そして、お楽しみの新人公演『スカーレット・ピンパーネル』

 力のある作品は、新公にも注目が集まる。大抵のヅカ作品はキャストの力でなんとか嵩上げされているだけで、力のない若手が演じると脚本の粗が目立ってえらいことになる……ものだが、『スカピン』はそうではない数少ない名品のひとつだ。
 おもしろい物語の別キャスト版として、楽しめるわけだ。
 また、2時間半の本公演を2時間に縮めるので、別編集・切り口での『スカピン』を観られる。

 初演の星組新公はそりゃーもー大騒ぎだった。
 極端なひとりっ子政策によって偏りまくっていた星組で、前代未聞の抜擢があった。それまでの新公で脇のおっさん役ばかりやっていた、組ファン以外には無名の研7生・ベニーが突然主演することになった。
 月組で言うなら、突然彩央寿音氏や華央あみり氏が新公主演するよーなもんだろう。(ベニーと同期で挙げてみました)
 新公の主なキャスト発表時に、すでに仲間内で祭りだったし(笑)。

 実際、チケット・レートもすごいことなっていった。
 わたしはムラのチケットを1枚余らせて、某定価以下譲渡掲示板に出したところ、携帯がピーピー鳴り続けすげー焦った記憶がある。投稿した、すぐに譲ってメール来た、んじゃお譲りしますとメールを打つ間もなく次々メールがやってきて……。当日手渡しで譲ったけど、ものすげー勢いで感謝されたなー……いやいや、チケットは天下の回りモノ、お互い様ですから。

 そしてさらに東宝ではどえらいチケ難公演に。B席でにまんえんとか、チケットを探している友人が悲鳴を上げていたのをおぼえている。

 抜擢に応えたベニーもすごかったし、ソレを支えた星組新公メンバーもすごかった。
 そしてなんといっても、『スカーレット・ピンパーネル』という、作品が。
 どんだけ無名の若手抜擢だったとしても、たとえば『愛と死のアラビア』では話題にも観劇意欲にもつながらないだろう。
 「別キャスト公演を観てみたい」と思わせるほんとうに面白い作品で、しかも冠公演で海外ミュージカルで劇団がかなりのお金と気合いを掛けていることがわかっている「特別な」1作で、そこに「スター誕生」の期待感をミックスさせてはじめて、組ファンだけでなくライトな層まで巻き込んでブレイクとなる。

 たのしかったなあ、星組の新公。

 
 その記憶も新しく、また鮮烈過ぎて、それが冷めやらぬうち……というか、それ以来そんな新公にお目に掛かっていないままに、『スカピン』再演で、再度新公がある、のだから。
 そりゃ楽しみでしょう。

 主な配役がまた、冒険というか変わっているというか、ある意味月組らしい謎の配役で。

 主役のパーシーが、研3になったばかりの珠城りょう。
 ものすごい抜擢なんだが、前回研2で2番手というか主役の相手役というかをやってしまっているので、ベニーのときほど「劇団、どーしたんだ?!」という大抜擢感はない。
 また、前回の2番手役で、男役としての外見が出来上がっていることも、歌えることも芝居が出来ることも示してしまっているので、「スター誕生?!」とわくわく劇場に駆けつける、という配役ではない。

 ヒロインのマルグリットが、研7の彩星りおん。
 男役で最終学年滑り込み主演はよくあることだけど、娘役ではあまりない。
 娘役の旬は短いので、はじめての新公主演は大抵もっと若い学年で済ませる。その後研7までヒロインをすることはあるけど、最初がいきなり研7ってのは、トップ就任が決まっていて、とりあえず主演させとかなきゃいけなかった檀ちゃんくらいしか、おぼえがない。……というと、12年ぶりか。
 りっちーがどこかの組で落下傘トップ娘役になるのでなければ、一体いつ以来のことなんだろう、研7で初ヒロインって。わたしの記憶にはナイが、わたしはたかだか20年ほどしかヅカファンやってないし、10年以上前のことは新公ヒロインの学年までよくおぼえてないし。……まさか史上初ではないよね? 昔はよくあることだった、のかもしれん。

 主役と同等の注目役である2番手のショーヴランが、研6の紫門ゆりや。
 『エリザベート』でフランツやって、『スカピン』でショーヴラン、って、経歴だけ見ると若手を代表する歌ウマみたいだね(笑)。ゆりやくんはどっちかっちゅーとダンサー認識(文化祭でソロで王子様踊ってたよねえ?)だったんだが……。
 いやまあその、歌の実力は置いておいて、美貌とかアイドル性とかを買われての配役かな。

 天海やタニちゃんをはじめとする超抜擢、トップ娘役不在とか、他組の男役が大作ヒロインとして特出とか、変則人事が組カラー?な月組らしい配役、かな。
 珠城くんという若いスターを支え、売り出すために万全の配置をした、というか。
 前回の新公で、珠城くんの実力……できることとできないことが明確になったので、絶対にコケさせないためにパズルがんばりましたというか。

 珠城くんは、男役としての基本値はクリアしている。そんな彼にないモノは経験と、若者っぽいアイドル性(笑)。渋いオヤジができることは証明済みだが、「研3で新公主演です、若いです、キラキラです☆」てなタイプぢゃない……。

 彼を支えるために、ヒロインは舞台経験が現時点でいちばん豊富な人でなくてはならない。
 されど、研7の90期にはヒロイン経験のある娘役がいない。それなら研7より下級生でもいいから、ヒロイン経験がある人……って、いないじゃん。んじゃヒロインじゃなくても舞台に立った年数・回数の多い人で、そのなかでいちばん歌のうまい人。
 経験だけそこそこあっても、豊かな歌唱力がないと、今回の役は主役の足を引っ張ることになるから。

 そーなると、実力はあるけれど渋いというか地味な並びになってしまう。せっかく真ん中が研3なのに、キラキラ☆なイメージがない新公ってどうよ?

 つーことで、2番手は実力よりもアイドル性重視。歌が難しい役だが、歌唱力は問わない。歌唱力があって堅実な研7男役もいるけど、2番手までソレじゃ困る。

 ……と、いうことなのかなと、勝手に考える。
 新公の配役にはいろいろある。主役、2番手、3番手の男役たちを順当に鍛え、またスターとして順当に売りに出したいと配役する場合も、たったひとりのスターを売り出すために周りを手堅い実力者で固める場合もある。

 同じくひとりっ子政策の星組が、劇団が育てたいブレイクさせたいと切望している真風くんを支えるために2番手をさせたみやるりが、その後新公主演できたように、月組で珠城くんを支える役目になった他の子にも、チャンスがめぐってくることを祈る。

 男役は旬が長いのでチャンスはまだあるかもしれないが、娘役の軽んじられ方に、不安を覚える。
 前回はヒロイン不在だから、娘役がヒロイン役を演じる機会を奪われていた。そして今回は……りっちーが今後月組路線娘役として花開く、檀ちゃんのような遅咲きヒロイン役者ならばいいんだが、そうでなければ年2回しかない新公ヒロインの枠をひとつ、男役の支えだけで消費したことになってしまう。
 や、もちろんヒロイン経験は、路線としてでなくてもたしかな血肉となり、今後の彼女をよりすばらしい舞台人にするだろうけど。
 経験豊かな娘役が、ぺーぺー男役を支えるために新公ヒロインをすることはいくらでもあるが、そーゆー場合はいつも、すでに新公ヒロイン経験を積んだ子がやるからさー。その子たち同様、今後もりっちーが活躍しますように。

 と、新公本編以前の感想というか、思ったことをつらつら。

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