きんいろの草原がきらきら揺れて、そこをあの人が笑顔で走っていったの。

 『水夏希サヨナラショー』で、息を飲んだ。
 『RIO DE BRAVO!!』コーナーになり、舞台にはみなこちゃんを中心とした組子たち、そして彼らとノリノリでポンポンを振っていると、いつの間にか客席に水しぇんが! という趣向。

 下手扉から現れた彼は、22列目前の通路を通って、41番座席横の通路を直進して銀橋へ行く。

 客席降りしているわけだから、客電が何割か点き、劇場内は明るくなっている。

 みんなでポンポンを振っているところだから、ライトを浴びて客席全体が金色に輝いている。水しぇん登場でさらに興奮、わーっと歓声が上がり、さらにポンポンが揺れる。

 金色が揺れている。
 さらさらさらさら、わっしゃわっしゃ。

 見渡す限り。

 1階席のいちばん後ろ、立見位置にいたわたしからは、1階客席全部が見回せた。
 灯りが点いた途端、金色が浮かび上がるのを見た。

 きれいなんですけど。
 もーめちゃくちゃ、きれいなんですけど。

 泣けるんですけど。
 みんなの心がひとつで、金色の草原になった空間。

 そしてその光の草原を、水しぇんが駆け抜けていく。
 うれしそーに、大きな口をにかりと広げて。

 金色の草原を、きらきらの魔法使いが渡っていくみたいだ。

 両手を広げて、飛ぶみたいに、空気を切るみたいに、駆け抜けていく。

 仲間たちが待っている、光あふれる舞台の上に。

 前楽、千秋楽ともに、同じ位置(立ち位置まで・笑)からその光景を見た。
 揺れるポンポン、その波の中を走り抜ける水夏希。

 こんな光景、ありえない。
 客席全部がポンポン振って、ライトが点いてて、水しぇんひとりが走り抜ける。
 それを、劇場のいちばん後ろから全部眺める、なんて。
 どれひとつ取っても特別すぎて、それら全部がそろった奇跡、いつか見た夢みたいな現実感のなさ。

 なにがどう、じゃなくて、きれいで泣けた。

 ここは、美しい処だ。

 雪組公演千秋楽、トップスター水夏希の退団公演最終日、サヨナラショー。
 キモチの詰まった、美しい処だ。

 
 金色の草原は次に、闇に光る青いペンライトの海になった。
 名前と公演名と日付の入った透明な板が、中に入っているタイプ。スイッチを入れると青いライトが点き、中の文字が浮かび上がる。

 これほど、動きの揃ったペンライトをはじめて見た。

 千秋楽(昔は前楽も)でペンライトを振る経験は10回以上軽くあるけれど、動きはいつでもけっこーバラバラで。
 この列は右左、こっから一部は左右、とバラバラなのが当たり前。隣の人に合わそうと思っても、両隣の人が逆に振っていてどちらに合わせて良いか混乱したり。
 前の人に合わせて振るようにすれば全員揃えることは可能なはずだが、まず揃わない。周囲関係なく勝手に振る人は必ずいるし、揃えたいと思っていても一旦リズムに乗り、その周囲がきれいに同じ動きになっていたら、そこだけが逆だとしても途中から修正できない。
 前もって練習しているわけでも「この列の人の動きに合わせて」と指令があるわけでなし。一期一会の4ケタもの他人の集まりで、動きがシンクロするはずがない。

 なのに、さすが雪組。

 ポンポンの振付で、「みんなで同じ動きをする」ことに慣れている。
 最初はふつーにバラバラ、列単位、群れ単位で勝手に揺れていたペンライトが、どんどん「前へならえ」で揃っていく。
 自分だけが勝手に振るのではなく、周囲を見回し、ナニが起こっているかを判断し、決断する。
 わたしの前の人はオペラグラスをのぞくのに必死で、ペンライトの向きなんか気にしていない。そのためしばらくひとりで逆に振っていたけれど、いつの間にかちゃんと周囲に合わせて振るようになった。
 そうやって、ひとりひとりが「参加」していく。
 自覚を持って。

 水しぇんを送る、この美しい場所にいること。

 すごい、きれい。
 1階席の千何百本ものペンライトが、一斉に同じ動きをしている。
 1000人以上の心がひとつになって、調和している。

 水夏希の歌声に。

 2階席はわかんないけれど、きっと同じように美しい波を作っているんだろうね。
 水しぇんに見せるために。

 いろんな思いを込めて。

 
 劇場のいちばん後ろから見る光景は、舞台の上だけでなく、客席まで全部が全部、美しくて愛しいものだった。

 金色の草原も、青い波も、拍手と手拍子に揺れる人たちも。
 なにもかも。

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