すっかり忘れていたんだけれど、わたしは初演の『雨に唄えば』を3回観ていたらしい。2回だと思い込んでいた。そっか、遠征を2回したんであって、観劇自体は3回だったんだな。

 もう5年も前になるのか。
 日生劇場で上演された『雨に唄えば』は、超絶チケ難公演でねぇ。チケットは即日完売、掲示板には「求む」があふれ、えらいことになっていた。
 手に入れるのに、すげー苦労した記憶がある。
 

 前年からはじまった日生劇場公演。その『風と共に去りぬ』がまた、すげーチケ難で。とくにコム姫スカーレットの前半日程はとんでもないヒートアップぶりだった。
 その記憶も新しく、「日生公演は特別」な印象が強かった。実際、複数の組を巻き込んだ特別公演、劇団的にもかなり力の入った演目をするハコだと。
 第2弾がヅカでは初演となる有名海外ミュージカル『雨に唄えば』だ。
 トップ交代があったばかりの星組で、2番手トウコが主演を務める。月組から宙組へ異動が発表されたばかりのタニちゃんが、組を超えて2番手として出演。ヒロインは研4になったばかりで新公ヒロインさえ未経験のウメちゃん。準ヒロが星組で急激プッシュを受けて特別扱いまっしぐらの美形男役まとぶん。
 これらのことからでも、どれだけ「特別」な公演としてヅカファンの話題をかっさらったか。

 前年の『風共』しか前例がないため「日生ってトドロキクラスの人が主演するものなんじゃないの?」てことで、トウコちゃん主演に巷では物議が醸された。
 今なら2番手クラス主演公演でなんとも思われてないけど、最初は「トップが主演すべきもの」だと思われていたから、ややこしかった(笑)。
 また当時は新専科制度が残っており、トウコはそれまで2番手とは言っても組内2番手に過ぎず、次々やってくる新専科さんたちとひとまとめに「次期トップ候補」とされていた。人気、実力、そして現組子であり、トップスターを見送る現在の公演に出演している唯一の次期候補者であるということで、かなり有力視されていたと思うけど。
 が、結局トウコのトップは見送り、またしても2番手のまま据え置きになった。トップスターは新専科からワタルくんの落下傘、次期トップが現トップのサヨナラ公演に出演しないこともあるのだという、それまでの常識をくつがえす例を作ることになった。や、ワタルくんは宙組発足前は星組で、若手時代を過ごしているので心情的にはそれほど違和感はないはずだが、落下傘であることは間違いない。
 そんな新生星組が固まる前、トウコの進退に注目が集まっていたときの、「トップクラスの人が主演するはず」だと思われていた日生劇場での公演だ。

 一方月組ではきりやんの猛烈プッシュが起こり、阪急系列のあちこちにきりやんのポスターが貼られ、東宝系映画館ではきりやんのCMが毎日流れていた。阪急カードのイメージキャラクタがタニからきりやんに変更されたのと連動するかのように、まさかのタニちゃん組替え。
 各組2番手によるバウ公演が発表される。各組2番手は、あさこ、きりやん、かしげ、トウコ、水。ここにタニちゃんの名前はない。前年から月組の単独2番手であったはずのタニが、2番手ではなくなり、宙(ちゅう)に浮いた状態になる。
 
 さらにウメちゃんは新公ヒロはまだであっても、池田銀行という大きなスポンサーがちょっと前からついていた。それまで組ファン以外にほぼ無名であったとしても、トップ娘役からスポンサーのバトンを受け取った女の子として、一気に注目を集めていた。

 そしてさらに、男役が演じる準ヒロイン。まとぶんは路線上級生を追い抜き、一気に組内3番手にまで駆け上がってきた御曹司。今のれおんとかなりかぶるな。あんな感じで階段を2つ3つトバして駆け上がっている感じ。
 劇団からの追い風は力となり、なにかと人々の口の端に上る人だった。

 
 こんな人事的にも渦中にいる人たちが出演する、公演。
 話題にならないはずがない。

 チケ難ぶりと客席の高揚は、忘れられない。
 ついでに、トウコファンのアツさも(笑)。千秋楽でもなんでもなくても、繰り返されるカーテンコール、スタンディングオベーション。根っこが雪担のわたしは、そのアツさにびびりまくった(笑)。トウコが、っていうか、星組のカラーかな、あれは。

 で、肝心の舞台内容は、というと。

 あまり、おぼえていない。
 もちろん最低限の記憶はあるけど、それだけだ。

 作品を好きじゃないってことと、トウコがかっこよかったことと、ウメがかわいかったことしか、おぼえてない。

 たしかに罪なく楽しい物語で、機嫌良く笑ったけれどそれだけで、好きだとは思えなかった。
 1回目の遠征でそう思い、それても2回目の遠征時にはドン@トウコ素敵だけのキモチで、作品への不満は全部どーでもよくなった(笑)。
 到底好みではない物語なのに、トウコがすっげーリアルに細かく演技していて、主人公の気持ちをつないでいって、彼を見ていると彼の人生を追体験できてカタルシスを味わえた。
 トウコちゃんってやっぱすげえ!! と、思い知って帰途についたんだ。
 最初に見たときは、彼が大スターに見えなくて、キラキラが足りなくて、かなり首を傾げていたのに。
 そんなもん関係なくなるくらい、「役者」としての力を見せつけてくれた。
 トウコが真ん中の舞台はキモチイイ。彼(彼女)が空気を動かす。同じ空間にいるひとりとして、トウコが起こすストームに乗ったときの、気持ちよさ。

 その快感だけおぼえていて、あとはぜんぜんおぼえてないなあ。
 そりゃストーリーはおぼえてるけど、細かい脇の役がどうとか名前とか、きれーに抜け落ちてるわ。

 
 思えば2003年はなにかと激しい年だったんだなあ。

 日生『雨に唄えば』を皮切りに、あさこ『二都物語』、水『里見八犬伝』、トウコ『厳流』という超絶チケ難2番手バウが続く。
 きりやんに向かって風が吹いていたその最中、まさかの休演。きりやん主演のはずだった『なみだ橋 えがお橋』は急遽さららんが代役。きりやんは年末の大劇場公演から戻ってきたけれど、あれほど急激に彼を押し上げていた風はゆるやかになった。……以来、現在に至る。
 この年の日生とバウで即日完売、大盛況だった主演クラスの人たち、トウコ、タニ、まとぶん、ウメ、あさこ、水、彩音は、現在みんなトップスターで、バウがまったく売れなかったかしちゃんはすでに退団、出演できなかったきりやんは今も5年前と同じ2番手のまま。

 時は流れ、戻ることはない。
 記憶は薄れ、上書きされていく。

 当時の記録を引っ張り出しながら、振り返っておく。
 『雨に唄えば』が、タニちゃん主演で再演される。新しい『雨唄』を愛するために、過去の整理を。

 

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