まさかの晴天。

 いやその、信じていたから、水夏希の最強雨男伝説を。4月後半に雪を降らせる、その力を。

「雨、降らないねー」
「あたしいちおー、傘持って来たんだよ、いつどひゃーって降るかもしんないから」
 前楽の日、当日抽選を終えたわたしとnanaタンは大橋を歩きながら話していた。
 水夏希の記念日が雨・雪・台風以外のナニかであるはずがない。わたしはその昔コミケの快晴伝説を信じていたよーに、水先輩を信じていた。

 水夏希は、地球をも動かせるのだと(笑)。

 どんだけ晴れていても、天気予報がどうでも、突然ゲリラ豪雨がやってくるはずだ、それこそ水くんの千秋楽だっ。

「きっと明日は雨だよ」
「だよねー」

 晴天、とはこのような日を言う、という見本のような青空、猛暑の最中そう話した。

「きっと上演中にざーっと一雨来て、雨上がりで気温も下がったなか、パレードになるんだよ」

 そうあってほしい。
 雨のパレードは寂しい……し、場所取りしている人たちが大変だ。かといって、この猛暑炎天下での場所取りも大変……水しぇんが厩戸皇子みたいに雨雲をつれて来て、みんなさわやかにラストディを迎えられるといい。

 そう願っていたんだが。

 7月26日、『ロジェ』『ロック・オン!』千秋楽。

 まさかの、晴天。
 広がる青空、ゆらゆら空気が揺れるほどの、猛暑。
 水しぇんのムラ楽なのにー?

 
 その謎は解けた。
 水夏希最強雨男伝説を打ち破るほどのソーラーパワーが、宝塚大劇場にて、局地的に発せられていたんだ。

 劇場の楽屋口に、わらわら現れる、白いフードに白いケープ姿の人々。巻き付けているモノもそれぞれ、スカート風だったり布風だったり、手作り感あふれまくる姿。や、中でもヲヅキ氏のでかい(ちょっと黄色がかった)フード姿は異様だった(笑)。
 飾り立てられた台車も出てくる。これまた高校の文化祭的装飾の、白い花だのリボンだの、手作り感満載。
 この晴天に、みなこちゃんは雨傘まで持っている。傘には水しぇんの写真がべたべた貼ってある、これまたチープな手作り感あふれるシロモノ。

 白装束集団たちに、「てるてる坊主」の歌声がかぶる。

 ……て、てるてる坊主なのか、アレ?!

 拡声器にラジカセ持参、ギャラリーへの挨拶も抜かりナイ。
 花の道にいるわたしたちにも、ちゃんと音楽も声も聞こえるようにしてくれてるの、GJ!

 数年前、同じようにこの位置から(わたしはいつも同じ位置・笑)、見送り部隊を指揮する水先輩を見ていたっけ、となつかしく思い出す。コム姫を迎えるために、水くんがそりゃーオトコマエに仕切っていましたよ、尻ポケットから携帯を取り出して、なにやら話をして。
 
 あのときの水くんの立場が、キムくんだった。
 水先輩は「仕事の出来る、大人の男!」って感じに生真面目に、緊張感バリバリに仕切っていたけれど、キムくんはまたチガウ。
 もちろん真面目に緊張感を持って臨んでいるんだろうけど、なにしろ見た目が若い。元気な男の子が仲間たちとなにやら準備している感じ。

 車から降りた水しぇんが、キムたちを見て爆笑した。
 キムが黒いコートを羽織らせ、みなこちゃんが大真面目に傘を差し掛けるし……だからこの、晴天にっ!

 ああそうか、大雨の中の入り、を想定して演出してあるんだっ。

 なにしろ最強雨男伝説の持ち主だから。

「ちかさんの入りのイベント、どうする?」「きっと当日は大雨だよねえ」「んじゃ、雨でも大丈夫なイベントにしないと」……ってところからスタートしたんだ、コレ。

 ミズはモテモテ、ロックオンミズ、数々の替え歌と共に、てるてる坊主たちが揺れる。
 お花で飾られた台車に乗って凱旋した水しぇんは、拡声器を渡され、開口一番。

「絶対雨降ると思ってたでしょ!」

 オゥイエーッ!! てるてる坊主たちも、観客も歓声。

「こんだけの生テルテル坊主のおかげで、晴れだっ!」

 そうか。
 そうなのか。

 水夏希最強雨男伝説を打ち破ったのは、組子たちの愛なのか。

 雨を呼び、嵐を呼ぶ男、水夏希。
 地球をも動かす最終兵器、アクアの地球、みんなの水夏希の雨っパワーは健在、ナニモノにも揺るがないラスボスぷり。
 しかし、ついに伝説は破られるときが来た。

 それが、愛によってだ。

 物語の結末は、いつだって、愛。
 退団者に美しく爽快に最後の日を迎えて欲しいという、雪組メンバーたちの愛によって、雨雲が蹴散らされたんだ。

 野獣が愛によって王子様に戻るように、雨の伝説の奥に囚われていた黄泉の帝王ミズナツキは、愛によって封印を解かれ、わたしたちの前に現れたんだ。

 青い空と、白い雲を背に。
 輝く太陽を浴びて。

 
 …………愛の力、強すぎです、みんな。
 暑くて死にそうな1日だった(笑)。

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