ひそかな野望は。@Crossroad~遠野あすかとの交差点~
2009年3月19日 タカラヅカ「あなたが好きよ、アルフォンソ」
わたしにとっての、「女優」遠野あすかは、『Crossroad』のヘレナ役がはじまりであり、やはりそこに行き着くのだと思う。
お正月の阪急ポスターに抜擢された新進娘役、このポスターに載るってことは劇団はこの子をトップスターにするつもりなんだろう。娘役は研5くらいにはトップになるもんだし、研2の「遠野あすか」って子がトップ射程距離にいても、なんら不思議はない。
たかちゃんファンだったわたしが宙組を観劇する理由は、なにを置いてもたかちゃんだ。ヒロインがまったく知らない入団したばかりの子でも関係ない、とにかくたかちゃん主演だから観に行った、ドラマシティ公演初日。チケット持ってないから、サバキでGET。
劇団期待の娘役だとは、わかっていたけれど、阪急ポスターを見る限りはそれほど美人じゃないし、かわいいっていうにはちとファニーフェイスだし。事前の期待なんか皆無だった。
それが。
その無名の抜擢新人娘役は、舞台の上でほんとーに変わっていった。花開いていった。
なにしろ正塚芝居、ヒロインはファンファーレと共に登場したり、ひとりだけ豪華な衣装を着ていたりしない。
ダサいスカートにブラウス、いかにも学生が持っていそうな、どーしよーもない大きなバッグ。
「ふつうの」女の子設定だったヘレナは、容赦なくイケてない、垢抜けない女の子だった。
世間知らずでKYという設定で、本人は無邪気に他人を傷つける。
それゆえに、主人公のアルフォンソ@たかこの逆鱗に触れるわけだが。
ヘレナの持つ身勝手さが、いちいち、身につまされた。
あまりに、リアルで。
なんの根拠もなく他人を見下し、自己防衛しているくせに、都合良く期待してみて、それが叶わなかった(勘違いだった)とわかったあとの身の翻し方とか、彼女の感情の流れがリアルで、見ていて痛い。
誰もそんなもの、見たくないよ。人はそーゆー「醜さ」を隠したいと思ってるんだ。とくに、夢の世界であるタカラヅカでは、見たくないもんなんだよ?
中2病だろソレ、みたいな自己中心的なデリケートさをゆんゆん臭わせているときですら、彼女の抱える歪みや、荒廃が見えた。
精神に直撃をくらわす系の、痛さで。
そのどーしよーもないウザい女の子が、運命に翻弄されるうちに、成長していく。変わっていく。
心に抱えた飢えは、そのままに。孤独の深さ、歪みはそのままに。
ただ彼女は、恋をするんだ。
自分を嫌い、憎んでいる男に、恋をする。
自分が死ねば、男が喜ぶんじゃね? てなぐらい、絶望的な相手を、愛してしまう。
嫌われても憎まれても軽蔑されても、行くところのない彼女は、その男のそばにいるしかない。
絶望を病んだまま、彼女はそこにいる。
どこへも行けない彼女は、それでも、愛する男を守るために力の限りを尽くす。
ヘレナが道を誤った原因は、彼女の父親にあったのだけど、父への反発が、愛情の渇望が、すべてを歪めてしまっていたのだけど、そんなトラウマの根っこにある父親にすら、頭を下げる決心をする。
アルフォンソを守るためなら、どんなことでもする。
追いつめられ、研ぎ澄まされていく、男と女。
ヘレナはずっとアルフォンソを愛しているけれど、アルフォンソはそうじゃない。だけど彼にはもう、ヘレナしかいない。
無神経で他人を攻撃することでしか自分を守れなかった少女は、ウザくてきれいでもかわいくもなかったそのへんにいそーなふつーの女の子は、舞台の上で、ドラマの中で、あざやかに変わっていった。
花開いていった。
「きれいだ」
花を手に笑うヘレナに、アルフォンソが思わずつぶやくように。
心の闇に歪んでいた少女は、今、美しい花となった。
「嫌いじゃない。オマエのこと嫌いじゃないって言ったんだ」
泣きそうに怒鳴る男に、少女は微笑む。白い花のように。
「あなたが好きよ、アルフォンソ」
嫌いじゃない……そう言うことしかできない男に。「好き」と、うつくしいことばを返す。
ほんとに、きれいに見えたから、すごい。
あか抜けないなあ、これがヒロインか。そう思った女の子が、同じ舞台の上で、物語の上で。
そして、駄目押し。
つか、トドメ。
その恋をしてきれいになったあとの、精神的に大人になったヘレナの直後に、回想シーンで「最初の、バカで幼いヘレナ」を演じるんだ。で、その次の瞬間また、「大人の美しいヘレナ」に戻る。
そのあざやかさ。
舌を巻いた。
これが、初抜擢・初ヒロインの、研2になったばかりの女の子か。
すごい子が現れた。
当時「すごい生意気な子」「たかちゃんのことはすでにバカにしている」「ずんちゃんの相手役になるつもり」などなど、悪い噂は山ほど聞いた(笑)。
まあもともと噂なんてもん眉唾だと思っているが、それにしたって、どんな悪い噂もわたしには関係なかった。
あのヘレナを演じた女優ならば、なんでも許せる。
その後も、あすかちゃんを過大評価しまくり、なにをやっても「あすかちゃんはすごいわ!」と言い続けた。
ヘレナがあったので、「これはちょっと……」なデキのものを見せられても、「遠野あすかだから、これはすばらしい演技のハズ」と思い込んでいた、節はある(笑)。
恋は盲目。
好意も盲目。
その後あすかちゃんはいろいろと、頭を打ったり回り道したり、さまざまな経験を通してより大きな舞台人に、女優になった。
好きな役は、たくさんある。
実は今、スカステで今月放送された『La Esperanza』東宝新公見てたんだけど、やっぱミルバはいいわ、素敵だわ。
イヴェットだってちょっと類を見ないくらい好きだし、あすかちゃんの演じた役はみんな、ヅカには不要なまでのリアリティがあって、そこが魅力だと思うわ。
だけど。
わたしにとってのいちばんは、どうしたって、ヘレナなの。
そんな最初の、本人的には未熟であろうものを言われても、最初をいちばんと言ってしまうと、その後のすべてを否定してしまうみたいになるけど。
遠野あすかの軌跡を否定するのでも、今を認めないのでもなくて。
ただわたしにとっては、ヘレナなの。
この役がなければ、わたしはこんなにあすかちゃんを好きにはならず、いつか好きになっていたとしても、ずっと遅かったと思う。新公学年の娘役なんて、意識して追わなければ、男役スターの活躍の陰に隠れてしまうものだから。
遠野あすかとの出会い。
わたしが、もっとも愛するヒロインを演じた、女優。
人間の闇を、痛みを、そして愛を、演じられる人。
ヘレナを主人公として、『Crossroad』のノベライズやりたいよ。彼女の歪みとその成長を、文章にしてみたい。
野望(笑)。
あすかちゃんが創り上げたキャラクタを、物語を、わたしというただの一ファン一観客が、どう受け止めたのか。
いつか描きたいと思う。
……『Crossroad』の主人公、アルフォンソの一人称小説はすでに書いた(デュシャンとのラヴ・ストーリーだが・笑)ので、やっぱ次の野望はヘレナだっ。
特別な特別な、遠野あすかちゃん。
卒業してしまうんだね……。
わたしにとっての、「女優」遠野あすかは、『Crossroad』のヘレナ役がはじまりであり、やはりそこに行き着くのだと思う。
お正月の阪急ポスターに抜擢された新進娘役、このポスターに載るってことは劇団はこの子をトップスターにするつもりなんだろう。娘役は研5くらいにはトップになるもんだし、研2の「遠野あすか」って子がトップ射程距離にいても、なんら不思議はない。
たかちゃんファンだったわたしが宙組を観劇する理由は、なにを置いてもたかちゃんだ。ヒロインがまったく知らない入団したばかりの子でも関係ない、とにかくたかちゃん主演だから観に行った、ドラマシティ公演初日。チケット持ってないから、サバキでGET。
劇団期待の娘役だとは、わかっていたけれど、阪急ポスターを見る限りはそれほど美人じゃないし、かわいいっていうにはちとファニーフェイスだし。事前の期待なんか皆無だった。
それが。
その無名の抜擢新人娘役は、舞台の上でほんとーに変わっていった。花開いていった。
なにしろ正塚芝居、ヒロインはファンファーレと共に登場したり、ひとりだけ豪華な衣装を着ていたりしない。
ダサいスカートにブラウス、いかにも学生が持っていそうな、どーしよーもない大きなバッグ。
「ふつうの」女の子設定だったヘレナは、容赦なくイケてない、垢抜けない女の子だった。
世間知らずでKYという設定で、本人は無邪気に他人を傷つける。
それゆえに、主人公のアルフォンソ@たかこの逆鱗に触れるわけだが。
ヘレナの持つ身勝手さが、いちいち、身につまされた。
あまりに、リアルで。
なんの根拠もなく他人を見下し、自己防衛しているくせに、都合良く期待してみて、それが叶わなかった(勘違いだった)とわかったあとの身の翻し方とか、彼女の感情の流れがリアルで、見ていて痛い。
誰もそんなもの、見たくないよ。人はそーゆー「醜さ」を隠したいと思ってるんだ。とくに、夢の世界であるタカラヅカでは、見たくないもんなんだよ?
中2病だろソレ、みたいな自己中心的なデリケートさをゆんゆん臭わせているときですら、彼女の抱える歪みや、荒廃が見えた。
精神に直撃をくらわす系の、痛さで。
そのどーしよーもないウザい女の子が、運命に翻弄されるうちに、成長していく。変わっていく。
心に抱えた飢えは、そのままに。孤独の深さ、歪みはそのままに。
ただ彼女は、恋をするんだ。
自分を嫌い、憎んでいる男に、恋をする。
自分が死ねば、男が喜ぶんじゃね? てなぐらい、絶望的な相手を、愛してしまう。
嫌われても憎まれても軽蔑されても、行くところのない彼女は、その男のそばにいるしかない。
絶望を病んだまま、彼女はそこにいる。
どこへも行けない彼女は、それでも、愛する男を守るために力の限りを尽くす。
ヘレナが道を誤った原因は、彼女の父親にあったのだけど、父への反発が、愛情の渇望が、すべてを歪めてしまっていたのだけど、そんなトラウマの根っこにある父親にすら、頭を下げる決心をする。
アルフォンソを守るためなら、どんなことでもする。
追いつめられ、研ぎ澄まされていく、男と女。
ヘレナはずっとアルフォンソを愛しているけれど、アルフォンソはそうじゃない。だけど彼にはもう、ヘレナしかいない。
無神経で他人を攻撃することでしか自分を守れなかった少女は、ウザくてきれいでもかわいくもなかったそのへんにいそーなふつーの女の子は、舞台の上で、ドラマの中で、あざやかに変わっていった。
花開いていった。
「きれいだ」
花を手に笑うヘレナに、アルフォンソが思わずつぶやくように。
心の闇に歪んでいた少女は、今、美しい花となった。
「嫌いじゃない。オマエのこと嫌いじゃないって言ったんだ」
泣きそうに怒鳴る男に、少女は微笑む。白い花のように。
「あなたが好きよ、アルフォンソ」
嫌いじゃない……そう言うことしかできない男に。「好き」と、うつくしいことばを返す。
ほんとに、きれいに見えたから、すごい。
あか抜けないなあ、これがヒロインか。そう思った女の子が、同じ舞台の上で、物語の上で。
そして、駄目押し。
つか、トドメ。
その恋をしてきれいになったあとの、精神的に大人になったヘレナの直後に、回想シーンで「最初の、バカで幼いヘレナ」を演じるんだ。で、その次の瞬間また、「大人の美しいヘレナ」に戻る。
そのあざやかさ。
舌を巻いた。
これが、初抜擢・初ヒロインの、研2になったばかりの女の子か。
すごい子が現れた。
当時「すごい生意気な子」「たかちゃんのことはすでにバカにしている」「ずんちゃんの相手役になるつもり」などなど、悪い噂は山ほど聞いた(笑)。
まあもともと噂なんてもん眉唾だと思っているが、それにしたって、どんな悪い噂もわたしには関係なかった。
あのヘレナを演じた女優ならば、なんでも許せる。
その後も、あすかちゃんを過大評価しまくり、なにをやっても「あすかちゃんはすごいわ!」と言い続けた。
ヘレナがあったので、「これはちょっと……」なデキのものを見せられても、「遠野あすかだから、これはすばらしい演技のハズ」と思い込んでいた、節はある(笑)。
恋は盲目。
好意も盲目。
その後あすかちゃんはいろいろと、頭を打ったり回り道したり、さまざまな経験を通してより大きな舞台人に、女優になった。
好きな役は、たくさんある。
実は今、スカステで今月放送された『La Esperanza』東宝新公見てたんだけど、やっぱミルバはいいわ、素敵だわ。
イヴェットだってちょっと類を見ないくらい好きだし、あすかちゃんの演じた役はみんな、ヅカには不要なまでのリアリティがあって、そこが魅力だと思うわ。
だけど。
わたしにとってのいちばんは、どうしたって、ヘレナなの。
そんな最初の、本人的には未熟であろうものを言われても、最初をいちばんと言ってしまうと、その後のすべてを否定してしまうみたいになるけど。
遠野あすかの軌跡を否定するのでも、今を認めないのでもなくて。
ただわたしにとっては、ヘレナなの。
この役がなければ、わたしはこんなにあすかちゃんを好きにはならず、いつか好きになっていたとしても、ずっと遅かったと思う。新公学年の娘役なんて、意識して追わなければ、男役スターの活躍の陰に隠れてしまうものだから。
遠野あすかとの出会い。
わたしが、もっとも愛するヒロインを演じた、女優。
人間の闇を、痛みを、そして愛を、演じられる人。
ヘレナを主人公として、『Crossroad』のノベライズやりたいよ。彼女の歪みとその成長を、文章にしてみたい。
野望(笑)。
あすかちゃんが創り上げたキャラクタを、物語を、わたしというただの一ファン一観客が、どう受け止めたのか。
いつか描きたいと思う。
……『Crossroad』の主人公、アルフォンソの一人称小説はすでに書いた(デュシャンとのラヴ・ストーリーだが・笑)ので、やっぱ次の野望はヘレナだっ。
特別な特別な、遠野あすかちゃん。
卒業してしまうんだね……。
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