それはそうと、『相棒』ですが。

 ドラマの相棒ファンは、どの程度劇場へ足を運んでいるんでしょうねえ。
 タカラヅカを観たことがない、テレビドラマの知名度だけで、7500円出して師走の大阪で芝居を観ようっていう人は、どれくらいいるんだろう。

 それとも、劇団的には「タカラヅカはたまに観る」「昔はヅカファンだった」とかの、「下地はあるけど、現在はヅカを観ていない」人たちがターゲットなのかな? タカラヅカを知っていて、芝居を観るためにお金を出したり足を運んで労力を使うことができる人。
 知っているけれど、普段は観ない人たちが、ドラマの知名度でヅカのことを思い出して久しぶりに観劇してみる、てなあたりを狙ったのか。

 テレビドラマのお茶の間ファンってのは通常、「娯楽は無料が当たり前」「娯楽は茶の間で動かずに与えられて当たり前」だからなあ。
 自分で努力して動いて、大金払って、はじめて得られるモノぢゃないからなあ。

 まあなんにせよ、知名度がある作品とのコラボはいいんじゃないですか? 年末のDC公演としてはびっくりな売れ行きのようですから。
 景気が冷え込んでからのDCで、こんだけ売れてるのは大したもんだと、全組全公演ゆるく観劇している者の感想っす。

 しかし、疑問だったんですよ。
 ドラマファン、タカラヅカを観たことがない人たちが、どの程度観に来ているのかって。

 だってこの作品ときたら。
 非ヅカファン向け、だよね?

 まあ、イシダせんせの作品は大抵タカラヅカファン以外の客層を狙っているのかもしれませんが。
 『猛き黄金の国』とか『黎明の風』とか、なんでこれをタカラヅカで上演するんだろう、と首を傾げるモノを嬉々としてやっているわけだし。
 ヅカファンやディープなリピーターは無視して、一見さんや団体客をターゲットにする作品をあえて作るのも、企業としては当然のことだから仕方ないと思ってますが。

 観劇し終わったあと、「劇団は10回観る1人のファンより、1回しか観ない人が10人欲しいんだ」と思って、寂しくなりました。
 や、だからそれは仕方ないことだし、そこを狙うキモチもわかるんだ。わかってるんだ。
 それでも、まさに「1回しか観ない人」用に作られた『ベルばら』のあとで、「1回しか観ない人」用の『相棒』を見せられると、組ファンとしてはしょぼんです。……バランスとして、『ロシアン・ブルー』みたいな一見さんお断りのディープファン向け作品も混ぜてくれよおお。

 と、肩を落としてリピートをあきらめた、ドラマシティ公演『相棒』。

 ストーリーは、ひどいです。や、いつものイシダだから。

 世界的な作曲家でピアニストで映画の音楽監督で大酒のみでヘビースモーカーで臓器移植経験者で臓器移植キャンペーンのチャリティーコンサートに出演する予定のパリス@彩音ちゃん。あーあ、設定を書いてるだけで徒労感にさいなまれるな(笑)。
 そんなパリスの護衛を、特命係の右京さん@まとぶんと神戸@壮くんがすることになった。
 まあ実際、彼女は何者かに狙われているらしい。サンタ姿の暴漢@めぐむが2度も襲ってくるし? でも彼女もナニか隠しているようだし? なにしろ部屋にガスマスクとドライアイスを隠し持っているわけだし?
 右京さんは無事にパリスの命を狙っていた犯人を捕まえるわけだが……。
 

 イシダせんせらしい平板な演出で、短い場面を暗転でつなぐ「カーテン前芝居」「立ち話芝居」の大連続。とってつけた歌とダンス。
 画面は単調で工夫ナシ。『銀ちゃんの恋』でウケたからと、安易にテレビスクリーン付き。
 ……なのはまあ、想定内なのでいいとして。(いいのか)

 作劇の3大タブーのひとつに、夢オチってのがあります。
 盛り上げるだけ盛り上げておいて、ぜーんぶ夢でしたぁ、アハッ☆ で終わるヤツ。
 なにしろ夢だから、どれだけアンフェアでも無責任でもイイ。盛り上げるためだけに嘘もその場しのぎもなんでもOK、だって夢だもん。誰でも簡単に作家になれますよ、夢オチなら。小学1年生のとき、はじめて描いたマンガのラストが夢オチだったなあたし……遠い目。

 まさかタカラヅカで夢オチを見せられるとは思ってなかったっす……。同人誌とかならともかく。

 彼女の夢ならば、角田課長@まっつとアンコキナコモチコ@きらりハルくまのパジャマパーティが出てくるのはおかしいし。
 ただのご都合主義、整合性ナシ。「だって夢だもーん、キャハッ♪」で終了ですかそうですか。

 ふたつの殺意、ふたつの殺人計画が同時進行し、たまたま彼が犯人で彼女が被害者になった……という作劇も、できたはずだ。あんなひどい夢オチを使わなくても。
 構成を煮詰めることを放棄して、簡単なこと、楽なことしかしたくなかっただけじゃないの? という不誠実さが見えてつらい。

 また、ふたつの殺人計画の、動機のチープさ。
 人の心を軽んじているがゆえに、とってつけたよーな、どーでもいい動機。

 彼女の動機はまだマシっちゃーマシだけど、それならそれで彼女の音楽への思いとか夫への愛情とか、「憎」にふさわしいだけの「愛」を描いてからの話でしょう。うすっぺらいものしか描いてないのに、「ソレを損なわれたから殺そうと思った」……そして、「やっぱり許して待ちます」……なんなのこの「心」のない簡単ぷーな心情の変化っぷりは。

 その上彼女は「主人公と恋愛しちゃいけないけど、主人公に恋愛に近い感情を持つ」という矛盾した「お約束」ゆえに、心変わりが激しく気味の悪いことになってるし。『逆転裁判2』のヒロインが気持ち悪かったのと同じ。
 ヒロインが主役(探偵役)に淡い恋心を抱くなら、犯人の恋人だの妻だのの設定をやめておけよといつも思う。ヒロインは最初パートナーを愛していて、パートナーが犯罪者だっつーこともあり、途中で都合良く主役を好きになり、恋愛をしてはならないシリーズ物の主役はヒロインを振る、するとヒロインはやっぱり犯罪者となったパートナーを見守ることにする、と「ちょっといい話」のようにまとめて終了。くるっくる変わるキモチ、分裂する人格。……なんてキモチ悪い。

 夫の動機はさらにひどいしな(笑)。すべての物語上の負債を、オリキャラなのをいいことに、都合良くひとりで背負わされた感じ。

 なにごとにもまず「心」があり、人間であるがゆえに時には罪を犯してしまったりするもんなんだがなあ。

 
 まあ、ミステリ仕立てはなにかと難しいものだし、この作品は心理劇ではなくトリック系なんだから、動機をどうこう言うのは野暮だとするのもアリだろう。
 ということにして、動機のアレさを置くとしても。

 この作品が『相棒』というタイトルを名乗っていることへの、致命的な問題点がある。

 翌日欄へ続く。

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