自慢することぢゃないが、わたしは無教養である。
 シェイクスピアなんつー高尚なもんは、さっぱりわからない。学生時代、何度か読もうとして睡眠薬にしかならなかった苦い過去もある。観劇も何度かチャレンジしたが、理解できたとは到底思えない。観るたびに、「オレってほんまアホなん……」と肩を落とす。
 だからシェイクスピアの戯曲がナニを表し、どう解釈するのが正しいとか、「基本でしょ」「常識だからわかっていて当たり前」なことは、さーーっぱりわかっていない。

 シェイクスピア的にどうこう、ではなく、今自分が観た作品がどうであり、わたしが、どう感じたか。
 俎上にあるのは、ソレだけ。

 『ハムレット』の正しい鑑賞の仕方なんか知らないし、ハムレットがナニを考えていたのかもわからない。
 見終わったあとに「……で?」と言いたくなるよーな場合も多々ある、わたしにとってのシェイクスピア。(バカなんですよ)
 
 そんなわたしではございますが。

 『HAMLET!!』はもお、全部すっとばしてアリでしょう!と、思った。

 「……で?」ではなくて、「アリでしょう!」ですよ(笑)。
 なにがどうじゃなくて、とりあえずまるっと全部肯定。ハムレットの人生、わけのわかんなさ。やーもー大変だねキミ、うんうん、わかった、わかったよ。わかんないけど、わかったよ。
 
 そう、押し切られてしまうパワー(笑)。

 エンターテインメントにおいて、そーゆーことってあるんだよね。
 なにがどうとか、それで結局どうなったとか、結論はなんなのよとか、そーゆーことを超えて、気がついたら拍手している、わけわかんないけど昂揚している、たのしかった、おもしろかった、というキモチだけが残る。

 
 ハムレット@まさおってほんと、なんなんでしょう?
 わたしにはさーーっぱり、わかりません。

 ただ、彼が見せるいろんな顔を眺めているだけで、2時間終わってしまった。

 ぜんぜん好みぢゃないんだけどね(笑)。わたし的にまさおくんは、がんがんにぶっ飛ばしているときより、ちょい抑えたあたりが好みです。
 発散しているときより、悪だくみっつーか腹黒い……あ、本人が計算して悪役をしているんじゃないですよ、本人的にはふつーに二枚目の演技をしているつもりで、でもなんか腹黒いわこの人、みたいなあたりが好き。

 『HAMLET!!』は主演者にかかる仕事量が半端ナイ。
 膨大な出番、台詞、そしてなによりも、歌。派手な立ち回り。
 ワンマンショーの勢いで、すべてをこなし、真ん中で吠え続ける。「オレが主役!」と君臨し続ける。その熱量の放出の大変さ。

 ハムレットくんのことは好きでもキライでもないし、彼がなにをしたいのか、なにをやってんのか、ぜんぜんわかんないし共感もしないんだけど、それでも、最後は泣けた。

 「ハムレット」に泣けた。
 彼の太くて短い絶叫全力疾走人生に、心が揺さぶられて泣けた。

 大変だったねえ。よくわかんないけど、アリでしょキミ。アリでしょ、キミの人生。

 それは藤井せんせお得意の「青春のキラメキ」演出つーか、スピリッツゆえなんだろうなあ、と思う。
 広げた風呂敷をたたむ能力のないフジイくんは、そのやりっ放しで放置な作風も含めて、「若者」という特色を持っていると思う。

 後先考えない、考えられない。盗んだバイクで走り出す(笑)短慮さ。
 思いつきは才能だけど、それを構成して決着させるのは技術、思いつきだけで終了なのはキャリアのない若者らしさ。年と経験を重ねれば技術で風呂敷のたたみ方ぐらいおぼえられる。
 ひたすらポジティヴに、幼い前向きさと健康さにあふれる。

 フジイくんの作風は「若い」のだけど、昔から一貫して「中二病」的な幼さからくる毒素は感じられないんだよなー。幼い設定は使いがちだけど(『熱帯夜話』とか『Young Bloods!! 』みたいな・笑)、幼いからって残酷なわけぢゃないよなってゆーか。
 暗い詩だのシュールな絵だのをノートにひとりで書きつづる中学生、ではなく、仲間たちと夜通し騒いで遊んで教師に正座させられる系の若さ。
 発散型だからこそ、ショー作家に向いているんだと思う。

 『HAMLET!!』も悲劇を扱っているのに、「若さ」が全面にあふれた作品なのに、「若さ」が持つもうひとつの特色である「歪み」はなく、ゴシックな彩りもあるのに、「重さ」もない。
 軽く、明るく、まっすぐで健康的だ。

 ロック・オペラだから、というのは関係ない。
 オギーがロック・オペラを作ったとして、軽く、明るく、まっすぐで健康的になるとは、誰も思わないだろう。
 フジイくんだから、こんなに明るくて軽いんだと思う。

 このライト感覚が、『HAMLET!!』の見やすさにつながっているのかと。

 登場人物みんな死んじゃうよーな悲劇モノで、さらに重く暗かったらしんどいでしょう、いくらロックでたたみかけても(笑)。

 んで、重ねて感心するのは、この「若い」フジイくんがもう40歳だということ。
 もう40なのか! 若手なイメージがつきまとっていたけれど、実はもう中堅なんだね。スカステで見かけた姿の、肉の乗りっぷりにおどろいた……スリムなにーちゃんだったのに……時の流れって……。この体型ではさすがにもう、以前よく着ていたデューク更家みたいなパツパツのパンツは穿けないんだろうな……いや、それでも穿いているんだろうか……。(余計なお世話)

 や、別に演出家の年齢はどうでもいいんだ。問題とするのは作品だけだから。

 フジイくんが40歳だと知って感心したのは、「もう若者ってトシじゃないのに、感傷がナイ作風なんて!」ということだ。

 わたしなんぞが「若者」の話を書くと、どうしてもそこに「感傷」が入る。
 わたし自身がすでに若くなく、「若者」は「失った存在」だからだ。大人の目線で、失った楽園を愛でるように、悼むように描いてしまう。程度の差こそあれ。

 なのにフジイくんにはソレがない。
 本人が若いから、今の自分を描くだけだから、若さは光と勢いのみで十分で、感傷なんぞ持ち得ないのかと思っていたよ。

 でも、同じように若手作家カテゴリだったサイトーくんや景子タンも、もっと若いうちからふつーに「感傷」のある作品を創っているので、やはりフジイくんは特別なのかもしれない。

 でもって、主演のまさおは、『Young Bloods!! 』に続いて2度目の藤井せんせ作品での主演。
 若く美しい彼は、フジイくんの「若さ」を代弁する力を持っている。つか、力任せにぶっ飛ばす主演、というポジショニングが前作と同じなんですが、フジイくん。藤井せんせ的まさおさんはそーゆーキャラ?(笑)
 

 影を持たない、光だけを追求した作風。思春期ゆえの歪みに足を取られない、陽気でまっすぐな青春。
 このさらっとライトなカラーは、タカラヅカに必要なモノだと思う。
 キャストへの愛やこだわりのある配役、使い方をしてくれることも含めて。

 ストーリーを構成する力はナイので(笑)、メリハリある原作と組んで、「若い」作品を生み出し続けて欲しいわ。

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