未だに、心は『虞美人』です。

 項羽@まとぶんが好き。彼の不器用で苛烈な生き方が好き。

 でもって。
 思うんだ。

 劉邦って、どうよ?

 融通の利かない項羽に対し、人を活かすことを知っていた劉邦@壮くんは結果として天下を手に入れる、わけだが。
 前にも書いたように、現実に項羽と劉邦がいたら、わたしは項羽にはこわくて近寄れない。無能だから絶対切り捨てられる。でも劉邦なら、こんなわたしにも居場所をくれそうな気がする。
 劉邦に人気があって、項羽が滅んだのもわかる。

 が。
 そーゆー話ではなくて。
 
 わたしは、劉邦の無邪気さが、こわい。

 「私は誰も愛していない」と泣き崩れる劉邦だが、わたしとしてはそれ以前のところで「オマエ、こわいよ」と思う。

 衛布@みつるという男がいる。彼は野心家で、自分こそが天下を取る器だと思っている。
 会稽の太守・殷通@めぐむの部下だが、上役に対してなんの思い入れもない。いずれオレが取って代わる、程度にしか思っていない。……ので、殷通が殺されても平気。太守の仇を討つどころか、早々に敵に寝返る。

 この衛布と、劉邦にどれほどのちがいがあるのか。
 野心と敵愾心を顕わにしている分、衛布の方が健康だ。

 劉邦はただの一度も項羽を愛していない。
 なのに、なーんも考えずに、義兄弟の契りを結ぶ。

 男にとっては一夜限りの遊びだった。だが、女は運命だと思った。……てなぐらいの、温度差。

 義兄弟だからと項羽は劉邦を許し続けるけれど、劉邦はそんなことは頓着なく、項羽を殺すことしか考えていない。

 「私も龍」と歌って楚の軍に加わるときも「項羽は当分は味方」と、言下に「いずれ殺すけどね」と匂わす。
 先に咸陽に入れば、項羽のことなんか関係なく門を閉ざす。
 僻地とはいえ領地を与えられて漢王となったあとも、とってもナチュラルに「楚を攻める日は近い」と兵隊の訓練にいそしみ、懐王を弔うという大義名分を得て兵を挙げる。
 項羽が都を不在にすると、ここぞとばかりに進軍。

 終始一貫彼は、項羽を敵とし、殺してその地位を奪うことしか考えていない。

 なのに彼は、とても善良そうに見える。項羽との間に友情があるようにさえ見える。
 陰でいじめグループを指揮しながら、当人の前では「オレたち親友だろ!」とにっこり微笑んでいるくらい、やっていることに裏表がありすぎる。

 でもって、この親友ぶって陰でいじめ、てのは衛布がやっていること止まりで、劉邦はさらにものすごいことに、悪意がないんだわ。
 自分でこっそり友だちの上靴を焼却炉に放り込んでおきながら、「上靴がない? ひどいな、オレも一緒に探すよ」と、心から親切で言って、一緒に探してやるのよ。自分がそのひどいことをしているんだという、自覚がないの。

 こーわーいー。

 義兄弟だ、と無邪気に言いながら、その同じクチで楚を攻める話をする。戦争を吹っ掛けるってことは、項羽を殺すことなんだけど、そのへんは気にしてない。

 項羽は義兄弟である劉邦を、自分から攻めたりしない。いつもいつも、劉邦が攻め、項羽が怒る。で、項羽の方が強いから、劉邦が「ごめんなさい」して許してもらう。

 項羽は「私には羽がある」と英雄ソングを歌う。劉邦は「東へ」と英雄ソングを歌う。
 だが、項羽は野心を歌うことで誰も裏切らないが、劉邦は「項羽を殺すぜ! ヤツを殺してオレが上に立つぜ!」と歌っている。西の地へ追いやられた劉邦は、東へ攻め入る予定だからだ。

 「義兄弟」でなければ、べつにそれでいいんだけど。衛布がどんだけ野心を持っても健康であったように。
 項羽個人を慕っているようなのに、それと同じハートで項羽を殺すことをにこやかに歌う劉邦の、病みっぷりがこわい。

 項羽への好意と、項羽を殺して天下を取ることは、劉邦の中で別物になっている模様。
 ……ふつうは、葛藤とかわだかまりとか、ありそーなもんだがね。劉邦にはそういう「闇」の部分がない。いつもからっと明るい。

 という、闇。

 鴻門の会で范増先生@はっちさんに命を狙われてなお、「まだ義兄弟に別れを告げていない」と言い募るあたり、ほんとに項羽のこと、素で好意を持ってるんだよね。
 そんな相手を殺すことしか考えていない、それを変だと思わないって、どんだけコワレてるんだ、劉邦。

 そんな人だからこそ、「私は誰も愛していない」になるわけだな。
 愛せるわけないじゃん。アンタ、人としておかしいよ。

 ……されど、人としておかしい人こそが、天下を取ることが出来るんだろう。
 ふつーの神経持ってたら、裏切り続け利用し続け、血で血を洗って屍の山の上に国を作ろうなんて思わないって。

 
 とはいえ、このこわさは、ひとえに演じているのが壮くんだからだと思う。

 壮くんの得難い才能なんだ。
 彼の光には、影がない。
 どんな光にも、影はできる。物理的にいって。
 しかし、壮一帆の輝きには、そんなもんが存在しないのだ。

 そんな壮くんがあっけらかんと突き抜けた明るさで演じるから、劉邦はあんなに可愛らしく、魅力的な人物になっている。
 それと同時に、いびつで、キモチワルイ人間になっている。

 や、1回観る分には、劉邦の闇は見えないというか、気にならないんだけど。だって劉邦、可愛いんだもん。
 繰り返し観ていると、誠実そうにきらきら笑いながら、めちゃくちゃダークな言動しかしていないことに、背筋が寒くなっていって。

 もっと深刻な持ち味の人が演じたら、屈折や裏が感じられるキャラになるんだろうけど、なにしろ壮くんだから。
 ぴかーっ、とか、てかーっ、という明るさゆえに、やってることのひどさが伝わりにくい。ふたつが乖離しまくり、とても病み&闇が広がっている。

 大好きだ、劉邦。

 こんな無邪気さがコワイ人、愛さずにはいられません。
 歪んだ人は大好物だ。

 いずれ楚軍と戦う、と英雄みたいに語っている漢王サマのキラキラぶりに心奮える。「義兄弟を殺すよ~♪(笑顔)」って言ってるんだよねー。項羽は劉邦を傷つけることなんか、一度も考えてないのに。劉邦ってば項羽を殺すことしか考えてない、なのに項羽のことはふつーに好きで義兄弟だと思ってるんだよー。すげーすげー。

 悪意なんかないから、項羽に「義兄弟を裏切るなんて、酷い奴だ」と責められたら、「ごめん、オレが悪かった」って心から謝るんだぜえ。
 劉邦はナチュラル・ボーン、いつだって誠実なの。二心なんてないの。

 劉邦がきらきらと無邪気に美しければ美しいほど、心奮えます、彼への愛しさがつのります(笑)。 

 ……項羽ってばほんとに不幸。なんでこんな病んだ男を愛したんだか(笑)。

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