なつかしい、おーぞらゆーひが、そこにいた。

 博多座公演。ゆーひくんの、トップお披露目のプレ公演。
 人数少ないし、セットちゃちだし演出紙芝居だし、芝居『大江山花伝』の間は特にナニも感じなかった。
 ゆーひくんがトップだとかいうことよりも、「ああ、主演しているなあ」という感覚が強い。
 路線と非路線の境目を、ガターになりそでならないまま転がるボーリング玉のよーに走ってきた彼だから、大劇場以外の別のハコで主演している、というそれだけの状況にも思える。
 バウやドラマシティで主演している、そーゆー感じ。
 が、ショー『Apasionado!! II』ではじめて、うわ、ゆーひくんってトップスターなんだと思えた。
 だってショーの真ん中は、トップしかやんないからね。人数少なくても、舞台小さくても、トップしかやらないのが通常。

 だからそこではじめて、これがゆーひくんのトップお披露目プレ公演なんだと実感し、そしてさらに。

 なつかしかった。

 真ん中の仕事を、あまりこなせてナイ感じが……(笑)。

 
 とにかくゆーひくんはそのときどきでチガウ人だったから。
 昔むかしの、クールっちゅーかアンニュイっちゅーか、粗暴にくすんだ、どこか寂しげな不良少年のような姿とか。
 ケロにーちゃんの横で盛大にしっぽ振ってたでかいわんこみたいな姿とか。
 概ねいつも脇で、真ん中の人ほど明るいライトはもらえず、影タイプの男まっしぐら。
 それでもいろんな要因が重なり、めぐりめぐって銀橋ひとりで渡るようになったり、ショーで1場面センターに立つようになったり。
 ふつーの「路線」の子が経験することを、何年も遅く、何倍もかかってたどり着いて、経験して。
 もう溝に落ちる、ガターになる、と思うところでなんとか持ちこたえてレーンの上に留まるボーリング玉。
 ガターの心配をしていたのに、気がついたら途中から軌道が変わってレーンの真ん中へ躍り出た。
 あさこちゃんがトップになってからのゆーひくんは、「遅れてきた輝き」がまぶしいばかりだった。今まで日陰にいたから発揮できなかったのか、それまでにない魅力をがんがん発光しはじめた。
 アレは誰だ、知らない人だ。……そう思って、とまどった。
 アレ、なんか真ん中いけんぢゃね?
 ずっと脇の人だったから、このままライトの外周あたりで鈍い光を灯す人だと思っていたから、その変化にびっくりして、でもいきなりきらきらしはじめても、真ん中としての経験も教育も受けてないからあちこちで「うわっ」てなことになっていて。
 それが花組に来てからすげー堂々たる真ん中ぶりで。さらになんか別人で。知らない人なんだか知ってる人なんだか、もーよくわかんない!

 と思っていたから。

 博多座で、『Apasionado!! II』で、おっかなびっくり真ん中やってるゆーひくんは、なつかしくて仕方なかった(笑)。
 
 あー、そーだねー。これくらい、いろいろいろいろ(笑)できないことのある人だったね。
 めまぐるしく変わって行くから、ちょっとわかんなくなってたよ。
 このつっこみどころの多い技術っぷり、足りないところや欠けたところも含めて目の離せない、魅力的な人だった。花組での兄貴ぶりがたのもしくて、しばらく忘れてた(笑)。

 器用な人でないことは、わかってる。ふつーの路線スターがたどり着く倍の時間をかけてここまでやってきた人だ。花組で「ショーの真ん中の立ち方」を勉強して、そしてさらにこのプレ公演で「トップスターの立ち方」を練習するわけだね。
 時間はかかっても、その分他にはないとびっきりの夢を見せてくれると思っている。

 『Apasionado!!』はトップ娘役不在という異常事態用に作られた作品で、キャラや場面のパワーバランスが偏っている。円熟期のトップスターあさこちゃんならではの力技が際立つ作りだった。
 それをそのまま「トップスター仮免許中」って感じに初公道運転中なプレお披露目公演に、手直しもせずにやらせるなんて、フジイくんに愛と配慮が欠けている気がするんだが。
 ゆーひくんはさぁ、花組で真ん中修行したとはいえ、やったのは『Red Hot Sea』のみなんだからねっ。1年花組にいて、大劇場2作に全ツにDCまでやって、出演したショーが『Red Hot Sea』だけって……どんだけ偏ってるの……。

 歌が微妙だったり、ダンスがアレだったり、「そーいや『MAHOROBA』はえらいことになってたよなあ、よりによってきりやんと対で、同じ振り付けで踊らされて」とか思い出したり、さらに「それでもビジュアルは素晴らしかったわ!」てなことを思い出したり。

 いろんなゆーひくんを、思い出す。
 ここまで来た彼の軌跡。彼の奇跡。

 かっこいいんだから、仕方ない。

 舞台の上で、おーぞらゆーひさんはとびきりかっこいい。
 なにができて、なにができない、そーゆー次元を超えて、かっこいい。
 そこにいるだけで創り上げるファンタジー。
 それにときめくために、劇場まで行くんだ。

 ああまったく、ゆーひくんはすべてがファンタジーだ。舞台姿も素顔のイケメンぶりも、そして彼がたどったジェンヌ人生の浮き沈みっぷりも。
 ダンスメインでどうこうやっているより、芝居がかった「ヴァレンチノ」や、ダークカラーの新場面にときめく。
 暗い瞳、空虚なエロス。

 
 それにしても。
 ゆーひくんって、『血と砂』のプロだよね。

 『血と砂』というと、おーぞらゆーひさんの初主演バウ、ケロ兄貴とWで主演したエロエロ作品の名前です。あのころはケロとふたりして別格ポジション、番手外扱いでした。
 そして、さらに『血と砂』というと、おーぞらゆーひさんが花組組替え後、はじめて2番手として、準トップスターとして大劇場に立った公演の原作名であります。
 そのうえ、『血と砂』とゆーと、おーぞらゆーひさんが宙組トップスターとして演じたショーの中の、劇中劇名でもあります。や、こっちの『血と砂』こそが「バウ・ライブアパシオナード『血と砂』」なんですがね。

 3回も同じタイトルの別作品に主要キャストで出演するジェンヌってのは、稀有じゃないか? つか、他に知らないわ。

 
 他に知らない、稀有な人。
 変わり続けるファンタジスタ。

 ゆーひくんを見ていたいんだ。
 ときめいていたいんだ。
 ずっと。

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