新人公演『虞美人』にて、文句なしに「うまい!」と膝を叩いた人は。

 なんつっても、范増先生@いまっち。
 めちゃくちゃうまかった。
 声の通り、響き、歌唱力。そして懐の深い演技。
 や、うまいのは想定内、上手いんだろうなと思わせておいて、ほんとにうまいという(笑)。

 いまっちの良いところは、こーゆー老け役をやってなお「対象外」にならないところだ。
 前回のブイエ将軍といい、たしかに老け役なんだけど、ちゃんと色男である。美形である。女子が見て、ときめきの対象から外れない。そりゃ若い方がいいのは当然だが、老人だっつーだけで全否定するにはもったいない、ちゃんと二枚目なんだよ。
 今回もとっても美老人。若い頃はさぞかし美しかったんだろうと思わせる、目元の涼しさ、声の美しさ。
 
 3番手の最大の見せ場すらカットされている新公なのに、范増先生の最後はちゃんとあるんだから、演出家のこだわりなんだろうなあ(笑)。
 そしていまっちは、見事それに応えた。
 わき上がる拍手がそれを示す。

 客席の空気がね、動くの。
 ここ、拍手していいの? って、ちょっととまどった空気があり、誰かが口火を切るとわっと拍手が盛り上がる。
 拍手したかったんだ、でも、静かな場面だし、していいかどうかわかんない、と一瞬躊躇した、みんな小心者(笑)。
 感動=即大拍手、という図式ではなく、そんな激しさや押しつけがましさではなく、「拍手したい」というじわじわとこみ上げるモノがついに拍手になった、そんな感じ。

 あの感覚、すごく愛しい。
 拍手がはじまったときの、喜びの空気。今の場面もよかったし、それに対して「よかったよ!」と拍手ができることへも喜びを感じているような。
 やっぱヅカの客席っていいよ。新公とか、ファンだけで埋まった空間の持つ一体感、あたたかさって他には代えられないものがある。

  
 このいまっちと対をなす勢いですばらしかったのが、王媼@くみちゃん。ええ、天下の芽吹幸奈サマですわ。
 登場するなり、ハートを打ち抜かれました、その艶っぽさに。
 なにこのキャラクタ!(笑)
 やり手の居酒屋女将、ではなく、現役ばりばりセクシー女将かよ!!
 表情のひとつひとつ、仕草のひとつひとつがめっさ色っぺぇ。それも、計算された色気。女の魅力をわかった上で、どう見えるか計算して色気を振りまいているの。いるいる、こーゆーセクシーキャラ!
 「漢はいないのか」と啖呵を切ってなお、女性としての魅力を振りまくことを忘れない。

 そのくせ、桃娘@実咲ちゃん相手に見せる裏の顔ときたら。

 この裏の顔ってのは、衛布@輝良まさとの密偵としての顔ぢゃないっすよ。
 それ以前の、「居酒屋の女主人」と「下働きの娘」という関係における、裏の顔。
 店にお客がいるときはすげえ色っぺー女将さんなのに、桃娘とふたりきりになるなり、色気を脱ぎ捨てただのこわいおばさんになる……! ナニあの豹変!
 で、次の瞬間店に客・呂妃@衣舞ちゃんがいることに気づき、またさっと身を翻す、顔に「度量の広い美人女将」の仮面が一瞬で装着される。 ナニあの豹変!
 呂妃に袖の下を渡され、またさらに顔が変わるんだな。客向けの愛想のいい顔+下心のある計算高い顔+客へのへつらい顔。

 うまい……なんかすごいうまいんですけどっ?!
 密偵としてのわかりやすい悪女っぽさより、このリアルな日常感あふれる女将っぷりに心から戦慄しました。くみ様に一生付いていきます的な感動(笑)。

 あまりにすごいんで、くみちゃん出てくるたび客席で大ウケしちゃったよ。声殺すのに必死(笑)。

 とにかく現役感あふれたセクシー美女なので、衛布の手下ではなく、愛人なんだってことがよーっくわかる。密偵じゃないよね、愛人だよね(笑)。衛布ってば自分の愛人に店を持たせてるんだわ、やーねえ。

 くみちゃんに折原マヤ@『BLOODY MONDAY』やってほしいわ……。どんだけコワイだろう……(笑)。

 
 今回の新公で、このふたりには感心しきりっす。
 ふたりとも美形で歌ウマ、演技もできる人なんだよなあ。脇を締める人材はある意味スター路線より重要だから、このままがっつり育ってほしいけど、もう少し真ん中寄りでも、うれしいんだけどなあ。
 くみちゃんは娘役だから学年的にも持ち味的にも別格スター一直線なのかもしれないが、いまっちがこのまま専科さんポジまっしぐらはもったいないなあ。
 一度マジな二枚目役が見てみたいっす。新公でもバウでもいいから、正統派二枚目キャラを、ぜひいまっちに。

 
 他に、わたし的発見だったことは。

 みちるタソが、二枚目だった。

 みちるタソの役は、宋義将軍です。まりんの役です。お稚児さんに鼻の下のばして項羽に成敗される役です。

 が、二枚目だったんだってば。

 もちろんみちるタソなので、とびきり愉快に演じているのですよ、「愛愛愛♪」の場面とかね。
 でも、彼もまたとても「タカラヅカ」なかっこよさのある悪役ぶりだった。

 みちるタソは個性派道を行く人だから、ビジュアルはどーでもいいと割り切っているのかもしれない、と思っていた。ここ何作かみちるタソ、あまりにもその、きれいじゃなくて……体型とか化粧顔とか。いくらなんでもタカラヅカなんだから、もう少しきれいでいてくれよと残念に思っていたんだ。
 たとえばマメはああ見えて耽美も演じられる色男だったし、まりんだって恋愛対象ぜんぜんOKな素敵なおじさまだ。……そこを目指すならみちるタソ、頼む、もう少し痩せてくれ。そう祈っていた、願っていた、切望していた。

 本公演の田舎モノ役も、そーゆー役だから美しくなくてもいいんだろうけど、でもやっぱりタカラヅカである最低ラインは欲しい、とうなだれていたんだ。

 そんなみちるタソだが、新公はかっこよかった。かっこわるいおっさん悪役でありながら、ちゃんと「タカラヅカ」だった。

 なんだよ、二枚目になれるんじゃん!!
 みちるタソにコメディな役を振っちゃイカンのか。黒い役の方が、男役としての外側を作るから、あとは演技力はあるんだから、結果として格好良くなるのか。
 目からウロコでありました。

 脇の個性派を目指してくれるのはぜんぜんいいから、ほんとにあとはビジュアルを「タカラヅカ」の枠で作って欲しいっす。せっかく世界でひとつの美の花園にいるんだぜ?

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