立樹遥お茶会『My dear New Orleans/ア ビヤント』へ……しいちゃんの、ムラでの最後のお茶会へ行って来た。
しいちゃんは黒尽くめ。黒シャツに黒パンツ、ジャケットなしのラフだけど適度に端正な服装。垂らしたタイで、芝居の役・アンダーソンさんを意識しているそうだ。
デニム王として名を馳せた人だけど、わたしがしいちゃんを最初に見かけたころは、いつも黒のスーツをびしりと着たモデルさんみたいなきれーなおねーさんだったから、なんかその頃を思い出してなつかしい。
お茶会がはじまってすぐ、まだ場が暖まってませんよ(笑)、なときに、お客様がやってきた。
同じホテルでベニーがお茶会なのをロビーの案内を見て知っていたから、「ベニーちゃね?」とささやきあってはいたんだが。
ほんとにベニー来た!!
金髪をタイトなオールバックになでつけたべニーは、神妙な顔でつかつか入ってきた。
ホストだ、ホストが来た! 何故か『ヘイズ・コード』のときのホストっぷりに直結したんだ、ベニーの姿が。や、今回の彼の役は芝居もショーも基本オールバックだけども。
大真面目な顔した彼は、「しぃ様LOVE」と書かれたタスキを掛けていた。ポイントは「しぃ様」の小さな「ぃ」ですね。しいちゃんには「しい」と「しぃ」、表記が2種類あり、どちらも正しい感じなので、どっちを選ぶかは本人のフィーリング?
わたしは『宝塚おとめ』の愛称欄が「しい」なので大きい「い」を使ってますが、しいちゃん本人は小さい「ぃ」を使っているっぽい。……なら、『おとめ』直せばいいのに、放置されているところもまたツボだったりする(笑)。
そしてさらに、ベニーは大きな白いイルカを抱きかかえていた。
ホストばりの男ぶりと、たすきと白イルカ。
どこにつっこめばいいのかわからない姿で彼は、大ウケしているしいちゃんに、さらにもうひとつプレゼントを差し出した。
「本日の主役」とプリントされた、宴会タスキだ。
「お願いがあるんです、これをつけてください」
だかなんだか言って、そのアホウなタスキを差し出した。
しいちゃんはずっとウケていたけれど、一瞬だけ、逡巡した。
「これを?」
や、だってなにしろ、どっから見ても宴会グッズ。バリバリホストなベニーがそのタスキゆえに愉快極まりない姿になっているように、これをつけたら最後、どうあがいても、シリアスにはなれない。
一瞬のことだった。
でもたしかに、逡巡した。
最後のお茶会で、タスキを身につけるかどうかを。
つまり、ムラのファンの前に、最後に見せる姿をおちゃらけにするか、シリアスに美しいままにするか。
や、真のファンはお茶会だけがすべてじゃないし、これからまだまだ退団公演もイベントも続くわけだが。でも、けじめとしての「最後のお茶会」のカラーを決める、重大な選択だよこれは。
しいちゃんは一瞬だけ迷って、次の瞬間、決断した。
「そうだね、じゃ今日はこれで」
とかなんとか、台詞はおぼえていないが、にこっと笑って、タスキを受け取った。
しいちゃんは、一瞬のうちに考えたんだ。
最後のお茶会を、明るい、たのしいものにしようと。
最後だからお別れだからと涙涙の会にはするまいと。
きれいにシリアスに終わりたい気持ちもあったろうし、きっと「ファンはきれいな方がいいのかも?」とか、考えたんだと思う。
でも、それら全部飲み込んで、乗り越えて、出した結論は。
笑って別れよう。
……だったんだと、思う。
「最後のお茶会にタスキ、いいかもね(笑)」
たしかそんな意味のことを言っていたと思う。客席も大ウケして、拍手でタスキを肯定しているし。
実際、「本日の主役」と書かれたタスキを身につけたしいちゃんは、それまでの端正さが嘘のように、いや、なまじ美しいからこそさらに、愉快な姿になった。美貌もオーラも損なわれないが、とにかくみんな笑った。声に出して笑った。
しいちゃんが笑い、ベニーがかしこまって笑い、客席も大笑いした。
涙で別れたいわけじゃないんだ。
しいちゃんは選んだんだ。
「今日一日、記念撮影もこのままだからね(笑)」
黒尽くめの美形なのに、お笑いタスキ。
笑ってほしい、と、彼は言う。大きな大きな笑顔で。
でもってベニー。
お茶会の方向性を決定づけた、ものすげーことをしでかしたのに、本人はもちろんなにもわかっていない(笑)。
ベニーのことをしいちゃんが客席に紹介する。
星組に組替えでやってきたしいちゃんが、ダンスシューズをあげたことからはじまったという。当時研2だかのベニーは、ボロボロのダンスシューズで踊っていたらしい。「靴下が見えそうなくらい」傷んだベニーの靴を、しいちゃんが見かねて、自分の使っていなかった靴をあげたそうだ。
……謎が多いなベニー。ボロボロのダンスシューズって、どこの昭和時代少女マンガのヒロイン?!
でもって、「よかったら、これを使いたまえ」と新しい靴を持って現れるしい様は、どこの王子様?!
睫毛びしばし目に星とびまくり唇てかてかな少女マンガ絵で、ふたりの出会いが脳裏にあざやかに描けてしまいましたがな!(笑)
そういえば、わたしが「紅ゆずる」を最初に知ったのは、しいちゃんの外部出演公演『タック』初日の劇場ロビーだった。
ジェンヌはみんな演出の謝先生宛に連名で花を贈っていた。個人名なんかない。また、しいちゃんへのお花もなかった。なにか暗黙のルールがあるなりして、しいちゃんにはあえて花を贈っていないんだろうなと思った。なにしろタカラヅカはよくわかんないルールがいっぱいあるみたいだし。
しいちゃん宛のお花は、現役ジェンヌからではなく、別の人たちからばかりだった。
そんななか。
ひとりだけ、「立樹遥様」宛のものがあった。「宝塚歌劇団星組 紅ゆずる」。
誰。
現役ジェンヌは誰ひとり、トップスターのワタさんですら、謝先生宛で、しいちゃん宛には贈ってないのに。
空気読まず、ただひとり、堂々と花を入れているこの「紅ゆずる」って誰よ?!(笑)
いやあ、大ウケしたよね、ロビーで。2005年1月の博品館。
たしかうれしがって写真撮ったよね、ベニーからの花。
誰かわかんないし、ひとりだけ明らかに空気読めてないんだけど、それでも、しいちゃんにお花を入れてくれた子に、好意を持たないわけがない。
我らが友人たち・どりーず内で、顔もわからないまま、ベニー株は上がった(笑)。
そんなことを、思い出していた。
ケロが卒業し、すずみんとれおんにはバウ主演が決まり、まとぶが2番手として出演する中日の『王家に捧ぐ歌』再演も決まっていた。番手の付いた人たちが躍進するそんなときに、何故しいちゃんひとり外部出演なのか。女役なのか。
期待だけでなく、たしかに胸の底にあった割り切れない思い、不安な思いを抱きつつ、とにかく初日に駆けつけたはじめての劇場で、てらうことなくしいちゃんへの愛を叫ぶお花を見つけることができて、どれだけほっこりしたか。
ベニー自身は知らない。気づいていない。
たったひとりで入れたお花が、与えた影響なんて、考えもしないだろう。
最後のお茶会の、方向性を決定づけたことも。
ベニー自身は知らない。気づいていない。
ショー『ア ビヤント』で、しいちゃん演じるボスの部下をやっているんだけど、そこでのベニーの役作りは、「ボスのことを好きすぎて、あすかさんに嫉妬している」そうですよ。
もっとちゃんと説明すりゃいいのに、早口にあわあわ喋って、しかも途中で「私の話なんかどーでもいい」とぶった切るんだもの。喋り出したんだから、最後まで話せ(笑)。
最後まであわあわしたまま、落ち着くことなくベニーは去っていきました。や、まるで逃げるように。
大爆笑に震える空気を、残したまま。
お茶会の空気を、方向性を決定づけたまま。
涙で別れたいわけじゃないんだ。
しいちゃんの意志なんだ。
黒い端正な服に映える、白いタスキ。お笑いタスキ。
迷いを吹っ切って、タスキを掛けたタツキさんは、凛々しく立っていらっしゃいました。
あの、太陽の笑顔で。
しいちゃんは黒尽くめ。黒シャツに黒パンツ、ジャケットなしのラフだけど適度に端正な服装。垂らしたタイで、芝居の役・アンダーソンさんを意識しているそうだ。
デニム王として名を馳せた人だけど、わたしがしいちゃんを最初に見かけたころは、いつも黒のスーツをびしりと着たモデルさんみたいなきれーなおねーさんだったから、なんかその頃を思い出してなつかしい。
お茶会がはじまってすぐ、まだ場が暖まってませんよ(笑)、なときに、お客様がやってきた。
同じホテルでベニーがお茶会なのをロビーの案内を見て知っていたから、「ベニーちゃね?」とささやきあってはいたんだが。
ほんとにベニー来た!!
金髪をタイトなオールバックになでつけたべニーは、神妙な顔でつかつか入ってきた。
ホストだ、ホストが来た! 何故か『ヘイズ・コード』のときのホストっぷりに直結したんだ、ベニーの姿が。や、今回の彼の役は芝居もショーも基本オールバックだけども。
大真面目な顔した彼は、「しぃ様LOVE」と書かれたタスキを掛けていた。ポイントは「しぃ様」の小さな「ぃ」ですね。しいちゃんには「しい」と「しぃ」、表記が2種類あり、どちらも正しい感じなので、どっちを選ぶかは本人のフィーリング?
わたしは『宝塚おとめ』の愛称欄が「しい」なので大きい「い」を使ってますが、しいちゃん本人は小さい「ぃ」を使っているっぽい。……なら、『おとめ』直せばいいのに、放置されているところもまたツボだったりする(笑)。
そしてさらに、ベニーは大きな白いイルカを抱きかかえていた。
ホストばりの男ぶりと、たすきと白イルカ。
どこにつっこめばいいのかわからない姿で彼は、大ウケしているしいちゃんに、さらにもうひとつプレゼントを差し出した。
「本日の主役」とプリントされた、宴会タスキだ。
「お願いがあるんです、これをつけてください」
だかなんだか言って、そのアホウなタスキを差し出した。
しいちゃんはずっとウケていたけれど、一瞬だけ、逡巡した。
「これを?」
や、だってなにしろ、どっから見ても宴会グッズ。バリバリホストなベニーがそのタスキゆえに愉快極まりない姿になっているように、これをつけたら最後、どうあがいても、シリアスにはなれない。
一瞬のことだった。
でもたしかに、逡巡した。
最後のお茶会で、タスキを身につけるかどうかを。
つまり、ムラのファンの前に、最後に見せる姿をおちゃらけにするか、シリアスに美しいままにするか。
や、真のファンはお茶会だけがすべてじゃないし、これからまだまだ退団公演もイベントも続くわけだが。でも、けじめとしての「最後のお茶会」のカラーを決める、重大な選択だよこれは。
しいちゃんは一瞬だけ迷って、次の瞬間、決断した。
「そうだね、じゃ今日はこれで」
とかなんとか、台詞はおぼえていないが、にこっと笑って、タスキを受け取った。
しいちゃんは、一瞬のうちに考えたんだ。
最後のお茶会を、明るい、たのしいものにしようと。
最後だからお別れだからと涙涙の会にはするまいと。
きれいにシリアスに終わりたい気持ちもあったろうし、きっと「ファンはきれいな方がいいのかも?」とか、考えたんだと思う。
でも、それら全部飲み込んで、乗り越えて、出した結論は。
笑って別れよう。
……だったんだと、思う。
「最後のお茶会にタスキ、いいかもね(笑)」
たしかそんな意味のことを言っていたと思う。客席も大ウケして、拍手でタスキを肯定しているし。
実際、「本日の主役」と書かれたタスキを身につけたしいちゃんは、それまでの端正さが嘘のように、いや、なまじ美しいからこそさらに、愉快な姿になった。美貌もオーラも損なわれないが、とにかくみんな笑った。声に出して笑った。
しいちゃんが笑い、ベニーがかしこまって笑い、客席も大笑いした。
涙で別れたいわけじゃないんだ。
しいちゃんは選んだんだ。
「今日一日、記念撮影もこのままだからね(笑)」
黒尽くめの美形なのに、お笑いタスキ。
笑ってほしい、と、彼は言う。大きな大きな笑顔で。
でもってベニー。
お茶会の方向性を決定づけた、ものすげーことをしでかしたのに、本人はもちろんなにもわかっていない(笑)。
ベニーのことをしいちゃんが客席に紹介する。
星組に組替えでやってきたしいちゃんが、ダンスシューズをあげたことからはじまったという。当時研2だかのベニーは、ボロボロのダンスシューズで踊っていたらしい。「靴下が見えそうなくらい」傷んだベニーの靴を、しいちゃんが見かねて、自分の使っていなかった靴をあげたそうだ。
……謎が多いなベニー。ボロボロのダンスシューズって、どこの昭和時代少女マンガのヒロイン?!
でもって、「よかったら、これを使いたまえ」と新しい靴を持って現れるしい様は、どこの王子様?!
睫毛びしばし目に星とびまくり唇てかてかな少女マンガ絵で、ふたりの出会いが脳裏にあざやかに描けてしまいましたがな!(笑)
そういえば、わたしが「紅ゆずる」を最初に知ったのは、しいちゃんの外部出演公演『タック』初日の劇場ロビーだった。
ジェンヌはみんな演出の謝先生宛に連名で花を贈っていた。個人名なんかない。また、しいちゃんへのお花もなかった。なにか暗黙のルールがあるなりして、しいちゃんにはあえて花を贈っていないんだろうなと思った。なにしろタカラヅカはよくわかんないルールがいっぱいあるみたいだし。
しいちゃん宛のお花は、現役ジェンヌからではなく、別の人たちからばかりだった。
そんななか。
ひとりだけ、「立樹遥様」宛のものがあった。「宝塚歌劇団星組 紅ゆずる」。
誰。
現役ジェンヌは誰ひとり、トップスターのワタさんですら、謝先生宛で、しいちゃん宛には贈ってないのに。
空気読まず、ただひとり、堂々と花を入れているこの「紅ゆずる」って誰よ?!(笑)
いやあ、大ウケしたよね、ロビーで。2005年1月の博品館。
たしかうれしがって写真撮ったよね、ベニーからの花。
誰かわかんないし、ひとりだけ明らかに空気読めてないんだけど、それでも、しいちゃんにお花を入れてくれた子に、好意を持たないわけがない。
我らが友人たち・どりーず内で、顔もわからないまま、ベニー株は上がった(笑)。
そんなことを、思い出していた。
ケロが卒業し、すずみんとれおんにはバウ主演が決まり、まとぶが2番手として出演する中日の『王家に捧ぐ歌』再演も決まっていた。番手の付いた人たちが躍進するそんなときに、何故しいちゃんひとり外部出演なのか。女役なのか。
期待だけでなく、たしかに胸の底にあった割り切れない思い、不安な思いを抱きつつ、とにかく初日に駆けつけたはじめての劇場で、てらうことなくしいちゃんへの愛を叫ぶお花を見つけることができて、どれだけほっこりしたか。
ベニー自身は知らない。気づいていない。
たったひとりで入れたお花が、与えた影響なんて、考えもしないだろう。
最後のお茶会の、方向性を決定づけたことも。
ベニー自身は知らない。気づいていない。
ショー『ア ビヤント』で、しいちゃん演じるボスの部下をやっているんだけど、そこでのベニーの役作りは、「ボスのことを好きすぎて、あすかさんに嫉妬している」そうですよ。
もっとちゃんと説明すりゃいいのに、早口にあわあわ喋って、しかも途中で「私の話なんかどーでもいい」とぶった切るんだもの。喋り出したんだから、最後まで話せ(笑)。
最後まであわあわしたまま、落ち着くことなくベニーは去っていきました。や、まるで逃げるように。
大爆笑に震える空気を、残したまま。
お茶会の空気を、方向性を決定づけたまま。
涙で別れたいわけじゃないんだ。
しいちゃんの意志なんだ。
黒い端正な服に映える、白いタスキ。お笑いタスキ。
迷いを吹っ切って、タスキを掛けたタツキさんは、凛々しく立っていらっしゃいました。
あの、太陽の笑顔で。
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