セリアの矛盾。@マリポーサの花
2008年10月27日 タカラヅカ セリア@となみは矛盾している。
『マリポーサの花』のヒロイン、男しか出てこない、10人いればコトが足りる芝居において、貴重な10分の1を占める役。……比重的には10人中7番目くらいかもしれないし、出てこなくても問題ない程度の役(名前だけ、イメージだけの存在でも可)とはいえ、それでもヒロイン。
80人もの出演者を使って10人いればコトが足りる芝居とか、唯一の女性キャラすら登場しなくても問題ないと思わせちゃうとか、そんな芝居を書いた演出家がいちばん悪いんだが、それは置いておいて、あくまでも描かれた中での、セリアの話。
彼女はなにかっちゃー、ネロ@水に頼る。
弟が帰ってこないとか連絡がないとか。
なんでそんな家庭の事情でネロに頼るんだ。ネロは別に家族でもなんでもないだろ。
セリアの依存を許容しているのは、ネロが寛大だからだ。彼が力になってやる必要はナイのに、いちいちなんとかしてやっているんだから。
セリアのキモチもわかる。
なにしろ、コトが「大統領暗殺未遂」だ。女の子がひとりで抱えるにはへヴィ過ぎる。コトがコトだけに滅多なことでは他人には話せないし、逆上しやすい父に相談することもできない。
話す・話さない以前に事件の存在を知っている相手を、相談相手に選ぶのは、セリア的には自然な流れだ。
ネロだから相談した、というより、客観的に見て、ネロしかいなかったんだよね、頼れる相手。
ネロが父の仕事仲間で自分の職場のボスで、信頼の置ける人物であるとか、そもそも好意を持っていた相手だとかいうのは、付属的なことで、そーゆーのをとっぱらって、消去法でも、ネロしかいなかったんだよ。
だからつい、なにかっちゃーネロを頼る。
セリアの事情はわかるけど、ハタかりゃ見りゃ、理不尽な依存。なんでネロがまったく関係ない人間のために、危険な橋を渡らなければならない? エスコバル@ゆみこが言う通りだってば。
セリアはネロに依存している。彼女が弱い女の子だから、という理由で。ひとりではどーすることもできない、こまっちゃう、という理由で。
それなら何故。
「女」であることを、利用しない?
弱いイキモノとして、強いネロに依存しているのだから、しかもネロのことを好きなんだから、いちばん手っ取り早いのは「女」として彼の内側に入ってしまえばいいんだ。
愛を打ち明け、彼の恋人になってしまえばいい。
恋人ならば、家族の不始末で頼ってもおかしくないし、向こうも責任を持って助けてくれるだろう。
女だから依存しているくせに、「女」の部分は使わない。
この矛盾。
でもこの矛盾こそが、セリアだと思う。
他に手段がないから、ネロに頼るしかない、弱さ。世間知らずさ。
そのくせ、その弱さゆえにカラダを投げ出すことはできない、たぶん思いつきもしない、育ちの良さ。
ネロの女になってしまえば得をする、そんな思考回路は、ハナからない。
むしろ、頼っている状況だからこそ、愛を打ち明けてはならないと思っているらしい、方向違いの気遣い。
セリアってねえ、泣き顔見せないんだよねえ……。
彼女の小さなキャパでは受けきれない事態になり、取り乱して叫んで、そして。
あ、泣いちゃった。……そう思わせる瞬間に、背中を向けるの。
ふつうならそこで、泣いてみせるでしょうに。男の胸にすがってみせるでしょうに。
いちばん手っ取り早い「女の武器」を、彼女は封印するの。
セリアがこんな女の子じゃなかったら、ふたりはもっと早くラヴい雰囲気にも、わかりやすい関係にもなっていたと思う。
そこで泣き出せば、ネロはきっと抱きしめただろう。……そう思わせるタイミングで、セリアは必ず彼に背中を向ける。
そして、次に男を振り返るときには、気持ちを落ち着け、涙を隠してしまっている。
これじゃ、抱きしめることもできない。
泣いていることがわかる背中を、黙って見つめることしかできない。
すでに依存しちゃってるんだから、全部あずけちゃえばいいのに。
どーしてそう、ぎりぎりのところで必死に立ち止まっているのか。耐えているのか。
その、矛盾。
その、愚かしさ。
その、いじらしさ。
セリアというキャラクタは、明らかに作者の書き込み不足で記号的な扱いしかされておらず、彼女を描くことに作者の興味が薄いことは、わかる。正塚が悪いわ、ありゃ、と思う。
ネロがどーして彼女を愛したのか、「顔か? 所詮は顔なのか?」とか、安い結論に落ち着きそうなくらいエピソードが足りていないと思っているけれど。
ネロがセリアを愛した理由はわからなくても、セリアという女性には共感できるんだ。
前から憧れていた男性が、偶然父の仕事仲間として現れた。これはチャンスだ!と強引に彼の店で働くことにする。父親の手前、無碍に出来ない男の事情につけ込むカタチになってもキニシナイ。
弟をかばってくれたこともあり、それ以後弟の問題はみんなその男へ相談する。だって他に相談できる人いないし。
自分が不安なこともあり、男への依存心、恋情は加速していくけれど、彼が自分の恋人でないことはわかっているから、泣いてすがることは出来ない。抱きしめてなぐさめてもらうことはできない。
なにか訳あり風情な男だと思っていたが、自分とはあまりにかけ離れた世界に生きる、重い傷・暗い過去を背負っている人だとわかり、受け止めきれずに一旦逃げ出す。
それでも、やはり弟のことで頼れるのは、その男しかいなくて。
依存と保身の間で揺れ動き、かなり卑怯な立場にいるんだけど、そんなこと気づきもしない。
いつだって自分のことだけで頭はいっぱい。
自分が傷つかずに済むように、しか、考えてないよね、ほんとのとこ。
……そんな女だからこそ、共感できる、つーのもなんだが。苛っとくる反面、たしかに、納得できるんだ。彼女の弱さとずるさが。リアルに。他人事ではなく。
それだけだったら、いずれはムカついて終わるだけだったと思う。
自分の嫌なところばかり見せつけられて、それだけの女だったら、共感を通り越して同類嫌悪に行き着く。
でも。
その、弱くてずるいセリアが。
かっこつけてて、本心を出さないセリアが。
なにもかもかなぐり捨てて、ネロにすがりつく。
彼が戦いに行くと……もう二度と会えないと予感した瞬間に。
泣き出す瞬間背中を向けていた女が、自分から男の背中にすがりつき、ミもフタもなく泣いてすがる。
「死んでしまう」と、会話文としてはおかしな言い回して、自己完結して叫び続ける。
ふつうなら「行かないで」とか「死なないで」となるところ。
「死なないで」と自分に結びつけて言う前に、ただもう、ネロという存在が消えることだけを、ただそれだけを純粋に恐怖して、叫んでいる。
恋人でもなんでもない、なんでもないからこそ、依存していても一線を引いたままだったのに……まとっていた建前や保身や理屈を全部捨てて、唐突に叫ぶから。
だから、彼女は「わたし」でありえる。
同類嫌悪ではなく、物語の中で共感し、彼女を通してネロに恋が出来る。
唐突なのは、それまで格好悪いとか傷つくとか拒絶されるかもとか、無意識に自分を守っていたから。それを、「ネロが死ぬ」という現実を前にしてしか、捨てることが出来なかったから。
ずるかったの。
矛盾していたの。
愛の言葉を欲して傷つくことより、依存してそばにいるだけでよかったの。
それらを全部、捨てた。
感情が爆発した。
自分が楽にいられることより、恥をかいても傷ついても無様でも、なんでもいいからネロに生きていて欲しかった。
「あなたが死んでしまう」……そこまで追いつめられられなければ、臆病な自尊心と尊大な羞恥心を超えることが出来なかった。
セリアの矛盾。
それは彼女の愚かさであり、彼女の愛しさでもある。
『マリポーサの花』のヒロイン、男しか出てこない、10人いればコトが足りる芝居において、貴重な10分の1を占める役。……比重的には10人中7番目くらいかもしれないし、出てこなくても問題ない程度の役(名前だけ、イメージだけの存在でも可)とはいえ、それでもヒロイン。
80人もの出演者を使って10人いればコトが足りる芝居とか、唯一の女性キャラすら登場しなくても問題ないと思わせちゃうとか、そんな芝居を書いた演出家がいちばん悪いんだが、それは置いておいて、あくまでも描かれた中での、セリアの話。
彼女はなにかっちゃー、ネロ@水に頼る。
弟が帰ってこないとか連絡がないとか。
なんでそんな家庭の事情でネロに頼るんだ。ネロは別に家族でもなんでもないだろ。
セリアの依存を許容しているのは、ネロが寛大だからだ。彼が力になってやる必要はナイのに、いちいちなんとかしてやっているんだから。
セリアのキモチもわかる。
なにしろ、コトが「大統領暗殺未遂」だ。女の子がひとりで抱えるにはへヴィ過ぎる。コトがコトだけに滅多なことでは他人には話せないし、逆上しやすい父に相談することもできない。
話す・話さない以前に事件の存在を知っている相手を、相談相手に選ぶのは、セリア的には自然な流れだ。
ネロだから相談した、というより、客観的に見て、ネロしかいなかったんだよね、頼れる相手。
ネロが父の仕事仲間で自分の職場のボスで、信頼の置ける人物であるとか、そもそも好意を持っていた相手だとかいうのは、付属的なことで、そーゆーのをとっぱらって、消去法でも、ネロしかいなかったんだよ。
だからつい、なにかっちゃーネロを頼る。
セリアの事情はわかるけど、ハタかりゃ見りゃ、理不尽な依存。なんでネロがまったく関係ない人間のために、危険な橋を渡らなければならない? エスコバル@ゆみこが言う通りだってば。
セリアはネロに依存している。彼女が弱い女の子だから、という理由で。ひとりではどーすることもできない、こまっちゃう、という理由で。
それなら何故。
「女」であることを、利用しない?
弱いイキモノとして、強いネロに依存しているのだから、しかもネロのことを好きなんだから、いちばん手っ取り早いのは「女」として彼の内側に入ってしまえばいいんだ。
愛を打ち明け、彼の恋人になってしまえばいい。
恋人ならば、家族の不始末で頼ってもおかしくないし、向こうも責任を持って助けてくれるだろう。
女だから依存しているくせに、「女」の部分は使わない。
この矛盾。
でもこの矛盾こそが、セリアだと思う。
他に手段がないから、ネロに頼るしかない、弱さ。世間知らずさ。
そのくせ、その弱さゆえにカラダを投げ出すことはできない、たぶん思いつきもしない、育ちの良さ。
ネロの女になってしまえば得をする、そんな思考回路は、ハナからない。
むしろ、頼っている状況だからこそ、愛を打ち明けてはならないと思っているらしい、方向違いの気遣い。
セリアってねえ、泣き顔見せないんだよねえ……。
彼女の小さなキャパでは受けきれない事態になり、取り乱して叫んで、そして。
あ、泣いちゃった。……そう思わせる瞬間に、背中を向けるの。
ふつうならそこで、泣いてみせるでしょうに。男の胸にすがってみせるでしょうに。
いちばん手っ取り早い「女の武器」を、彼女は封印するの。
セリアがこんな女の子じゃなかったら、ふたりはもっと早くラヴい雰囲気にも、わかりやすい関係にもなっていたと思う。
そこで泣き出せば、ネロはきっと抱きしめただろう。……そう思わせるタイミングで、セリアは必ず彼に背中を向ける。
そして、次に男を振り返るときには、気持ちを落ち着け、涙を隠してしまっている。
これじゃ、抱きしめることもできない。
泣いていることがわかる背中を、黙って見つめることしかできない。
すでに依存しちゃってるんだから、全部あずけちゃえばいいのに。
どーしてそう、ぎりぎりのところで必死に立ち止まっているのか。耐えているのか。
その、矛盾。
その、愚かしさ。
その、いじらしさ。
セリアというキャラクタは、明らかに作者の書き込み不足で記号的な扱いしかされておらず、彼女を描くことに作者の興味が薄いことは、わかる。正塚が悪いわ、ありゃ、と思う。
ネロがどーして彼女を愛したのか、「顔か? 所詮は顔なのか?」とか、安い結論に落ち着きそうなくらいエピソードが足りていないと思っているけれど。
ネロがセリアを愛した理由はわからなくても、セリアという女性には共感できるんだ。
前から憧れていた男性が、偶然父の仕事仲間として現れた。これはチャンスだ!と強引に彼の店で働くことにする。父親の手前、無碍に出来ない男の事情につけ込むカタチになってもキニシナイ。
弟をかばってくれたこともあり、それ以後弟の問題はみんなその男へ相談する。だって他に相談できる人いないし。
自分が不安なこともあり、男への依存心、恋情は加速していくけれど、彼が自分の恋人でないことはわかっているから、泣いてすがることは出来ない。抱きしめてなぐさめてもらうことはできない。
なにか訳あり風情な男だと思っていたが、自分とはあまりにかけ離れた世界に生きる、重い傷・暗い過去を背負っている人だとわかり、受け止めきれずに一旦逃げ出す。
それでも、やはり弟のことで頼れるのは、その男しかいなくて。
依存と保身の間で揺れ動き、かなり卑怯な立場にいるんだけど、そんなこと気づきもしない。
いつだって自分のことだけで頭はいっぱい。
自分が傷つかずに済むように、しか、考えてないよね、ほんとのとこ。
……そんな女だからこそ、共感できる、つーのもなんだが。苛っとくる反面、たしかに、納得できるんだ。彼女の弱さとずるさが。リアルに。他人事ではなく。
それだけだったら、いずれはムカついて終わるだけだったと思う。
自分の嫌なところばかり見せつけられて、それだけの女だったら、共感を通り越して同類嫌悪に行き着く。
でも。
その、弱くてずるいセリアが。
かっこつけてて、本心を出さないセリアが。
なにもかもかなぐり捨てて、ネロにすがりつく。
彼が戦いに行くと……もう二度と会えないと予感した瞬間に。
泣き出す瞬間背中を向けていた女が、自分から男の背中にすがりつき、ミもフタもなく泣いてすがる。
「死んでしまう」と、会話文としてはおかしな言い回して、自己完結して叫び続ける。
ふつうなら「行かないで」とか「死なないで」となるところ。
「死なないで」と自分に結びつけて言う前に、ただもう、ネロという存在が消えることだけを、ただそれだけを純粋に恐怖して、叫んでいる。
恋人でもなんでもない、なんでもないからこそ、依存していても一線を引いたままだったのに……まとっていた建前や保身や理屈を全部捨てて、唐突に叫ぶから。
だから、彼女は「わたし」でありえる。
同類嫌悪ではなく、物語の中で共感し、彼女を通してネロに恋が出来る。
唐突なのは、それまで格好悪いとか傷つくとか拒絶されるかもとか、無意識に自分を守っていたから。それを、「ネロが死ぬ」という現実を前にしてしか、捨てることが出来なかったから。
ずるかったの。
矛盾していたの。
愛の言葉を欲して傷つくことより、依存してそばにいるだけでよかったの。
それらを全部、捨てた。
感情が爆発した。
自分が楽にいられることより、恥をかいても傷ついても無様でも、なんでもいいからネロに生きていて欲しかった。
「あなたが死んでしまう」……そこまで追いつめられられなければ、臆病な自尊心と尊大な羞恥心を超えることが出来なかった。
セリアの矛盾。
それは彼女の愚かさであり、彼女の愛しさでもある。
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