で結局『虞美人』という「作品」がどうなのか。

 贔屓組っつーのは、こまったもんだな。
 純粋に作品として好きかどうかでは、観劇できなくなっている。
 他の組なら、好きか嫌いか、もう一度観たいかどうかなど、素直に味わえるのに、贔屓組ときたら「コレ、20回観られるか?」が判断基準だったりするので、余分なモノがこちら側にありすぎる。
 ふつーに観客として1回観る分には楽しかったり美点だったりする部分が、「20回観る」前提だと苦痛だったりするわけだから。

 や、1ヶ月公演になり値上げもされた今、ひとつの公演を20回観ることはありませんが、気持ちとしては以前と同じ「贔屓組っつったら結果的に20回は観るよな?」という前提があってねえ。

 こちらが特殊な状態で構えて観ているため、純粋な反応は難しいのですよ。

 どんなに「作品」を好きで好きでしょーがなくても、感性ドンピシャすぎてリピートはつらかったり、反対に作品自体はどーでもいいつまらないものでも、贔屓がかっこいいからそれだけで20回が苦にならないとか。
 相思相愛で観劇できることなんて、ほんっとーに稀だもんな。

 近年の芝居作品で、大好きでリピートしたのは月組の『夢の浮橋』だけど、果たしてアレが贔屓組だったら素直に評価できていたんだろうか。ご贔屓の出番とか役割とかで残念な気持ちを抱いてなかったろうか。
 てゆーかわたし、ご贔屓の出演している作品で、その作品、「芝居」を好きでたまらないなんてこと、何回あっただろうか。
 いつもわたしが好きになるのは、ご贔屓の出ていない作品な気がする……(笑)。
 
 ご贔屓が出演していて、なおかつ作品自体も素直に大好きでリピートしまくることができた「芝居」って、『凱旋門』『血と砂』『王家に捧ぐ歌』のみか? 20年からヅカヲタやっていながら、たった3作? ……『舞姫』もカウントしていいかなあ。でもアレ、ご贔屓が出てなかったらそこまで好きかなあ。
 ショー作品なら、相思相愛だったものがいくつかあるんだが、芝居はさらに敷居が高い。ヅカ全体を見回して、おもしろい芝居っつーのが少な……ゲフンゲフン。

 
 最初から1回観るだけ、今愉しめればソレで万歳、な見方をしているわけではないので。
 キムシン作『虞美人』。
 いちばん思ったことはやはり、1本モノってしんどい。でした(笑)。

 や、1回観る分にはいいんだよ、1本モノだって。ただ、20回観るんだ、とか、午前午後でダブル観劇とかしちゃうんだ、とかゆー観点で見ると、作品の出来云々以前にもお、ただひたすら、2時間半ストーリーを追うのはしんどいと思っちゃうんですよ。
 トシ食ったってことかなあ。若いころはそうでもなかったと思うんだがなあ。

 そして、痛感する演出力の違い。
 誰と?って、小池せんせとです(笑)。
 記憶に新しいアジア舞台の1本物ミュージカル、どうしても『太王四神記』がある。比べちゃうんですよね、無意識にでも。

 はああ、やっぱイケコの演出力ってすげえなあ。音楽が残念なのは同じくらいなのに、やっぱ演出は『太王四神記』の方が断然いいや。
 (さらにイケコ作品でいうなら、『スカーレット・ピンパーネル』の方がさらにいいんだけどねー。て、アレは音楽の力もあるか)

 『太王四神記』はスポンサー付き公演だったせいもあるのか、やっぱ舞台装置とか衣装とかトータルして良かったよなあ。

 通常公演予算しかないにしろ、キムシンの舞台使いはやっぱとってもキムシンで、半2次元的というか、イケコのような立体感はないんだよな。もちろん、植爺や谷のような時代遅れな紙芝居ではないのだけど、キムシンの「動かなさ」も特徴的だよなと(笑)。
 いっそいつものように「舞台全体を使った大きなセット」があり、その周囲にキャストが出たり入ったりする形式の方が、違和感がなかったのかもしれない。あのセットじゃあ、キャストはこう動くしかないよな的納得があって。
 今回はそのテの「ひとつだけ」の大きなセットはなく、他作家と変わらないセットが場面に合わせてチョイスされているもんで、キャストの出たり入ったりぶりが単調に思えた。

 また、戦闘場面少なすぎねえ?
 さあこれから戦闘だー、群舞だわくわくっ、と思うと、肩透かし。
 予算のない民放の2時間スペシャル歴史物ドラマみたいだ。戦闘シーンはお金がかかるからナイんだね……部屋の中で喋ってるばっかで、ロケしてエキストラや衣装や馬にお金のかかる合戦シーンはナシで、ナレーションと土煙と音とイメージ映像でお茶濁すんだー……みたいな。
 戦争続きの武将モノなのに、戦闘シーンが最後の1回しかナイって、どうなのよ。や、人殺しとか残酷な場面が観たいわけではまったくなく、かっこいい派手な群舞が観たかったんだが、さわりだけのちょっとしたモノはあっても腰を落ち着けた場面がぜんぜんナイまま2時間経過っつーのはストレスだ。『太王四神記』は要所要所に戦闘シーンがあったなあ。遠い目。
 ……そういや『王家』も戦闘シーンは1回だけで、あとは全部カットされてたっけ(「エチオピアを滅ぼしに行きましょう!」→次の瞬間、エチオピア滅んでます)。今回もまさにそんな感じ。キムシン、戦争場面描くの好きやないんや? てゆーか、ダンス中心場面が描くの苦手なのかな。

 場面ごとがセットも含めてキレイで、キャストも衣装を含めてキレイで、そのへんはさすがにキムシン、外さないなと思うのだけど。

 演出的な意味でいうと、『太王四神記』よりリピートしんどいなあ、と。
 理屈抜きの五感に訴えかける、立体的な演出ではないよなと。

 やたら『太王四神記』と比べて申し訳ないが、初日観劇後いつもの店でいつものよーにnanaタンとごはんしてだらだらしていたわけだが、そこで聞かれたせいでもある。
「で、『太王四神記』とどっちが面白い?」

 うーんうーん、どっちが面白い……面白い、ねええ? 困ったな、わたし別に、『太王四神記』を面白いと思っていたわけではナイし。
 『太王四神記』初日の感想は、「すごい! けど、これって面白いの??」だったしなー。あんときはいっそサイトーくんのトンデモ演出で観てみたかった、とか思ってたっけ(笑)。

 ただ、演出力では絶対イケコだよー。

「じゃあ、どっちが好き?」

 あ、ソレは簡単。

 『虞美人』が好き。

 『太王四神記』は泣けないけど、『虞美人』は泣ける(笑)。
 悲劇だから、人が死ぬから泣く、のは生理現象であって涙カウントはしない。『虞美人』に泣くのは、彼らが死んで終わるからじゃない。

 死は結果でしかない。死に方が泣けるのではなく、そこにたどり着くまでにどう生きたかが重要。
 彼らの生き方が、わたしの泣きツボを刺激する。
 だから絶対『虞美人』が好き。

 しかし、「20回観る」という偏った観点だと、いい作品なのかどうかわかんねえ(笑)。先述の3作は20回観てもぜんぜんOKだったけどなー。それらと同列ではナイもんよ、コレ。

コメント

日記内を検索