今より少し昔、ある国にネロくんという少年がいました。

 ネロくんの通う小学校の庭は雑草だらけ、石ころだらけでちっともくつろぐことができません。
 ネロくんは考えました。この庭を整備して、みんながたのしく過ごすことのできる空間を作ろう。

 クラス委員のサルディバルくんや、ガキ大将のエスコバルくんも、話に乗ってきました。ネロくんたち上級生たちだけでなく、遊び場をほしがっていた下級生たちも仲間に入りました。チーム結成、みんなで力を合わせて、素敵な庭を作ろう!

 子どもたちだけでは金銭的にも能力的にも権利的にも、限界があります。まずネロくんたちは、学校にお願いしました。庭を整備したい、やってもいいよね? それで、できたら道具とか借りたいんだけど……。
 でも、「余計なことは考えるな、子どもは勉強だけしていればいい」と、先生たちは取りあいません。
 それどころか、力づくで庭作りの邪魔をします。自分たちで持ち寄ったバケツに拾った石ころや雑草を入れていたら、それを蹴飛ばしてまた地面にまき散らしたり、作業をしている小さな子を怒鳴りつけたり。
 先生を怖がって学校に来なくなる子や、転校していく子もいました。
 みんなでたのしめる空間を作りたかっただけなのに、ネロくんたちはぼろぼろです。

 それでも、大人たちの力を借りずに、妨害にも負けずに、自分たちだけで庭を作ることに成功しました。
 石や雑草を取り除いて、花壇を作りました。手作りのベンチも置きました。まだまだ課題はあるけれど、以前よりはきれいです。もっと花を増やし、くつろぐための小さな屋根や東屋、池や噴水も作りたい、小動物も放し飼いにしたい……できるかどうかはともかく、ネロくんたちの夢は際限がありません。

 庭作りが軌道に乗ると、「ボクもやる」「私にも手伝わせて」と協力希望者がたくさん出て来たので、ネロくんは庭作り実行委員から降りることにしました。サルディバルくんがとても張り切って庭作りをしているので、任せても大丈夫でしょう。
 もともとネロくんは、みんなの注目を浴びてナニかするのは好きじゃないんです。誰もやらないから、ネロくんがあえてやっていただけ。できるのにやらないのは、ネロくんとしては「チガウだろ、ソレ」なことだから、あえてやっていだけにすぎないんです。

 みんなのための庭作りだったのに、ふと気づくと庭にいるのは児童たちではなく、知らない大人たちばかりです。
 子どもたちの庭がきれいになったので、なにもしなかった先生が自分たちの手柄にして、国のえらい人を呼んだりして、大人のくつろぐ場所として占領してしまいました。
 大人たちを引き込んだのは、サルディバルくんでした。「夢の庭を作るには、大人の力が必要だ」……たしかに、噴水や小川を作るには、子どもだけじゃ無理でしょうけれど……大人に手伝ってもらうのと、大人に取り上げられてしまうのは違うんじゃないでしょうか?
 子どもだけで、力を合わせて、ひとつずつ夢を叶えてきたのに。

「夢の庭なんかどうでもいいんだ。サルディバルは大人にゴマをすって、成績を上げてもらってるんだ」と、エスコバルくんは言います。エスコバルくんは何故か、ネロくんについて実行委員を辞めてしまっていました。なにを気に入ったのか、いつもネロくんのそばにいます。
 ネロくんは、大人たちともサルディバルくんとも、表立ってケンカはしませんでした。でも、子どもたちが庭で遊びたそうにしているときは、そっとつきそって庭に入り、大人たちが文句を言ってくる楯になりました。
 サルディバルくんも、ネロくんの行動に対して、強く諌めることはできません。

 あるとき、ネロくんはセリアちゃんというきれいな女の子に出会いました。一目惚れです。セリアちゃんもネロくんに興味があるようです。
 セリアちゃんには、リナレスくんという弟がいるのですが、この子がなかなか問題児でした。一見明朗快活で大人受けのイイ優等生なんですが、実は「大人はみんなキタナイ、みんな敵だ」という思春期の子どものかかる病気にずっぽり浸っていました。たしかに、この学校とその周辺の大人たちはかなりアレなので、リナレスくんの言っていることはあながち間違いでもないのですが。
「ボクたちの庭が大人の都合で利用されている、このまま見ていていいのか」リナレスくんは真正面から大人たちとぶつかるつもりのようです。そんなことをしてもナニも変わらないとネロくんは説くのですが、リナレスくんは聞き入れません。
 ネロくんだって庭を作るために最初は、今のリナレスくんのように真っ向から先生たちに立ち向かいました。そうしてボロボロになったんです。こんなやり方じゃダメだと考え直し、大人たちの手を借りずに庭を作ったのです。
 ひとりで突っ走るリナレスくんをなんとか助けようと、ネロくんは必死になります。だってリナレスくんは、セリアちゃんの弟だし。

 リナレスくんの暴走には、理由がありました。
 以前退学になったチャモロくんが、お礼参りに帰って来るという噂があるのです。
 チャモロくんは不良ではなく人望厚い児童会長だったのですが、それゆえに理不尽な校則について学校側と正面衝突し、ついに退学にまでなってしまった子です。
 学校側はいかなるときも、チャモロくんの動向にはハラハラしています。どうもチャモロくんは就学していたころに、学校側にとって都合の悪い事実やらなんやら、握っているようです。
 チャモロくんが帰ってきたら大騒ぎになる……。見てみぬふりはできません。ネロくんはひとり立ちあがります。だって学校側は、チャモロくんが学校に入ったら、なにかと理由を付けて問題を起こしたことにし、警察に補導させようと狙っているんです!
 チャモロくんと、リナレスくんを含め、彼に心酔している他の児童たちとを無事に再会させるために、ネロくんは学校側と、大人たちと、真っ向から闘う決意をしました。
 そのためには、ネロくん自身がもう、学校にはいられなくなるかもしれません。
 「そんなことしたら、退学させられる」セリアちゃんは泣いて止めますが、ネロくんの決意は揺るぎません。
 もうこんな学校見捨てて、ふたりでどっかへ行こう……セリアちゃんはそう言います。浮浪児になったって平気、家出でもなんでもする、と。ネロくんさえそばにいてくれたら、それでいい、と。
 だけどネロくんは首を振ります。
 セリアちゃんにそんなことはさせられません。彼女はふつーに平和な学校で、ふつーにしあわせに生きるべきです。
 彼女が笑って過ごせる学校にしたいのです。
 ネロくんがステキな庭を作りたかったのは、セリアちゃんのような女の子を、そこで微笑ませるためです。その笑顔を守るためです。
 元児童会長のチャモロくんなら、今の学校の腐敗を糾弾し、問いただすことが出来るでしょう。彼を補導するために罠まで張る大人たちの現状を見れば、彼はきっと本腰を入れて闘うはずです。
 そのために今は、チャモロくんを守らなければ……。

 大人たちとの戦いに赴くネロくんを、プラスチックの剣やぱちんこ、水鉄砲で武装したエスコバルくんが待ち構えていました。「おれを置いて行く気か」……彼はこうなってもなお、ネロくんについて行くつもりのようです。
 子ども対大人の戦い。……勝負は見えているのですけれど。
 それでも、ネロくんは行くんです。

 花のたくさん咲く、みんなが笑って過ごせる庭を、作りたいから。
 そこで微笑むあの子を見たいから。
 今、できることがあるなら、するしかないだろう?

 
 そうして。
 戦いののち、学校に庭には白いマリポーサの花が咲いています。
 なにがあっても、花は花でしかなく、なにも語ることはありません。


             ☆

 とかまあ、そんなこんな。
 ネロくん、好きだなあ。


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