心者のわたしは、そのかとりおんちゃんの印象ばかりだったよ……。
 ダビデ像を見上げての初台詞にて、かりやんは思い切りカマシてしまったらしい。彼のあまりのアレさに、劇場中のオペラグラスが上がった、と。あれほど劇的に注目されたのは最初で最後だと。
 ……そ、そうか……舞台上の役者って、自分に向かってオペラが上げられるのがわかるもんなんだ……失敗したと青ざめているときに、一斉に自分に向かってオペラが上げられたら……そりゃー、すげえ体験だなあ……。
 この調子で、『ハロー!ダンシング』の「ブエノスアイレス」での歌のアレさや失敗ぶり、『Appartement Cinema』のアレっぷりを、自虐ギャグとして披露していた。
 おもしろい子だったんだなあ、かりやん……。

 ふたりとも袴姿でまっすぐに挨拶をして、清々しく別れの言葉を述べていました。
 カーテンコールでまとぶんに「なにか一言」と振られ、それぞれ「花組最高!」「大好き!花組」と叫ぶんだけど……みほちゃんが叫んだあとまとぶんが「かわいい♪」とつぶやいていたのが、さらにツボ(笑)。まとぶん、マジでおにーさんモードだなあ(笑)。
 その「かわいい♪」という、素で愛しそうな、たのしそうなひとりごとすら、かすれていて。まとぶん、ほんとにがんばったね。

 しばらく休んで英気を養って、元気に東宝に行って欲しいと思う。


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