そして、荒野を行く。@虞美人
2010年3月19日 タカラヅカ 『虞美人』の張良@まっつは、「項羽と劉邦」に対しての「范増先生と張良」であり、「英雄は英雄にしか見いだせない」の言葉通り、もうひと組の項羽と劉邦である。
……ほんっとに、なんつー破格の扱いだ、前回のキムシン作品で役ナシ+台詞4つしかなかった役者とは思えない。(しつこいって)
最初の登場場面で、そのキャラクタとライバル・范増先生@はっちさんとの愛憎関係を明示。
張良は己れの才に自信を持つ野心家。傲慢さと若さ、そしてクールさ。
ライバルとはその能力を認め合い、尊敬しあっている。だからこそ、「今は味方だけど、ナンバー1はひとりだから、いずれは戦う」と宣戦布告。
どちらがこの世を手に入れるかを、天に問うと。
途中経過は、ふたりの戦いでもある。張良と范増先生の策のめぐらし合い。
劉邦@壮くんが項羽@まとぶんに勝てないのは何故か、それは項羽に范増先生がいるから。
……言い切ってますよこの人、項羽なんてどーでもいい、真の敵は范増先生、天下分け目の戦いの相手は范増先生だと。言っちゃったも同然ですよ、項羽なんてその程度だと。
主人公様を「その程度」扱いするキャラ(笑)。ひでーヤツだわー。
されど、そう思っているのは張良だけではなくて、当の范増先生もなんだよね。
項羽が先生を切るしかないように仕向けたところ、先生も自分がいない項羽はただの裸の王様だから簡単に滅ぼせると太鼓判。主人公様に対してそんなこんな。
この師弟、ひでえな(笑)。
最初の登場場面から、なにも変わってないんだよ。優れているのは自分たちだけだって、ほんとにそう信じ切ってるんだから。項羽も劉邦も、自分たちより下位の存在だから。
いや、下位とも言い切れない、別の次元にいる優れた人物だが、自分の操り方次第で生かすも殺すも自在、と本気で思い続けたままだから。
こんだけ他人と別次元にいるんだから、この世界で通じ合える相手は、互いしかいなかったんだろうなあ。
よくも悪くも。
されど、同じ次元に生きていながら、張良と范増先生はやっぱチガウんだよね。共に歴史に名を成す英雄でありながら、項羽と劉邦がチガウように。
范増先生は愛情を持って項羽や虞姫のそばにいるが、張良は自分の知略を試すために劉邦に仕えている。
高潔かつ苛烈であるがゆえに滅びた項羽、小ずるく立ち回って天下を得た劉邦、大地のような慈愛で無私に愛し尽くした虞姫@彩音ちゃん、己れの野心と欲望を夫に背負わせた呂妃@じゅりあ。
「項羽と劉邦」という主題をリプライズするキャラクタたち。
范増先生にあるあたたかさや優しさが、張良には感じられない。范増だって劉邦を暗殺しよーとしたり、韓信@みわっちを殺せと言ったり冷酷に仕事しているんだけど、張良の方がなお冷酷に、利己的に見える。
それはやはり、冷酷な言動の主意がどこにあるか、だな。
そもそも項羽という人物を好ましく思って選んだ范増先生と、劉邦なら操りやすいと思って選んだ張良は、出発点から違っている。
項羽のために冷酷に進言する范増先生と、自分の野心のために劉邦に手を汚させる張良では、結果が同じだとしても受ける印象は違い過ぎますがな。
項羽の魂の安寧を祈り支え続けた虞姫と、己れの虚栄心を満たすことを第一にしか考えられなかった呂妃の印象が、違いすぎるように。
さて。
最初から一貫している、張良という男。
クールで計算高く抜け目ない軍師。
彼が本心を出してその黒さや野心を剥き出しにしていたのは、最初の居酒屋場面のみ。あとはとりあえず劉邦の忠実な参謀。
そんな張良が、再度、本心を見せる。
范増先生の、最期。
中国の広さを突っ込むのは野暮かもしれないが(笑)、楚を追われた范増先生を迎えに、漢にいたはずの張良がわざわざ馬車を用意して出向いている。地理的に時間的に可能なのか? どんだけ無茶して迎えに行ったんだ、張良?(笑)
凍死必至の荒れ地で、范増と対峙する。
いちばん最初の、居酒屋の場面がそうであったように、広い舞台にふたりきりで話す。
現実的にありえないことであっても、この場面が必要だった。
「項羽と劉邦」のミラー的役割を持つ、范増と張良だから。劉邦が項羽の名を呼んで息絶えるプロローグと同じように。
張良は、この場面を機に、変わる。
慇懃さに隠して本心を見せないクールな男が、なりふり構わず范増先生のもとへ走り、頭を下げる。哀願する。
范増を殺したくなかった。死なせたくなかった。自分が追いつめておきながら、殺すつもりはなかったという矛盾。
ゲームは、相手がいないとできない。
張良と范増先生は。ふたりしてこの世界を盤上とした、将棋に興じていた。
禁じ手を使ったのは張良。盤上の王将を狙うのではなく、プレイヤーを廃してしまった。
相手プレイヤーを死なせ、残ったのは盤と自分。
たしかに勝っただろう、残された駒を使って王将を詰めるのは時間の問題。
でもそれって、たのしいか?
それって、ゲームになっているのか?
悔恨が、張良を走らせる。
中国大陸の広さもものとせず(笑)。
荒野でただひとり、同じ言葉で話すことができる相手の元へ。
殺したくなかったんだろう、失いたくなかったんだろう。矛盾でもなんでも。
唯一、自分と対等に戦える好敵手を。
そして。
張良は、変わる。
罪と、孤独を抱いて。
さらに、冷酷に。
……ほんっとに、なんつー破格の扱いだ、前回のキムシン作品で役ナシ+台詞4つしかなかった役者とは思えない。(しつこいって)
最初の登場場面で、そのキャラクタとライバル・范増先生@はっちさんとの愛憎関係を明示。
張良は己れの才に自信を持つ野心家。傲慢さと若さ、そしてクールさ。
ライバルとはその能力を認め合い、尊敬しあっている。だからこそ、「今は味方だけど、ナンバー1はひとりだから、いずれは戦う」と宣戦布告。
どちらがこの世を手に入れるかを、天に問うと。
途中経過は、ふたりの戦いでもある。張良と范増先生の策のめぐらし合い。
劉邦@壮くんが項羽@まとぶんに勝てないのは何故か、それは項羽に范増先生がいるから。
……言い切ってますよこの人、項羽なんてどーでもいい、真の敵は范増先生、天下分け目の戦いの相手は范増先生だと。言っちゃったも同然ですよ、項羽なんてその程度だと。
主人公様を「その程度」扱いするキャラ(笑)。ひでーヤツだわー。
されど、そう思っているのは張良だけではなくて、当の范増先生もなんだよね。
項羽が先生を切るしかないように仕向けたところ、先生も自分がいない項羽はただの裸の王様だから簡単に滅ぼせると太鼓判。主人公様に対してそんなこんな。
この師弟、ひでえな(笑)。
最初の登場場面から、なにも変わってないんだよ。優れているのは自分たちだけだって、ほんとにそう信じ切ってるんだから。項羽も劉邦も、自分たちより下位の存在だから。
いや、下位とも言い切れない、別の次元にいる優れた人物だが、自分の操り方次第で生かすも殺すも自在、と本気で思い続けたままだから。
こんだけ他人と別次元にいるんだから、この世界で通じ合える相手は、互いしかいなかったんだろうなあ。
よくも悪くも。
されど、同じ次元に生きていながら、張良と范増先生はやっぱチガウんだよね。共に歴史に名を成す英雄でありながら、項羽と劉邦がチガウように。
范増先生は愛情を持って項羽や虞姫のそばにいるが、張良は自分の知略を試すために劉邦に仕えている。
高潔かつ苛烈であるがゆえに滅びた項羽、小ずるく立ち回って天下を得た劉邦、大地のような慈愛で無私に愛し尽くした虞姫@彩音ちゃん、己れの野心と欲望を夫に背負わせた呂妃@じゅりあ。
「項羽と劉邦」という主題をリプライズするキャラクタたち。
范増先生にあるあたたかさや優しさが、張良には感じられない。范増だって劉邦を暗殺しよーとしたり、韓信@みわっちを殺せと言ったり冷酷に仕事しているんだけど、張良の方がなお冷酷に、利己的に見える。
それはやはり、冷酷な言動の主意がどこにあるか、だな。
そもそも項羽という人物を好ましく思って選んだ范増先生と、劉邦なら操りやすいと思って選んだ張良は、出発点から違っている。
項羽のために冷酷に進言する范増先生と、自分の野心のために劉邦に手を汚させる張良では、結果が同じだとしても受ける印象は違い過ぎますがな。
項羽の魂の安寧を祈り支え続けた虞姫と、己れの虚栄心を満たすことを第一にしか考えられなかった呂妃の印象が、違いすぎるように。
さて。
最初から一貫している、張良という男。
クールで計算高く抜け目ない軍師。
彼が本心を出してその黒さや野心を剥き出しにしていたのは、最初の居酒屋場面のみ。あとはとりあえず劉邦の忠実な参謀。
そんな張良が、再度、本心を見せる。
范増先生の、最期。
中国の広さを突っ込むのは野暮かもしれないが(笑)、楚を追われた范増先生を迎えに、漢にいたはずの張良がわざわざ馬車を用意して出向いている。地理的に時間的に可能なのか? どんだけ無茶して迎えに行ったんだ、張良?(笑)
凍死必至の荒れ地で、范増と対峙する。
いちばん最初の、居酒屋の場面がそうであったように、広い舞台にふたりきりで話す。
現実的にありえないことであっても、この場面が必要だった。
「項羽と劉邦」のミラー的役割を持つ、范増と張良だから。劉邦が項羽の名を呼んで息絶えるプロローグと同じように。
張良は、この場面を機に、変わる。
慇懃さに隠して本心を見せないクールな男が、なりふり構わず范増先生のもとへ走り、頭を下げる。哀願する。
范増を殺したくなかった。死なせたくなかった。自分が追いつめておきながら、殺すつもりはなかったという矛盾。
ゲームは、相手がいないとできない。
張良と范増先生は。ふたりしてこの世界を盤上とした、将棋に興じていた。
禁じ手を使ったのは張良。盤上の王将を狙うのではなく、プレイヤーを廃してしまった。
相手プレイヤーを死なせ、残ったのは盤と自分。
たしかに勝っただろう、残された駒を使って王将を詰めるのは時間の問題。
でもそれって、たのしいか?
それって、ゲームになっているのか?
悔恨が、張良を走らせる。
中国大陸の広さもものとせず(笑)。
荒野でただひとり、同じ言葉で話すことができる相手の元へ。
殺したくなかったんだろう、失いたくなかったんだろう。矛盾でもなんでも。
唯一、自分と対等に戦える好敵手を。
そして。
張良は、変わる。
罪と、孤独を抱いて。
さらに、冷酷に。
コメント