月組版新人公演『スカーレット・ピンパーネル』の、構成・演出についての感想、後編。
 なにしろ新公は1回限り、記憶違い・思い込み、いろいろいろいろあると思う。特に星組新公なんて2年前に1回観たっきりだし。
 失敗を恐れていたら一歩も進めない、カンチガイ上等!で、勝手に語ります(笑)。

 
 生田せんせ演出の、月組新公『スカピン』オープニング。

 主人公の歌う主題歌の間に、物語の起因が同時進行する。そして、主題歌が終わったところから本編スタート、タネは蒔かれている、って、すげーオープニングだ。
 うまい! と、膝を打った。

 小柳タンの「とりあえず端折りました」のプロローグ演出より、断然好き。ええ、比較している星組版新公『スカピン』の演出は、小柳せんせ。
 小池作品の新公といえば、かなりの確率でいつも小柳せんせが務めている。小柳せんせは彼女自身のオリジナル作品ではハッタリかました作劇をしてくれるんだが、師匠作品のアレンジは苦手らしい。大作一本モノを新公に短縮するとどれもひどいか微妙かの二択、という演出になる。(『NEVER SAY GOODBYE』はひどかったな……・笑)

 小柳タンが続けざまに演出している新公『エリザベート』でなにが不満かって、プロローグを大切にしていないことなのよ。
 ここで観客の心をぎゅっと鷲掴みにしなきゃいけない、劇場だからみんな黙って坐っててくれるけど、雑誌なら最初の1ページで読み飛ばされたり、テレビなら数分でチャンネル替えられてるわよ?! と、思う、意欲のないオープニング。
 「時間調整の手段として手っ取り早いから、まずプロローグを短縮しました・スケールダウンしときました」でしかないんだよな、いつも。

 それを、生田せんせはちゃーんと「プロローグ」の役目をわかった演出を見せてくれた。よっしゃ!

 でもって、次によかったのが、1幕から2幕へのつなぎ方。
 わたし、1幕ラスト大好きなの。王宮の仮面舞踏会、「謎解きのゲーム」。重なり合うメロディ。ギロチン、炎の中へ……。
 音楽が最高潮に盛り上がり、銀橋のパーシー@たまきちと鈴なりの本舞台でジャンっと静止。
 ストップモーションから、本舞台の「空気読まない」プリンス@響れおなくんの「スカピンごっこやろう」で物語再開……この流れのスムーズさ。

 1幕の「マダム・ギロチン」と同じ方法論。同内容が近隣のふたつの場面に分けられているから、ひとつにまとめる。重複は表現のひとつだけれど、時間がないときは1回でいい。

 そして、個人的にテンション上がったのが、2幕のショーヴラン@ゆりやくんのソロ。ブレイクニー邸の庭でマルグリット@りっちーに詰め寄り、突き放されたショーが幻の女たちを背景に歌う、アレ。
 「君はどこに」があるっ。
 星組版ではほぼカットされていた、大好きな歌がカットされていない! うおおお、コレを麻尋で聴きたかった……っ。

 とりあえず『スカピン』って、パーシーとマルグリットとショーヴラン、この3人のキャラクタさえ描けていればいいんだよね。そりゃ大勢に役がある方がいいに決まってるけど、現実問題としてこの3人をキャラ立ちさせることが鍵。
 そのためにどこを削るかとなると、ショーヴランに関していちばん削ってはならないのが「君はどこに」だと思うんだ。ショーのたくさんある黒い歌をちょっとぐらい削ることになったとしても、「3人の物語」である以上マルグリットに対するショーの根幹を示す歌だけは、必要だと思うんだ。

 で、パーシー、マルグリット、ショーヴランとそれぞれ内面を歌う場面はちゃんと確保してあって、その上で。

 「栄光の日々」があるっ!

 『スカピン』はたしかに「3人の物語」で、たかが男女の三角関係、夫婦の仲違い物語だ。
 でもこの物語がそーゆー小さなところだけに留まらず、ワールドワイドな広がりを持つのは、人間の持つ普遍的な部分にも触れているからだ。
 それが「栄光の日々」。過ちと後悔、現実と希望をすべての人たちが等しく表現する。「3人」だけでなく、彼らの関係者だけでなく、いろんな立場の人たちが、みんなチガウ人たちが、同じメロディを歌う。悩みながら苦しみながら、それでも未来を歌う。

 星組版ではスカピン団の歌になってたんだよね。関係者オンリーの場面。
 その分スカピン団に見せ場があってよかった面はあるが……テーマとしてはブレていたよーな気がした。

 それが今回はちゃんとあった。
 初舞台生も巻き込んで、ものすげー人数のダンスとコーラスになった。
 そのテンション、立ちのぼるオーラ。若者たちが「たった一度の新公」を体当たりに演じる、その一種イッちゃったよーな気迫。
 一丸となって発散する場面であり、ここが出番の最後になる子たちも多い……だからこそ、ものすげー盛り上がり。うおお、派手だー。
 

 主要キャラの見せ場は極力削らず、全員で盛り上げるところはどーんと盛り上げて、流れに起伏を付けて。

 そりゃどこもカットせずに全部上演してくれるのがいちばんいいが、現状での最適な演出を見せてくれたと思う。
 2時間という省略版で、本公演とはチガウ、新公キャストのために再構成された『スカーレット・ピンパーネル』。

 たのしかったよ、生田せんせ。

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