ひっそりこっそりと、思い出話。

 「彩吹真央」で、思い出す公演・場面。

 いろんなゆみこちゃんを見てきたし、良かったとか好きとかはいろいろあるし、特に選べないし、しいてどれと選ぶ意味もないし。
 だからそーゆー意味ではなく、「思い出す」場面。思い出の、ではなく、思い出す。

 バウ・ワークショップ『LAST STEPS』の、スパニッシュ。

 樹里ちゃんが歌い、ゆみこが踊る場面。

 
 それまでわたしは、ゆみこ=歌手だと思っていた。
 『嵐が丘』のゲイル役のイメージゆえにだ。
 滑舌の良い喋りに、耳触りの良い声。
 でかい目と派手な顔立ちの、押し出しのいい若手。
 雪組下級生だったときの彩吹真央のイメージは、そんな感じだ。
 新公でトウコの役をやっていたりして、そのイメージがまたかぶっていたかもしれない。派手で押し出しのいいトウコと、まるっと同じ印象の芝居をする下級生だから、派手で押し出しがいい。

 …………雪にいたときは、派手だと思ったのに。押し出しがいいと思ったのに。
 花組では地味で目立たなくて、びっくりした。
 花組ファンの友人から、「雪組って地味~~」とさんざん言われていたのは、こーゆーことか! 雪で派手でも花だと埋もれるんだ! と、実感したのも、今となってはいい思い出(笑)。

 話を戻して。
 雪組時代のゆみこは、歌手だと思っていた。

 花組へ組替えが決まり、雪組として最後の公演が、風花ちゃんの退団記念バウ『LAST STEPS』だった。

 正確に言うと、すでに雪ではなく、花組に組替え後だったんだけど。
 たしか出演が発表されたときはまだ雪組で、公演日には花組になっていた。
 つまり、風花ちゃんのバウは、「花月雪宙合同公演」と銘打たれているけれど、最初はそんな4組にも渡る大袈裟なものじゃなく、風花ちゃんの月組と、空いている雪組メンバーで行う、月雪2組だけの公演だった。
 それが組替えで、「花月雪宙合同」という大仰なモノに……。

 だから、日付だけすでに花組、でも、感覚的にはまだ雪組だ。
 ゆみこを派手で華のある(笑)実力派下級生だと思い、歌手だと思っていた、雪組時代だ。

 ゆみこ=歌手だったから、なにかしら見せ場をもらえるとしてもそれは「歌」だと思い込んでいた。
 学年的に、見せ場があるとも思えないんだが、そのときはほら、ゆみこのことを派手で以下略と思っていたので、下級生でもなにかしらオイシイ扱いされるんじゃないかと、勝手に思い込んでいた(笑)。

 そしたらほんとに、見せ場があった。
 バウホールとはいえひとつの舞台、ひとつの公演で、1場面をたったふたりっきりで務めた。

 それが、スパニッシュ。

 歌うのは、樹里ちゃん。
 この公演で風花ちゃんの相手役ポジションのスター。

 その、主役の相手様の歌声で……ゆみこが、踊った。ひとりで。

 つまりは樹里ちゃんのソロ歌の場面で、背景が寂しいから誰かに踊らせた、それがゆみこだった、ってだけで、主役は樹里ちゃん、ゆみこはバックダンサー、に過ぎないんだけどね。

 それでも驚いたんだ。
 ひとつの場面をふたりきり。
 しかも、すでにスターとして認識されている樹里ちゃん(月組から、宙組4番手として組替え)の歌で、ひとりで踊るなんて。

 もしも見せ場があるなら、それは歌でだと思っていた。ソロをもらえるかもしれないと思っていた。
 しかし。

 ダンスで、ソロがあるなんて、カケラも想像してなかった。

 暗い舞台。セットなんざ特にない、シンプルな公演だった。
 その暗い中で、スポットライトを浴びて、踊る。
 月組ファンからすりゃあ「誰?!」てくらい、無名の下級生。新公でも最高で2番手までしかやったことない子だよ。

 そんな子が、いきなり、スポットライト。

 なんだか不思議なモノを見る思いで、注目した。

 ドラマティックなナンバーだったと思うので、激しく力強く踊っていたと記憶している。

 ほんとに、真剣っ!でね。
 「抜き」どころの一切ない、力の入りまくったダンス。

 ライトを浴び、闇に浮かびあがった姿は美しく、「ゆみこ=歌」ではないことを、思い知らされた。
 こんなに、踊れるんじゃん!!

 ……ダンスの善し悪しがわからないわたしは、「このメンバーで、この学年の子がこの場面に抜擢される」=「ダンサー」だと、単純に思い込んだ(笑)。

 今思うと、そんなにうまかったかどうか、定かではない。
 ただ、あの張りつめた雰囲気ごと、端正だと思ったんだ。

 
 ずっと雪組で育って、このまま雪組で生きるんだと思っていたら、まさかの組替えで。
 しかも、組替え最初の仕事が、よそさまのトップスター様のサヨナラ・イベント公演で。別の組の選抜メンバーと一緒で。 
 「花組」と看板背負いながらも、まだ一度も花組さんとは仕事してなくて、組替えしたのに雪組の仲間と一緒で。
 なんかいろいろ複雑で大変で、それでもやるしかないわけで。

 で、何故か上級生スターを差し置いてのソロで。

 尋常でなく、緊張していたと思う。気負っていたと思う。
 ただの観客のわたしだって、驚いたくらいだもの。

 あの「抜き」どころのない、真剣勝負なダンス。眼差し。

 ゆみこが退団し、新たな道を歩み出しているとわかっている今、何故か思い出すんだ。
 「彩吹真央」というと、あのソロダンスを。

 思い出深い役とか好きな役とか、他にいくらでもあるのにね。
 映像に残っていないことも大きいかな。手元にあって、いつでも再生できるものじゃないから、美化されていたり、またすごーく貴重な記憶だと祭り上げられているのかもしれない、わたしの中で。

 遠いね。なにもかも。

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