キムシン作『虞美人』の、項羽@まとぶんを好きだ、という話、対劉邦@壮くん編。

 この物語が泣けるのは、項羽があまりにかなしいから。
 力任せに爆走する、高潔な英雄。正しいからこそ、俗人たちから煙たがられた美しい人。
 それがまあ、まとぶさんの抜きどころのない怒鳴り芝居との相乗効果で、わたしのツボに入りまくる。

 項羽は、正しい人。
 みんなが空気を読んで黙っているところでも、大きな声で間違いを指摘する。や、ソレを言っちゃオシマイだから! みんなわかってて黙ってるのに、なんで言っちゃうかな、追求しちゃうかな。
 絶対リアル界で敬遠される、そんな人。

 羽根を持って生まれたがゆえに、卑小なる凡人のキモチがわからない。人は嘘をつき、人は裏切る。高潔な彼はそれが許せない。彼のようにまっすぐに生きられないことを、責め続ける。
 自分がどれだけ特異か顧みもせず、自分に届かないモノは見下し、切り捨て、そのくせ、自分と同じ次元で生きるモノを探している。

 劉邦なんかを愛して、バカな人。

 はい、項羽のかなしさは、劉邦への片想いにあります、わたし的に!(笑)

 ひとりぼっちの項羽は、探していたんだね。自分と並び立てる人。自分を孤独から救ってくれる人。
 劉邦がその運命の相手かもしれないと思い、舞い上がり、義兄弟の契りをかわす。他人がどれだけ忠告しようとおかまいなしに、劉邦を信じよう、許そうとする。

 いつもいつも、愛情は劉邦へ。
 劉邦はぜんっぜん項羽のこと愛してないのに(笑)、誰からも愛される劉邦は、項羽からもちゃっかり愛された。

 項羽の、劉邦へのラヴアピールっぷりったら。
 そして、その報われなさときたら(笑)。

 一目惚れってのは、タチが悪いよなあ。
 項羽はほんとのとこ、劉邦がどんな男かなんか知らないまま、恋に落ちてるんだよね。や、腐った意味ではなく、腐った意味でも別にイイが、惚れ込んでるの。

「どこかにわたしのことをほんっとーに理解してくれる、白馬に乗った王子様がいるの」
 と夢見ている少女の前に、「無理をしなくていいんだよ、ほんとうのキミは寂しがり屋さんだね」と白い歯をきらっとさせてえりたんが現れたら、そりゃ「待っていたわたしの運命の人!」と思っても仕方ないよな、てな感じで。

 ずっとずっと、探していた。
 この世界で、自分を理解してくれる人。理想を共有し、背中を合わせて戦ってくれる人。
 虞美人@彩音ちゃんという女はいるけれど、女ひとりいりゃいいってもんじゃないじゃん? 男にとって仕事は人生そのもの、そっちでパートナーが欲しいと思っても不思議じゃない。
 愛したい。信じたい。尊敬したい。切磋琢磨して、成長したい。
 その想いが、渇望が、項羽を誤らせた。

 劉邦を、龍だと思ったんだ。
 自分と同じ、翼を持った龍だと。

 劉邦は、項羽の求める器じゃなかった。
 天から翼を与えられた高潔な人物ではなかった。弱さとずるさを持つ、ふつーに優秀な人間だった。

 項羽は劉邦を愛したかったんだ。愛したいから、愛したんだ。
 劉邦に、自分が求めたマボロシを重ねて見ていた。真の劉邦がどんな男か、知ろうともせずに。

 項羽は愛情までも、苛烈だ。
 項羽が劉邦に求めた愛は、俗人には敷居が高すぎる。とことん俗人だった劉邦には、無理な話。項羽の愛に応えられるのは、虞姫ぐらいのもんだ。

 おかげで劉邦、ボロボロに傷つくハメに。
 歴史の中で勝利したのは劉邦だけど、項羽の愛を裏切ったことで、ハァトはズタボロだもんよ。

 恋に恋して勝手に失望して絶望して恨み節の女子高生くらい、トンデモないぞ、項羽。
 純粋すぎるセブンティーン@まとぶに恋された、既婚リーマン@えりたんの悲劇っつーか。
 リーマンは大人だから! 家庭も仕事もあるから! 女子高生理論で純愛しろっつわれても困るから!

 ……とか、そんな感じで萌えてます(笑)。

 冗談はさておき、項羽と劉邦の温度差、見ている現実の違い。それらは実にイイですな。

 項羽のかなしさがイイ。
 裏切られて裏切られて、彼には虞姫しかない。
 なのにその虞姫だって、最後に項羽を裏切るし。項羽を残して、自分だけ死ぬし。

 四面楚歌の場面で、劉邦に対してどうこうはまったく言わなくても、項羽が見つめているのは、劉邦がくちづけた指。
 もう、裏切りを怒ったり責めたりする段階は越え、ただただ寂寥がつのる。

 講和ののち、背後を突かれたときはきっと、怒り狂ったんだろうなあ。
 狛犬に乗って吠えてたときのよーに、ストレートに怒りを表したんだろう。
 さぞや美しかったろう。

 項羽は、怒っているときが、とてつもなく美しい。
 それは彼の生き方そのものだから。
 いつもいつも、なにかしらに憤って。
 汚れた人々は、世界は、なにかしら彼を傷つけるから。

 「怒る」ことが、彼の魂のまっすぐさを表している。
 斜に構えたり、平気な振りをしたりしない。
 ふつーの人は、そうそう怒らないよね。周囲の空気読んで顔色見て、誤魔化すじゃん? なんでもない振りして。感情を顕わにするのは、格好悪いから。

 でも項羽は、傷ついた、と素直に表す。
 子どものように。

 そして項羽は、最後に劉邦への言葉を残すんだね。
 愛を受け入れてくれなかった相手へ、言葉を残す。想いを残す。
 壮絶に。

 
 誰か、項羽を救えるモノはいなかったのか、と思う。
 虞姫はもちろん彼の救いだったけれど、彼女ひとりでは、武人としての、男としての項羽まで救い切れてなかったと思うのね。だから彼は破滅したし。

 英雄は並び立たないってゆーけどさ、劉邦がそばにいたら良かったのかなあ。
 愛情は距離と比例する。近しいモノにこそ情は湧き、遠く離れると冷める。心理学的事実。

 一緒に暮らして、痴話喧嘩する項羽と劉邦も見てみたかったな。(ケンカ前提? や、絶対ケンカする、あいつら)
 惚れた方の負けだから、一緒にいれば項羽が折れたと思うんだ。や、劉邦が先にしれっと謝ると思うけど、それを許すかどうかは項羽側の問題で、他の人相手なら絶対折れない、許さない項羽が、劉邦相手だとほだされてしまうという、愉快な図が見られたんではないかと。

 どこでもドアがあったなら、四面楚歌場面へ劉邦突き飛ばしてドア閉めるのに。
 劉邦は絶対、項羽の足元にひれ伏して、泣いて許しを請うと思うなっ。
 虞姫の血を吸った太刀を振りかざし、だけど振り下ろすことができず、わなわな震える項羽が見たい。

 結論。まとぶさんは、Mでこそ萌える。……えっ、そんな結論?!

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