中村暁作『さすらいの果てに』や『あの日見た夢に』と同じ香りのする、バウ公演『Je Chante』について、感想の続き。

 わがまま大女優ミスタンゲット@圭子ねーさまの代役でステージ立ち、まさかの大人気、成功を収めたらしい、主人公シャルル@カチャとその親友ジョニー@いちくん。

 彼らがどのように成功したのかが、よくわからない。
 初舞台成功!の、そのままの流れで続くので、時間の経過や世の中の反応がわからず、彼らのイメージ映像とか思いこみとか、狭い範囲でウケているだけなのか不明。「またファンレターか」という台詞によってファンレターの来る立場になっているんだ、と思うのみ。

 そもそもシャルルはミスタンゲットのせいで職を失い、好意を持った女の子ジジ@アリスちゃんとも遠ざけられた。歌手を目指すのは二重の意味でミスタンゲットが原因となっている。
 そのミスタンゲットの代役を成功させたのなら、次に描くべきは「代役に成功され、面目を失ったミスタンゲット」であり、「歌手としてデビューしたことによる、ジジの反応」だろう。
 なのにそれが一切ないまま、徴兵されて数年経過。

 待ってくれ。ナニが起こっているんだ。

 まず、代役を成功させて大人気スターになるほどの時間が流れているなら、ミスタンゲットやジジはその間どうしているの?
 そこが描かれていないから、まだ時間はたっていないんだ、代役ステージからせいぜい数日? だとしたら、たかが1ステージ経験しただけ、大スターとか歌手として生活とかしてるわけないよね、だからこれは彼らのイメージ映像? 脳内で「こんなふーにスター生活送るぞ」という未来?
 と思っていたら、どうやら本当に成功していたらしいし。
 じゃあミスタンゲットは? ジジは? 成功しさえすれば、どーでもいい相手だったんだ?

 まあたしかに、2回会って立ち話しただけの相手だ。シャルルは一目惚れしたのかもしれないけど、ほんとにただソレだけだもん、成功すれば忘れても仕方ないか。
 ……って、成功したら忘れる、程度の相手だったの、主人公にとってのヒロインって?? ファンレター来る立場の方が重要なの??

 だってそーゆーことじゃん、シャルルたちの成功場面は描いて、ジジへの気持ちは描かないんだもの、この演出。
 で、戦争でも楽しく歌い踊るだけで、ジジのことは言及しないし。成功したら人間は変わってしまう、ってこと??

 シャルルも相当アレだが、ジジはさらに謎だ。

 ジジのしたことといえば、シャルルと雨宿りしたあと、見殺しにしただけ。

 シャルルにとっての映画はその程度のモノだったから良かったけど、もしも映画界で生きることに命を懸けている子だったら、どーするんだ? ジジは自分を守るために、他人を見捨てる子なんだ?

 ジジの立ち位置がわからない。
 シャルルをどう思っているのか、まずコレが謎。
 彼に対して好意があるなら、彼を見殺しにはしないだろう。なのに、した。んじゃ、ただの通行人、世間話しただけの人扱い?
 いやいやいや、ポスターでラヴラヴしているヒロインなんだから、ソレはないだろ。
 じゃあ、好きなのにそれでも見殺しにするしかなかった?
 ミスタンゲットに弱みを握られていて、言いなりになるしかない?
 だとしたら、せめてフォローに来ようよ、謝ろうよ。24時間監視されていて、こっそり会うことも手紙を書くことも人に伝言を頼むこともできないの?
 結局ガン無視して終了、って、そういう人格? いいのかヒロイン?!

 シャルルが戦争へ行っているの間にジジはリーズという名前でレビュースターとしてデビュー。ミスタンゲットとジジの関係がまだ描かれていないし、ジジがなにをしたくて付き人をしているのかもわからないので首を傾げるが、これはまあそのうちわかるんだろうと静観。

 数年が経過したらしく、パリへ戻ったシャルルはすっかり別人となったジジと再会する。ナチスの庇護を受け、ゲオルグ少佐@みーちゃんの愛人やりながらスターとして君臨するリーズ。なんてこった、シャルルがーん!で、1幕終了。

 …………ごめん、ついて行けなかった(笑)。

 しかも2幕はもっとすごい。
 いつの間にかシャルルとジジは昔愛し合っていた恋人同士が再会したことになっていて、別にミスタンゲットに脅迫されていたわけでもなくて、運命で非劇でピストルばぁーん、かばって撃たれて死んで終了。

 たった2回立ち話しただけだよね?
 しかもジジは、そのせいでシャルルが撮影所をクビになってもフォローなし、保身ゆえに縁切りしたよーな女の子だよね?
 シャルルだって成功したら、ジジのことなんて忘れてたよね?

 いったいぜんたい、どっからそんなことになってるんだ??

 これってどこの中村A? 『さすらいの果てに』や『あの日見た夢に』?!(笑)

 演出家名すらチェックせずに観ていたら、中村A作品だと思っていただろう。

 や、わかるよ? 脳内補完可能な投げっぱなしぶりだとは思うよ? ヅカファンなら「こうくればこうなる」ってパターンがアタマにあるから、断片を見せられるだけであとは全部セオリーに従って勝手に納得するけれど。
 しかし。
 1箇所2箇所ならともかく、最初から最後まで万事において、「断片だけ、あとはルール通り脳内補完してね」ってのは、どうなの?(笑)
 
 観ながら、すごいデジャヴ。

 目の前のことしか考えられない、おぼえていられない主人公。ヒロインが目の前にいたら「愛してる」、目の前からいなくなると忘れてしまう。
 数回会って立ち話しただけで「運命の恋」で、脳内でラヴラヴなデュエットダンス。や、ひとり勝手に盛り上がってないで、まず彼女と会話しにいくなりすれば?(そこからかよ?!)
 幼なじみと再会→運命の恋人、書斎から出てきた男→父を殺した犯人、偶然たまたまその男と再会した→せっかく追いつめたのに! ……あのノリです、それらしきパーツひとつで、勝手に物語ががんがん展開し、客席でぽかーんとなる、アレ。

 『お笑いの果てに』くらい突き抜けてくれていたら、爆笑できたんだけど、『あの日見た夢に』程度の間違い方なので、笑えない。ただぽかーんとするのみ。

 えらいことになってるなあ、新人演出家。
 よりによって中村Aかよ……(笑)。

 続く。

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