当時は、本公演と新人公演は発売日が別だった。
 本公は抽選により発売順が決まるが、新公は先着順だ。

 平成元年の『ベルサイユのばら』でトドにハマったわたしは、その次の公演からはずっと彼目当てで新公も観るようになっていた。
 ネットもないし、会にも入っていない、ヅカ友も知り合いも皆無の一般人がチケットを手に入れるのは、とても大変だったあのころ。
 情報がなにもないまま、それでも梅田の総合案内所にいちいちスケジュールを確認して、並びに行っていた。ええ、並び用の折りたたみ椅子とか用意したのもこの頃ですわ。なにしろ先着順、早朝から並ばなきゃならないんだもの。
 『天守に花匂い立つ』『黄昏色のハーフムーン』『スウィート・タイフーン』と3回続けて同じ窓口に並んでいたので、「何時に行けばどこが買える」とか、すでに感覚でわかっていた。
 梅田の総合案内所で発売するチケットは10枚から20枚くらいだったかな。15列目くらいのサブセンターが、1列~2列あるかないかだけ。列番号はすでにうろおぼえだが、S席の後ろの方(でも20列目ではない)だった。

 大体15番目くらいまでに並べば手に入るし、たとえいちばんに並んでもはじめから後方席しか売ってないので、早くから並ぶ必要はない。
 つーことでわたしは、4回目の気安さでもって、いつもと同じくらいの時間に並びに行ったんだ。

 そしたら、どーしたこったい。
 いつもの時間にはすでにすごい人数が並んでいる。
 「なんで?」わけがわからないまま、発売時間まで並んださ。

 ……結果、チケットは売り切れで買えなかった。

 トドの最後の新公が観られない?!
 想定外のことにパニックになり、あちこちに泣きついたなー。

 ヅカ友がいなかったので、ツテもナニもない。
 ただ、腐っても大阪在住。ヅカファンはいなくても、探せばヅカの関係者はいるんだよなー。
 友だちのおかーさんが劇団で働いていたり、バイト先の人がジェンヌの知り合いだったり。近所の人の友だちが「ナントカいうスターさんに毎日お弁当作って届けてるわよ」だったり。
 本気で探せばなんとかなるもんだ。
 どっから湧いて出たのか忘れたが(笑)、無事にチケットは手に入ったのだった。


 さて、新公の前に、本公演だ。
 見慣れたわたしの雪組に、知らない人がいた。 

 そーいや新公発売日に並んでるとき、前にいたおばさんが組替えがどうとか言ってたっけ。
 あの知らない人が、組替えで来た人らしい。

 その知らない人を見て、美しくないことに、おどろいた。

 知らないだけなら、組替えってそういうもんなんだ、と思えた。わたしはよくわかってないんだけど、そもそもトドだって組替えで来た人なわけだし、それ以前から雪組を観ていた人にとってはトドだって「知らない人」に見えたことだろう。

 その知らない人は、大活躍していた。
 芝居でも1曲朗々と歌うし、ショーでも彼が中心の場面があって、ものすごいスターぶりだった。
 学年はトドより下だという。なのに、トドがソロ歌ナシ、センター場面ナシで終始脇役なのに、よそから来た知らない下級生がトドより明らかに上の扱いを受けていた。

 よそから組替えでスターがやってくる場合もあるんだろう。と、漠然と思いはした。
 だがどーしてもわからないことがあった。

 その知らない人が、美しくないことが、理解できない。

 上級生を下克上するほどの下級生っていうのは、まず美貌が必要なのでは?
 タカラヅカでいちばん必要なのは、「美」でしょう?
 うまいだけでは、真ん中には立てないよね?

 ミユさんはすごくうまくてかっこいいけど、美貌のタカネくんに番手を譲ったわけだし。や、譲るって言葉は変だけど。徐々にふたりのレールは離れていったじゃん?
 真ん中に立つ人はまず美しくなきゃダメなんでしょう??

 トドは新公主演だから、わざと本公演の比重を下げられてるのかな、と思った。
 ……が、その後、新公を卒業してもトドの見せ場はないまま、組替えでやって来た彼は新公主演の上に芝居でひとり歌ソロをもらったりと、スター街道まっしぐらだったさ。

 なんで逆転されたのか、マジでわかんなかった。
 タカラヅカは年功序列、上級生スターの方がイイ扱いをされるものでしょう?
 順番を守ってさえいれば、いずれはトップになれるんだと思っていたのに、まさかの下克上?
 だって、相手は組替えでやって来るなり、トドより上の扱いだったのよ? 同じ舞台で競って、その結果トドがオトされた、つーならまだわかるが、来たときすでに向こうが上。それってなんで?

 混乱したなあ。
 何故彼の方が評価されているのか、同じ舞台に並び立った新公を観てさえ、わからなかった。
 なにしろわたし、主役のトドロキしか見てなかったし(笑)。

 新公チケットがいきなり盛況で買えなくなったのは、作品への期待に加えて、このよそから来た人のファンもが、チケ取りに参入したためだと、あとでわかった。
 雪組に来る前、花組にいたときにすでに新公主演している人だったんだ。新公主演経験者が、組替え後に2番手をやるんじゃ、そりゃ内も外も興味津々だよ。

 
 とまあ、長々と年寄りの昔語りですが。

 今になってよーやく、このときの謎が解けたのよ。

 スカステで、『華麗なるギャツビー』を見た。
 ええ、これがトドの最後の新公作品。
 チケットが取れなくて右往左往した、思い出の作品(笑)。

 本公演の幕が開くなり、センターからビロクシー@トドロキが登場してきて、心臓ばくばくだった(笑)忘れられない作品。
 寡黙な執事役はトドのアンドロイドめいた美貌と相まって、そりゃーもーステキでかっこよくて、いやらしさ全開のウルフシェイム@タカネくんを中心にした闇社会の男たちとして踊る場面のかっこよさと、「ごはんですよ」のひとことのためだけに、何回でも通うことが出来た。
 ウルフシェイムからギャツビーのシマを任されたときの困惑と、直後にギャツビーに見せる侮蔑の表情が、青臭い邪悪さに満ちていて、良かったよなあ。
 ギャツビーの死について電話で話すウルフシェイムの背後に立つ姿も、これまたすげークール・ビューティぶりで。低温さがたまらん。
 美貌で、あまりにも非人間的で。

 だからこそ、千秋楽のアドリブ「ピンクのフリル・エプロン」では、きゃーきゃーにときめいたし(笑)。

 ビロクシーをオペラでピン撮りして追っかけていたわたしの視界と、スカステで放送されている『華麗なるギャツビー』はあまりにも別物でした(笑)。

 トドが映っていないのは想定内だったが、ギャツビーにしろ他の人たちにしろ、わたしの記憶とはぜんぜんちがっていて、記録と記憶はほんとに別物だなあ、と思ってみたり。

 そして。
 ええ、長年の謎。
 美しくないあの人が、何故スター扱いだったのか。

 大人になってから、映像を見て、よーーっくわかりました。

 香寿たつきの、美しさが。

 スーツの着こなしからして、チガウじゃん。美しいじゃん。
 肩や背中のライン、「男役」としての在り方。それらの型がすでに出来上がっている。
 それに比べ、トドロキはなんとももたついた姿をしていた。
 男役としての洗練度がちがった。

 続けて『ラバーズ・コンチェルト』のビデオも見ちゃったんだけどさ。
 ショーの組、ダンスの花組からやってきたタータンは、派手で押し出しが良くてとくにスーツ、黒タキ系衣装の着こなしが堂に入っていた。
 コメディと日本物の雪組で、ひとりダンディ風を吹かしていた。

 なるほど。こりゃカッコイイわ。
 美しいわ。

 当時のわたしには、わからなかった。なにしろカオしか見てなかったからな。

 今のわたしなら、この美しさも理解できるのにな。
 もったいないことをした。

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