うつくしい世界で。@星組千秋楽
2009年3月12日 タカラヅカ
9人の退団者を迎えた蘭のアーチに、光がともる。
歓声。
蘭の花で飾られたオープンカーが現れる。
歓声。
儀式はまちがいなく、クライマックスに入っていた。
もう何度となく見送ってきた、サヨナラの光景。
伝統に守られ、伝統を守り、受け継がれてきた儀式。
白い服に身を包んだ人々、彼らの作る道の外側で遠く見守る一般ファン。
パレードがはじまる前に、人員整理をしている劇場スタッフと話した。
今年から警備に関して警察の締め付けがきつくなったこと。なにか問題が起これば今後、サヨナラパレードは行われなくなること。
「そんなの嫌です、パレードは続けてください」
と即座に言うわたしと友人たちに対し、劇場スタッフもまた、即答した。
「私たちも、なくしたくありません」
だからこそ、こうやって何時間も立ち働いて、声を枯らして人波を誘導しているのだと。
パレードが終わったあと、仕事帰りに駆けつけ、花の道から眺めていたnanaタンと合流した。nanaタンは言う。
「兵庫県警すごいよ、退団者が出てきたら、ガードと一緒にしゃがむんだよ? こんなの他ではありえない」
いくつもの想い、いくつもの年月が重なって、淘汰され盛り上げられ、たどり着いた究極の形が、このパレードなんだ。
退団者FCのために何時間も場所取りしている在団組子FCの人たち、何時間も待ち続ける一般ファンの人たち、どれほどの強い想いが重なって、この場が継続されているのか。
伝統、とひとことに言ってしまっても、それが伝統たりえるには、たくさんの奇跡が重なっている。
ただもう、美しい、と思う。
日本の花相場が動くほどの、馬鹿げたほどの花の使い方も。
何時間も、その一瞬のためだけに努力しつづける人々も。
なんの生産性もない行動だけど、ひとの想いが集結したこの場を、この瞬間を、とてもつなく美しいものだと思う。
その美しい場所に、美しい人が現れる。
トウコちゃんは、トウコちゃんの小さな身体が隠れてしまうほどの大きな花を持って、現れた。
上がる悲鳴のような歓声。
拍手と、声。名を呼ぶ声、愛を、感謝を叫ぶ声。
トウコちゃんは笑顔でゆっくり歩き、そして何故か、ガードに混ざっているトウコ父を無視した。
他の退団者が一様に、ガードにまざっているトウコ父を見て激しく反応したので、実の娘であるトウコちゃんはどれほどかわいい反応をするのかと期待していたのに……見事に、スルーした。
わざとだよね? わざと、知らんぷりしたよねえ??(笑)
なんかもー、らしくって、笑える。
花盾はもちろん、純白の蘭。オープンカーを飾る花も、純白の蘭。
安蘭けいの、蘭。
……その名前をわたしが知ったのは、もう10年以上まえの新公だった。77期のある娘役さんにチケットを取っていただいて、坐った席の隣にいる人たちが、みんな「安蘭けい」と書かれたチケット袋を持っていた。
ああ、そんな名前の人がいたなあ、首席入団の人だっけ。
最初はほんと、その程度の認識だった。
そして、名前でなく、舞台上での姿を認識した、わたし的には伝説の『風と共に去りぬ』新人公演。
そこからはじまって、「そんな人」は確実な認識のもと、とてもとても大切な人になった。
雪組時代の快進撃、雪組3兄弟、まさかの組替え、星組でいきなりバウ主演の五右衛門様、組内2番手、正式2番手。
ケロとの再会、アイーダ、小次郎、いろんな役を経て、トップ就任へ。
雪組下級生時代を知るものからしたら、ありえないほどの遠回り、長い道のりで。
でも、だからこそ、これほど長い間、舞台人「安蘭けい」を見ていられた。
なつかしい人。
今、目の前にしていてなお、強く思う。
なつかしい人。
わたしのヅカファン人生の大半に、関わっている人。
これから何度でも、思い出すんだろう。
「あのころは、安蘭けいがいた」
ずっとずっと。
とりたててパフォーマンスもなく、今まで見送ってきた多くのスターさんと同じように、トウコちゃんは花道を歩き、報道席前で立ち止まってリクエストに応え、オープンカーに乗って、去っていった。
時間にして、ほんのわずか。
アーチの奥から現れて、車に乗って去ってゆくまで。
笑って、手を振って。
歓声を浴びて。
光を浴びて。
伝統の、これまで通りの、そしてこれからも続く、長く長く続くタカラヅカという夢の、星のひとつとして。
トウコちゃんもまた、紡いでいった。
規則正しく、見送る人々。
涙し、声を上げながらも、決して場を乱したりスタンドプレイしたりしない。混乱して事故を起こして、パレードが以後開催できなくしてしまったりは、絶対しない。
どれほど今、哀しくても。
別れが耐え難くて、近くへ行きたいとしても。
与えられた場所で、精一杯見送る。愛を叫ぶ。
こうして、続いていく。
夢の花園タカラヅカは、続いていく。
見送るわたしたちも、たしかに伝統の一部であり、それを守るモノなのだろう。
点ではなく、線なんだ。
約束を守ることで、これからも今までと同じことが出来るように、未来へつなげていく。
安蘭けいと出会えた場所を、護り続ける。
男役・安蘭けいがいた場所を、護り続ける。
タカラヅカがこれからも意味ある場所であることが、巣立っていく人々を押し上げる力になるだろう。
てゆーかもー、ただただ、別れが寂しい。
あっという間に終わってしまう、パレードの光が愛しくて、哀しい。
トウコちゃんはいつだってタカラヅカにいてくれたんだから、いなくなるなんて想像つかないってばよ。
別れがあること、今がその機会であり、他にはありえないのだと、理解していても。
長かったから。
ほんとうにずっと、価値ある舞台を見せ続けてくれたから。
美しいなあ。
トウコちゃんも、彼女を飾る蘭の花も、彼女を見送る白い服の人たちも。力を振り絞る各会の人たちも劇場スタッフも、警察の人たちも。
世界が美しくて、せつなくて、しあわせだ。
こんなに大好きでいられて、しあわせだ。
トウコちゃんも、これからもっともっと、しあわせでありますように。
歓声。
蘭の花で飾られたオープンカーが現れる。
歓声。
儀式はまちがいなく、クライマックスに入っていた。
もう何度となく見送ってきた、サヨナラの光景。
伝統に守られ、伝統を守り、受け継がれてきた儀式。
白い服に身を包んだ人々、彼らの作る道の外側で遠く見守る一般ファン。
パレードがはじまる前に、人員整理をしている劇場スタッフと話した。
今年から警備に関して警察の締め付けがきつくなったこと。なにか問題が起これば今後、サヨナラパレードは行われなくなること。
「そんなの嫌です、パレードは続けてください」
と即座に言うわたしと友人たちに対し、劇場スタッフもまた、即答した。
「私たちも、なくしたくありません」
だからこそ、こうやって何時間も立ち働いて、声を枯らして人波を誘導しているのだと。
パレードが終わったあと、仕事帰りに駆けつけ、花の道から眺めていたnanaタンと合流した。nanaタンは言う。
「兵庫県警すごいよ、退団者が出てきたら、ガードと一緒にしゃがむんだよ? こんなの他ではありえない」
いくつもの想い、いくつもの年月が重なって、淘汰され盛り上げられ、たどり着いた究極の形が、このパレードなんだ。
退団者FCのために何時間も場所取りしている在団組子FCの人たち、何時間も待ち続ける一般ファンの人たち、どれほどの強い想いが重なって、この場が継続されているのか。
伝統、とひとことに言ってしまっても、それが伝統たりえるには、たくさんの奇跡が重なっている。
ただもう、美しい、と思う。
日本の花相場が動くほどの、馬鹿げたほどの花の使い方も。
何時間も、その一瞬のためだけに努力しつづける人々も。
なんの生産性もない行動だけど、ひとの想いが集結したこの場を、この瞬間を、とてもつなく美しいものだと思う。
その美しい場所に、美しい人が現れる。
トウコちゃんは、トウコちゃんの小さな身体が隠れてしまうほどの大きな花を持って、現れた。
上がる悲鳴のような歓声。
拍手と、声。名を呼ぶ声、愛を、感謝を叫ぶ声。
トウコちゃんは笑顔でゆっくり歩き、そして何故か、ガードに混ざっているトウコ父を無視した。
他の退団者が一様に、ガードにまざっているトウコ父を見て激しく反応したので、実の娘であるトウコちゃんはどれほどかわいい反応をするのかと期待していたのに……見事に、スルーした。
わざとだよね? わざと、知らんぷりしたよねえ??(笑)
なんかもー、らしくって、笑える。
花盾はもちろん、純白の蘭。オープンカーを飾る花も、純白の蘭。
安蘭けいの、蘭。
……その名前をわたしが知ったのは、もう10年以上まえの新公だった。77期のある娘役さんにチケットを取っていただいて、坐った席の隣にいる人たちが、みんな「安蘭けい」と書かれたチケット袋を持っていた。
ああ、そんな名前の人がいたなあ、首席入団の人だっけ。
最初はほんと、その程度の認識だった。
そして、名前でなく、舞台上での姿を認識した、わたし的には伝説の『風と共に去りぬ』新人公演。
そこからはじまって、「そんな人」は確実な認識のもと、とてもとても大切な人になった。
雪組時代の快進撃、雪組3兄弟、まさかの組替え、星組でいきなりバウ主演の五右衛門様、組内2番手、正式2番手。
ケロとの再会、アイーダ、小次郎、いろんな役を経て、トップ就任へ。
雪組下級生時代を知るものからしたら、ありえないほどの遠回り、長い道のりで。
でも、だからこそ、これほど長い間、舞台人「安蘭けい」を見ていられた。
なつかしい人。
今、目の前にしていてなお、強く思う。
なつかしい人。
わたしのヅカファン人生の大半に、関わっている人。
これから何度でも、思い出すんだろう。
「あのころは、安蘭けいがいた」
ずっとずっと。
とりたててパフォーマンスもなく、今まで見送ってきた多くのスターさんと同じように、トウコちゃんは花道を歩き、報道席前で立ち止まってリクエストに応え、オープンカーに乗って、去っていった。
時間にして、ほんのわずか。
アーチの奥から現れて、車に乗って去ってゆくまで。
笑って、手を振って。
歓声を浴びて。
光を浴びて。
伝統の、これまで通りの、そしてこれからも続く、長く長く続くタカラヅカという夢の、星のひとつとして。
トウコちゃんもまた、紡いでいった。
規則正しく、見送る人々。
涙し、声を上げながらも、決して場を乱したりスタンドプレイしたりしない。混乱して事故を起こして、パレードが以後開催できなくしてしまったりは、絶対しない。
どれほど今、哀しくても。
別れが耐え難くて、近くへ行きたいとしても。
与えられた場所で、精一杯見送る。愛を叫ぶ。
こうして、続いていく。
夢の花園タカラヅカは、続いていく。
見送るわたしたちも、たしかに伝統の一部であり、それを守るモノなのだろう。
点ではなく、線なんだ。
約束を守ることで、これからも今までと同じことが出来るように、未来へつなげていく。
安蘭けいと出会えた場所を、護り続ける。
男役・安蘭けいがいた場所を、護り続ける。
タカラヅカがこれからも意味ある場所であることが、巣立っていく人々を押し上げる力になるだろう。
てゆーかもー、ただただ、別れが寂しい。
あっという間に終わってしまう、パレードの光が愛しくて、哀しい。
トウコちゃんはいつだってタカラヅカにいてくれたんだから、いなくなるなんて想像つかないってばよ。
別れがあること、今がその機会であり、他にはありえないのだと、理解していても。
長かったから。
ほんとうにずっと、価値ある舞台を見せ続けてくれたから。
美しいなあ。
トウコちゃんも、彼女を飾る蘭の花も、彼女を見送る白い服の人たちも。力を振り絞る各会の人たちも劇場スタッフも、警察の人たちも。
世界が美しくて、せつなくて、しあわせだ。
こんなに大好きでいられて、しあわせだ。
トウコちゃんも、これからもっともっと、しあわせでありますように。
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