『虞美人』1幕は肩透かしの連続で、バイオリズムが合わなかった。盛り上がるぞ、とわくわくした次の瞬間、盛り下がってぽかーんだった。
 じゃあ2幕は? というと。

 2幕の方が、ひどいんだコレが(笑)。

 2幕でいちばん盛り上がるところってどこよ?
 上がったり下がったりの規則的な曲線でいう、いちばん上の数値に達する場面。

 わたしは、雌雄を決するべく正面衝突する戦闘場面、楚VS漢だと思うんだ。そして、有名な四面楚歌場面。

 項羽@まとぶんが油断しているところを劉邦@壮くんが襲って、怒りの項羽に返り討ち、ヘタレ劉邦泣きの演技、虞姫@彩音ちゃんVS呂妃@じゅりあとかでつないでいくのはいい。
 ツッコミはいろいろあれど、ひとつずつ挙げていかんでもいいと思うんで、とにかくクライマックス。
 クライマックスっつーのはだ、それまでなにかしらぐたぐだ思っていても、ソコだけで全部ぶっ飛ばせる、なんかいいもん見たよーな気がする、と観客を煙に巻いてしまうよーな、爆発的なハッタリのある場面だ。

 いい例が、ひとつ前の公演。『外伝 ベルサイユのばら-アンドレ編-』の革命場面。
 どんだけ作品がめちゃくちゃのぐちゃぐちゃでも、革命の戦闘場面ひとつで見事に煙に巻いたじゃないか。あそこだけ見ると「なんかすげーもん観た?!」な錯覚に陥るじゃないか。
 そーゆーモノがあってこそのザッツ・エンターテインメント!

 キムシンのケレンの腕前には安心していたので、クライマックスではずされるとはカケラも思わず、すげー期待していたわたしも悪かったかもしれんが。

 1幕で戦闘シーンがなく、肩すかしをくらったあとなだけに、2幕ではきちんと描いてくれるだろう、まさか戦記物で一度もまともに戦闘シーンがないなんてことはありえないだろうと、勝手にわくわくしていた。

 鎧姿の項羽と劉邦がせり上がってきたときは、興奮したんだ。キターーっ!!って。

 が、しかし。

 雄壮だったのは一瞬だけ、いきなり音楽は安っぽいメロウなものになり、大勢が走り回るか、旗を振り回すだけとなった。

 え、えーと。
 戦闘シーン、なんだよね? 何万という大軍がぶつかり合っている、ん、だよ、ね?

 戦闘の哀しさを描きたいという意図はわかる。意気込みはわかる。
 だがそれは、まず戦闘をきちんと描いてからのことだ。
 それまで何度戦闘があっても描かずにスルーして、よーやく描いたと思ったら「戦闘の哀しさ」……。
 「そうは言うけど、受験勉強ってつらいんだよっ」「それはまず勉強してから言え」……そんな会話が脳裏に浮かぶ。努力する前に、キレイゴト言われてもなー……。

 そしてさらに、戦闘の直後の四面楚歌場面。
 偽りの講和、劉邦の苦渋の決断、楚を、項羽を滅亡させる。その、盛り上がりの予感。

 につづくのが、とーーっても静かな静かな、項羽と虞姫のうたた寝タイム。
 静かに響く楚の歌。
 ふたりを見つめる、今は亡き者たち。項羽が殺してきた、失ってきた、傷つけてきた者たちが、ただ黙って項羽を見つめる。

 ここでも、総攻撃?! 盛り上がる? ただ走り回るだけの戦闘場面は、次の総攻撃を描くための布石だった?! と思わせて、戦闘はなし。
 がっくり。

 虞姫の死も、とてもさらりと。
 項羽をオペラで見ていたら、虞姫がナニをしたのか、なんで死んだのかわからないという(笑)。

 ひとつずつを取り出して考えると、別に間違ってないの。
 メロウな悲しい戦闘場面も、アリですよ。ただし、それまでにちゃんと真っ当な戦闘場面を描いていれば。
 早々にゆるい音楽にせず、途中までは雄壮に激しく表現し、途中から趣を変えるならアリでしょう。戦が長引き被害が増えるばかり、不毛な消耗戦が続いている、それを項羽が嘆くなりしてくれりゃあ。
 武人の項羽がはじめてまともに描かれた戦闘シーンで、いきなりメランコリックじゃ彼のレーゾンデートルに関わるよ。
 てゆーか頼む、ここで一度、韓信@みわっちの戦闘場面も入れてくれ。項羽たちが戦っている、別の場所で韓信もがんばってたんだよ、って。項羽たちをメロウに描くなら、韓信はサバサバとひたすら強く描くとか。今のままじゃ韓信、あんまりだ。

 楚の追撃戦がはじまるかと思いきや、亡き人たちが見守る静かなもの悲しい場面。これも、ここだけ見ればアリですよ。
 その前の場面、楚VS漢がちゃんと派手派手な盛り上がり最高潮!な激しい場面なら、打って変わって静かな哀しさがしんしんと広がる演出はうまいと思う。
 でもさ、なにしろその前の場面、激しくないし。メロウな音楽流して、哀しさを表現していたわけで。
 メリハリになってないの。
 戦闘なのに静かで悲しい場面→講和成立したけど静かで悲しい場面→しんしんと静かで悲しい場面、で、同じトーンばかり続いて、発散する場面がないの。
 バイオリズム曲線が下方で一定、ちっとも上に戻ってこない。

 虞姫の自害をさらりと描く、これもアリだと思う。
 ふたりのラヴラヴなときの歌、しあわせの思い出の歌。項羽が「生きよう、あなたと!」と歌った瞬間、虞姫は項羽のためだけに自害する。その皮肉、その悲劇。
 それはわかる。わかるさ、わたしは好きだコレ。
 でも、これでいいのか?? ナニが起こったのか、わかりにくいぞ? ただでさえ、これがかの有名な四面楚歌場面だと、歌声その他静かで地味な画面なのでわかりにくいのに。
 ここを静かに地味に描くなら、その前をきちんと盛り上げようよ。どれだけ彼らが追いつめられているか、虞姫が自害するしかないくらい切羽詰まった状態だと、台詞ではなく演出で表現しようよ。

 ひとつずつは間違っていないし、十分アリだと思うし、それをそう描きたいと思うキモチはすごーくわかる、共感する。
 でも、それをそう描くなら、別のところで仕掛けをしなきゃダメだろう。
 バイオリズム曲線を上げるためには、まず下げなきゃ。哀しみとか静かなモノを曲線の上部分にしたいなら、激しい派手な場面を作って、そのメリハリで静かな場面を引き上げるんだ。

 盛り上がるぞぉ、とわくわくした次の瞬間、肩透かしされてしょぼん。期待して、失望して、の繰り返し。
 うわああぁん、キモチワルイよお。
 ちっともすかーっとしないよお。

 かわしている台詞が意味通じていなくても、キャラクタの人格が破綻していても、ストーリー自体なにがなんだかさっぱりわかっていなくても、五感に訴えかけてくる作品ってのは、ある。
 バイオリズムに合っているんだろう、ここで歌が欲しい、と思ったら歌、ここでダンスと思ったらダンス、ここで泣きたいわ!と思ったら泣かせキター!みたいな。
 好きか嫌いかは置いておいて、とにかく見ていて気持ちいい。欲しいときに欲しいモノが差し出される快感。
 かゆいところをちゃんとかいて、さらに気持ちよくしてくれる、そーゆー演出。

 今回の『虞美人』はもお、わたしの生理と合わない、コレに尽きる。
 わたしのバイオリズム曲線と、ぜんっぜん合ってない。溜まるストレス、あああキモチワルイ~~。発散させてくれええ。

 初見から首を傾げたが、回数観れば観るほど気になるわ。なんでここでこうなるかな、が。

 
 とまあ、好き放題言ってますが。
 バイオリズムと合わないことと、好き嫌いは別なので。

 いくら盛り上がりがわたしの期待通りでも、わたしのバイオリズム曲線とシンクロしまくっていても、キャラクタ破綻していたら、好きになれないし。
 『虞美人』は、大好きだ(笑)。

 かゆいところに手が届かないっ、ストレス溜まるっ、盛り下がるのなんとかしてよっ、とじれじれしつつも、毎回大泣きしてまつ。
 キムシンと波長合うんだよな~~、彼が描きたいものって、わたしのツボに来るんだよな~~。
 だから、こまったな、と(笑)。

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