正塚芝居は難しい。

 『La Esperanza』も『ホテル ステラマリス』も、新人公演はそりゃー大変なことになっていた。

 『ベルばら』より『ファントム』より、確実に難しい。ヘタしたら『エリザベート』より、難しいかもしれない。

 だから、雪組新人公演『マリポーサの花』も、えーらいこっちゃだった。

 正塚芝居は、ハッタリが効かない。や、もちろん必要ではあるけれど、それ以前に、その役者が持っている技術、センスが浮き彫りにされてしまう。
 男役、娘役としての、一定レベルの技術をあったりまえに持った上でさらに、正塚芝居に「合う」かどうか、正塚芝居が「できる」かどうかで、その出来映えが大きく変わってくる。

 だからなんとも、分が悪い。
 正塚芝居で新公を、しかも主演、初主演なんぞをやらなきゃならない子は、他演出家作品よりあきらかに、ハードルが高いんだもの。

 できなくても、仕方ないよね。なにしろ正塚芝居だもん。上級生だって、技術だけでついて行けてない場合が、あったりするわけだし。
 難しすぎるんだよ。

 それを踏まえた上で。

 いやあ、ネロ@せしるくんは、大変なことになってました(笑)。

 ルキーニ@『エリザベート』も、アルガン@『君を愛してる』も、魅力的にこなしていたよな? なのになんでこんなことに……と思ったら、そうか、その2作は持って生まれた美貌とハッタリと勢いで演じられる役だった。
 ほんとーに地道な実力で勝負しなければならない役になると、技術の無さが露呈してこんなことになっちゃうのかと、ある意味目からウロコでした。

 歌がヘタなのは知っていたし、歌の下手さってわたしはあまり気にならないんだけど(でなければ水先輩ファンなんぞやってない・笑)、今回は「歌」以前の部分でびっくりした。

 歌になると、声がチガウの。

 演技しているときは、男役なの。
 なのに、歌い出すと、女の子の声になるの。

 オペラであちこちチェックしながら耳だけで歌声聴いて、「あれ、なにこのふつーの女の子の声?」と銀橋を見たら、ネロが歌っていた。
 ……素直に、びっくりした。
 娘役声でもない、ふつーの若い女の子の声。歌うことだけに必死になった、とにかく一生懸命な声。

 男役声で歌うことすら、できなかったのか……。

 声を作れないなら作れないで、歌いやすいトーンで歌ってくれてもかまわないんだ……ソレで音さえ取れるのなら。
 音程ふらつきまくるわ、舞台役者の声でも男役声でもないわで、聴いていてひたすらあわあわしました。わたしがあわてても仕方ないんだけど、なんか、「どうしようっ」て思っちゃって。
 や、手に汗握った。

 せしるといえば「美貌の人」なんだけど、その最大の売りである美貌がまた……。

 新公当日、突然仕事で観劇できなくなったチェリさんから届いたメールは、行けなくなったことを嘆きつつも「せしるが爆発頭をどう整えていたか、教えてください」で結んであった……。
 そこか!!
 新公の出来とかじゃなくて、そこなのか、いちばんの関心は(笑)。

 本役ではチャモロを演じているせしるくん。
 役のために、思い切りのいいちりちりパーマ姿。
 あそこまでちりちりだと、新公でネロを演じるときにどうするつもりだろう? 当日までに髪を切ったりまっすぐのばしたりするのかしら? というのが、仲間内の心配事だった。
 新公のためにばっさりやって、その後の本役はカツラで通すとか? や、それも仕方ないことだろう。あのちりちり爆発頭ではネロを演じられないだろうし。

 たけど新公日の昼公演を見ても、チャモロはチャモロだった。

 ……どうするつもりだろう?

 そう思っていたら。

 あー……。

 その。
 すごいことに、なってました。新公ネロ氏の髪型。

 前髪だけは力業でのばして、ねかせて、リーゼントに。
 真正面から見ると、微妙なトサカっぷり。なぜその高さ、その角度。……ちりちり爆発頭ゆえ、そのカタチにしかできなかったのだろうか。

 だが、正面はまだ良かったのだ。
 彼が横を向いたときに見える、不思議な造形。
 額から耳の上までは、無理してのばして撫でつけてある髪が、途中から、ちりちりうねりまくる。

 後ろ半分、ちりちり?!(白目)

 そしてさらに、後ろ姿。
 後ろはちりちり無法地帯!!

 ちりちり解禁! はてしなくちりちり! なまじ正面だけ無理に押さえてある分、後ろの解き放たれたちりちりがカオス!!

 真正面、サイド、後ろ頭と、全部、造形が違います!
 トリックアートみたい。この像は前から見ると船ですが、横から見るとなんと家です! みたいな。

 プロローグから我が目を疑い、オペラでガン見。
 す、すげえ。
 すげえよせしる!! ここまですげー髪型、はぢめて見たっっ。

 なんか、チョコボを思い出したよ……。黒チョコボな。前から見たチョコボ、横から見たチョコボ、そしてお尻の愛らしいチョコボの後ろ姿……。

 芝居が進むと、せしるはどんどんイッちゃってしまう。
 テンション上がって、声がさらにでかくなる。怒鳴る。叫ぶ。ひっくり返る。

 エスコバル@りんきらくんとの相性が微妙なこともあり、噛み合っているとは思えないまま、それでもひとりで突っ走る。

 せっかくの美貌も、ハッタリも、なにもなく。
 ただもう板の上の小さな空間でいっぱいいっぱいになって、はち切れそうになって、きゃんきゃん怒鳴っている。

 見ていて手に汗握る、ところをはるか通り過ぎた。

 ただもう「無事に終わってくれ」と祈るようなキモチだった。

 愛しい。
 この子、愛しいから。

 その空回っているところも、なんにもできていないところも、そーゆーのひっくるめて、彼の舞い上がった姿ごと、あいくるしい。

 こんなにぎりぎりになって、誰も助けてくれないところで、こんなにこんなにがんばって。

 ……正塚芝居だもんなあ。
 難しすぎるよ。

 せしるもだけど、他の子たちもみんないっぱいいっぱいで、空気作るとか読むとかどころじゃない。
 せしるが空回っていても、誰も助けられない。

 年度が替わって最初の新公でなく、2本目の新公ならまだちがったのかな。それか、87期が出演していたら、ここまでえーらいこっちゃにはならなかったろうか?
 ヒロイン研2、2番手研3じゃあ、初主演者の重責は計り知れないよ……。

 大変だったね、せしる。

 でも、祈るようなキモチだったのとは別に、すっげー愉快でもあった。
 だってせしる、絶対脳内麻薬出まくってるよね?
 ランナーズ・ハイ状態なのがわかるんだもの(笑)。

 で、その勢いで挨拶もして。
 そのミョーな語りに笑われて、ビミョーな顔して。

 いいなあ、せしる。いいキャラだ。
 君はそのままの君でいてくれ。
 舞台は技術だけじゃない、プラスアルファのナニかが必要。
 せしるはきっと、そのナニかを持っているよね。

 だからいいんだ。

 ……いやその、もう少し技術を付けてくれても、ぜんぜんかまわないんだけど。


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