退団者を見送ったあとは、まっつ・みつる会の後ろあたりでギャラリーしてた。
 花組東宝千秋楽。

 や、わたしはまっつファンだし、ジュンタンは胸骨押さえながら「みつる〜〜っ」って騒いでるしで(笑)。
 つまり、位置的にかなり帝国ホテル寄りだった。

 なんやかんやでどりーず東組ほとんど参加の『愛と死のアラビア』『Red Hot Sea』最終日。前楽だけ観て仕事に行ったパクちゃんも、前楽だけ観てあとはだらだらしていたkineさん、ジュンタンも、観劇はしないけれど日比谷にいるドリーさんも、とにかくみんなで一度ランチに集まり、わたしが千秋楽を観たあと再集結……って、お昼食べた店にまだいたのか、アンタら(笑)。

「ずいぶん終るの遅かったね」
 と言われ、わたしは首を傾げる。
 だって退団者はふたりだけだし、しつこくカーテンコールがあったわけでもないし、想定内の時間なのでは?

「東宝になってから、ムラより10分は公演が伸びてるから。まとぶんが、演技タメすぎて」

 爆笑。
 やっぱり? やっぱりそうなの?
 まとぶさん、歌にしろ芝居にしろ絶好調でタメまくって演じてるもの! 気のせいぢゃなかったんだ。あんなにタメて、時間の辻褄合ってるのかなあ、って思ってた……合ってなかったのか(笑)。

「だから、指揮者、大変。まとぶんが伸ばす分を巻こうと必死」

 まとぶんにこれ以上タメさせまいと、必死にじゃかじゃか演奏しているらしい。

 舞台はナマモノ、生きている。
 芝居に熱が入りすぎて公演時間変わっちゃうのって、なんかすげー愛しい。
 それはたぶん、「新生花組」である今だけのことだろう。まとぶんもきっと、これからトップスターとしていろんなことを身に付けて、公演時間も肌でおぼえていくんだろうと思う。
 たのしいなあ、まとぶんと花組。
 「今」が愛しく、彼らが持つ「未来」が愛しい。

 ふたりの退団者、みほちゃんとかりやんも、すがすがしく美しくて。

 ありがとう。美しいものを、ありがとう。心が透明になる、この快感をありがとう。

 まっつウォッチがわたしのスタンダードなわけだが、この日まっつはとてもきれいだった。
 退団者が挨拶をしているとき、とてもやさしく、あたたかい表情で、仲間を見つめて微笑んでいた。

 かりやん、みほちゃんと続く最後のご挨拶、彼らを見て、まっつを見て、テレビがアングルを変えて放送するがごとく忙しく眺めながら、交互だからこそ、旅立っていく人の清らかな笑顔と、まっつのやさしい表情とが相乗効果でさらに泣けた。

 花組名物はっちさんの噛み噛み挨拶、せめて退団者からのメッセージは噛まずに読んで欲しいと切望しつつもまた裏切られ(笑)、それでも涙に声を詰まらせるダンディ組長に、こちらもびっくりし。

 まとぶんの挨拶は彼の誠実さまんまに、じんわり心に広がって。
 この人をよろこばせたいなあ、しあわせになってほしいなあ、と、心から思う。

 まとぶん、トップお被露目公演千秋楽おめでとう。
 誰にとっても、大切な大切な1日。

 だから。

 帝国ホテルから煙が出ているのを見たときは、ほんとおどろいた。
 最初に異変に気づいたのは、なんといってもかしましい消防車の存在で。
 大都会なわけだから、サイレンが聞こえるのはべつに、めずらしいことでもないだろう。そんなの大阪で生きてたってしょっちゅうある。
 だからけたたましいサイレンがすぐそばを通っても、わたしはぜんぜん気にしてなかった。
「ねえ、サイレンそこで止まったよ?」
 言われて気づく。そーいや、消防車、そこで止まってる。次々やって来ては、すぐそこ……帝国ホテル前で止まっている。
「なんか空、黒くない?」
 夜だから、空は暗い。天気も悪いから雲が黒くてもあたりまえ。そう思って気にしてなかったけど……ほんとに、黒い。てかアレ、雲ぢゃない。……煙じゃん。

 びっくりだ。
 どうやらほんとうに、なにか災害があったらしい。

 消防車が大きなボリュームで放送している。
「消防車が通ります、協力してください、道を空けてください」

 えーと。
 その放送って、わたしたちに向けて言ってる?
 消防車の目の前には、1000人からの人だかり。秩序をもって並んだ人々の群れ。

 今、わたしたちに「道を空けろ」と言われても……大混乱になりますよ?

 どれだけサイレンが鳴り響き、黒い煙が広がっても、沿道のヅカファンは動じなかった。
 サイレンに負けず、拍手で花組生たちを見送る。
 退団者はすでに出たあと、トップ3の出あたりがいちばん、サイレンすごかったかな?
 ホテル前の交差点に車を用意するのが大変そうだった。

 本当に避難や通路確保が必要なら、わたしたちも蹴散らされたことだと思う。
 しかし帝国ホテル火災は、あくまでもホテル周辺だけの騒ぎで終了した。ひとつ向かいの道の、劇場とその沿道には無関係。
 ……わたしたちより、ホテル周囲に集まった野次馬の大群の方が、問題だったんだろうと思う。放送したってどかないんだもの。

 
 反対側に帰ってしまう人たちはわかんなかったけれど、前を通ってくれるスターさんたちの美しい姿を堪能しました。
 まとぶん、ゆーひくん、壮くん、みわっち……みんなみんなマジ美形、眼福。
 めぐむもまぁくんも眺められてうれしい。みつるとめおちゃんとりせがキュートできれいで溜息。いちかちゃんとあやねちゃんもすげーかわいい。

 わたしは普段出待ちをほとんどしないから、よくわかっていないとはいえ、たぶんまっつが出てくるのは最後になるだろうと思っていた。
 退団者が同期なんだから、きっといろいろお仕事があるんだろう、と勝手に想像。
 
 うん、ほんとに最後だった。
 秩序ある人垣が壊れた、祭りのあとの散漫な喧噪にまぎれて、いちばん最後にまっつがよーやく出てきた。

 きれいだった。

 長めの黒髪、高い鼻、大きな目。
 ずっと待っていたファンの人たちのところへ行き、なにか挨拶をしている。なに話しているのかまでは、わかんない。でも、まっつまっつなハスキーヴォイスだけは時折耳に届く。

「あれってまっつ? まっつ? えー、まっつ?」
 わたしと同じよーにギャラリーしている見知らぬおねーさんの、興奮した声の方が、よっぽど耳に入る(笑)。
「なんかチガウ? まっつってあんななの? えー?!!」
 おねーさん、すげー興奮している。
「きれいっ、かっこいいっ」
 興奮して、ツレ相手に叫ぶ。うんうん、気持ちはわかる、わかるよっ。
「知らなかったっ、ほんとはきれいなんだ?!」
 ……えーと。
 正直すぎる感想に、笑いツボ直撃される。
 つまりアナタ、今までまっつのことは相当アレだと思ってたんですね?(笑)
 キモチはわかる。……て、わかっていいのか?

 まっつが穏やかに笑っている姿を遠く眺めて、「終わったな」と噛みしめた。
 ひとつの公演が、終わった。

 観劇を重ねるたびに、好きな人が多くなる。
 ステキだと思う人たちが多くなる。

 だけどわたしはまっつが好きで、他は考えられないのだという事実をも、思い知る。
 ……不思議だなあ。

               ☆
 
 夜行バスで帰宅後、まっすぐ親の家に行きかけ、ドアに手を掛けたところで思い至った。

 そか、猫、いないんだ。

 遠征するときはいつも、親の家に猫を預けていたから。
 早朝帰宅するとき、寝静まった親の家に合鍵で入り、茶の間のテーブルの上で丸くなっている猫を抱き上げて、それから自分の家に帰る……この行動が、すでに染みついていた。

 『JURIのやっぱりGOGO5!?』遠征のときは、いつものように、朝、猫を引き取りに親の家に寄った。

 もう、いないんだ。
 親の家に寄る必要もない。

 ドアから手を離し、ひとりで帰った。


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