いちばん盛り上がったのは、まちがいなくベニーが登場した瞬間だ。

 星組DC『コインブラ物語』初日。
 作品はもおアレで、「脚本書いたヤツも演出したヤツも最低(怒)」状態、平坦で退屈、「出来事を時系列に並べただけの絵日記風」な展開に、客席が沈んでいるところで。

 突然、歌声が聞こえる。
 舞台上からではなく、客席。

 上手側真ん中の扉前。

 で。
 今までの世界観をひっくり返す調子で、派手に歌って踊る。

 退屈な絵日記でしかなかったのに、突然ミュージカルになるの!!
 王子様とお姫様がふたり並んでラヴラヴするだけだった童話絵本に、いきなり現代アニメのヒーローが登場するの。
 絵日記も絵本も、画面は動かない。なのに突然のアニメーション、動画、動く動く動く!

 客席の空気が、一気に変わった。

 昂揚。

 ぶわっと、沸き立った。

 紅ゆずるの、とんでもねー美貌っぷり。

 真ん中の扉から現れた彼は、真ん中通路を歌いながらやって来て、わたしの席のすぐそばで立ち止まった。
 で、客席を見回すよーにした。なんか言ってたかな。
 彼に呼応して、後ろ扉から男たちがぞろぞろ現れる。縦通路2本とも、イケメンたちが踊り通っていく。そのにぎやかさ。

 んで、ベニーだ。
 彼はものすげー勢いで、一本釣りした。
 歌いながら、ひとりの客にがーんとアピール。体勢を低くして、腕を広げて。
 目を合わせてアピられた女性は一瞬凝固し、ベニーが去ったあと、うきゃきゃと崩れた。や、その周囲も一斉にうきゃ~~!!となった。
 や、心はひとつ、ベニーが一本釣りしたそのブロック全部が、ざわついてえらいことに。(わたしも含まれる・笑)

 ベニー効果で客席がざわめいているその勢いのまま、舞台に上がったベニーと男たちは、陽気に野性的に歌い踊る。
 ひとりだけ混ざっているプラチナブロンドの女の子もかっこいい……って、アレ、まりもちゃん??(2役だと知らなかったから、混乱した)

 それまでの舞台進行のもたつき、テンポの悪さを全部ひっくり返す陽気さ。派手さ。
 ベニーをはじめとして、みやるりとまりもちゃんがまたいいんだ、美しいんだ。

 彼らは義賊で、元は由緒ある身分のモノだが悪人の謀略により今は野に身を伏している。力を蓄え、近い将来悪に鉄槌を加え、真実を明るみに出すべく大望を胸に秘めているんだ。
 おおお、よーやく物語が動き出した? 王子とその恋人が身分違いだからどーのこーの言ってるだけの「4畳半のお茶の間」的な、狭いところでうだうだやってるなんとも動きのない平坦な話が、過去の陰謀とか義賊とかで舞台が広がった??

 義賊リーダー@ベニー、その妹@まりもちゃんの、ワケありっぷり。彼らの身の上は、まんまキャスバルとアルテイシア。いわば、国を追われた王子と王女。幼かった彼らは逃げるしかなかったけれど、成長した今は故郷へ凱旋も可能。彼らを信じてついてきた家臣たちもいる!
 しかも甘い美貌の青年みやるりと、ワイルド美少女まりもちゃんは恋仲だ。ラヴラヴだ。
 みやるりが年下彼氏、てゆーかみやるりソロってナニゴト?! うおー、かしちゃんに似てるわやっぱ、なにあの美貌、王子様系。

 と、ほんとに、いちばんわくわくした一瞬だった。
 ベニーと盗賊団登場。

 物語的にも「長い長い導入部分が終わって、これからよーやく本編スタートね」という感じで、心からわくわくしたんだ。

 ほんとに。

 一瞬だったけどな。

 作者は物語センスが皆無らしいので、ほんとにわけわかんないことになってるんだわ。
 幕が開いてからずっと紙芝居状態で、衣装とキャストの豪華さと美しさのみ、それだけしかない状態で30分経過しているのよ。
 で、ストーリーは?? と、平坦さに客が困惑しているところに、派手に異分子投入、がらりと空気を変えて、「さあこれからだ!」と盛り上げておいて。

 この、いちばん盛り上がる彼らが、本筋と無関係って、どーゆーこと?!

 盗賊団の背景、リーダーとその妹のワケありっぷり、妹とイケメンの恋、しかもこの妹、王子様の恋人と瓜ふたつ、そこにはナニか秘密が?! と、わずかな間にすげー勢いでドラマを盛り上げているのよ。
 彼らが主役でもおかしくない勢いで。
 実際ベニーの美貌と華が半端ナイし。
 動きの少ない王子様側と対比させて、この義賊たちの物語が派手に進行するのね! 昔彼らを陥れた悪人たちが、現在の物語にナニか絡んでくるのね? 妹がヒロインと瓜ふたつ(まりもちゃん2役)なのは、物語の鍵よね? 生き別れの姉妹とか、そーゆーこと?
 そうでなければ、わざわざ盗賊団が1場面、これみよがしに歌い踊って自己紹介し、ベニーたちの背景説明なんかしないだろうし。
 なにより、みやるりとまりもちゃんの恋の話、これが決め手、みやるりにソロがあるんだもの、それだけ重要な役なわけよ。ふつーワケありで登場して恋人がいてソロのあるキャラは、主要キャラだもの、作劇の基本として。
 王子様の恋と隣国の関係、奸計ゆえ盗賊に身を落としたセレブ兄妹のお家再興と仇討ち、それらが複雑に絡み合って盛り上がり、最後はものすごいカタルシスに……!!

 ……これだけ伏線としか思えない登場しておいて、無関係って、どーゆーこと?

 盗賊団はべつに、どーでもいい役でした。
 彼らの名前も背景も設定も、まったくの無意味。
 妹ちゃんとその年下彼氏も、無意味。

 出てこなくても問題ナシ。

 話はあくまでも「4畳半のお茶の間」で終了。王子様が「ヒロインちゃんは盗賊に殺されました!」と報告受ければいいだけのこと。
 盗賊を描く必要はなかった。
 盗賊妹とヒロインが瓜ふたつである必要もなかったし(屋敷にいた若い娘でヒロインのドレスを着ていたから間違っても問題ナシ、死体は誰の目にも触れさせずに処理してまうわけだし)、その恋だとか元はお姫様だとかは、まーーったく、なんの意味もなかった。

 怒り狂った王子様が、わざわざ兵を率いて盗賊団を全滅させるのも、すげー感じ悪い。
 ちゃんと調べてから討伐しろよ、キミが惨殺している相手は善人なんだよ?? 主人公がただのバカだとなんで時間を掛けて表現するんだ??
 と、疑問ばかり。

 作品中、もっとも盛り上がったのは、まちがいなくベニーが登場した瞬間。観客に大歓迎された、ベニーと盗賊団。

 なのに彼らはストーリー上なんの意味も価値もなく、出てきたと思ったらなんの罪もなく主人公に惨殺、全滅させられる。
 彼らがひとりずつ殺されていく場面は、とにかく盛り上がる。登場時が最大の盛り上がりだから、ソレに次ぐ場面ね。
 影の主役?てくらいの登場だったから、彼らがただ為すがないまま殺されていく様に半信半疑。なんで? どーして?

 ベニーがトドに殺されて1幕終了、客席のぽかーんぶり。

「ええっと……さゆみちゃん、2幕も出てくるのよね?」「なんか殺されてなかった?」「出てくるでしょ?」……客席のざわめきったら(笑)。

 作者のセンスのなさをどーにかしてくれ。
 いちばん盛り上がる場面が、ストーリーと無関係、ただの端役たちの場面って……。
 アホや。

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