んで、改めて。

 蘭ちゃん花組娘役トップ、まと×蘭・新生花組スタートおめでとう。

 『麗しのサブリナ』はタイトル通り、サブリナ@蘭はなちゃんが主人公。
 そう、どう足掻いても『虹のナターシャ』の主人公がナタ公で、三条さんが主役にはなれなかったように、『麗しのサブリナ』もサブリナが主人公だ。

 運転手の娘サブリナ@蘭ちゃんは、お屋敷のおぼっちゃまデイヴィッド@壮くんに片想い。バツ3の女ったらしデイヴィッドには、お子ちゃまのサブリナなんて眼中にない。思いあまったサブリナは自殺しようとするが、デイヴィッドの兄ライナス@まとぶんに偶然助けられてしまう。
 パリの料理学校に留学、帰国したサブリナは美しいレディに変身。今度はデイヴィッドがサブリナに一目惚れ。だが仕事一筋のライナスが、デイヴィッドを政略結婚させようとしていたため、運転手の娘サブリナとくっつかれては困るっつーんで、横恋慕をはじめた。ケガをしたデイヴィッドの代わりにライナスがサブリナをデートに誘い、口説きはじめるが……。

 なんといっても、サブリナがかわいい。
 いちばん最初の、木の上の蘭ちゃんがベリキュート! 恋愛ドラマの「ヒロイン」として納得のかわいらしさ。

 サブリナはつくづく若く、初々しく、可愛らしい。
 なにしろ演じている蘭ちゃんのキャリアが圧倒的に少ない。バウヒロ経験があるだけで、大劇場でのヒロインは新公1回のみ……しかも、娘トップ不在組でのヒロインだ。『エリザベート』新公とか経験できていればちがったんだろうけど、浮舟だけだもんなあ。
 広い大劇場の真ん中に立つ訓練が足りていないところへもってきて、いきなりタイトルロールだ。『EXCITER!!』もそうだが、劇団は蘭ちゃんに大きな期待を持っているのか単に無神経なのか、そのスパルタぶりがハンパない。経験不足の女の子に、いきなりナニやらせてんだ?!の重責ぶり。

 等身大の若い女の子として存在できる、初々しさ・かわいらしさ勝負の最初はいいんだけど、物語が進むとそれだけでは立ち行かないため、後半になると大変さが増す。
 がんばれ蘭ちゃん! きっとこの経験が彼女を急激に成長させるはず。

 とまあ、素質はあってもそれをまだ生かし切れていないヒロインを支え、ライナス@まとぶんの男ぶりが上がっている。

 なにが驚きって、まとぶんが、大人の男なんですよ。

 大人を演じるまとぶさんを見るのは、はじめてだと思うんです、わたし。
 星組時代からずーっと眺めて来ているけれど、彼が「あんちゃん」でないことなんて、初体験ぢゃなかろーか。
 あんちゃん、てのは「お兄さん」ではなくて、若い血気盛んなにーちゃん、という意味。
 まとぶんの特質というか持ち味は、永遠の若者というか、ナニを演じても結局のところ「あんちゃん」になること。王子様でも貴族でも、何故かいつも血気盛んで爆走上等の下町のにーちゃん的アツさを持つ。

 それがデフォルトだと脳内に染みこんでいるから、ついつい無意識に「いつライナスはあんちゃんになるのかしら」と思って見てしまった(笑)。
 ところがどっこい、ライナスは大人だった。
 少なくとも、初日とその翌日は大人のままだった。
 このまま千秋楽まで、大人でいるのかしら。

 まとぶさんの「なにを演じても結局はあんちゃん」という特質は、愛すべきところだと思っている。
 芝居に正しいも間違ってるもないので、彼のそーゆー持ち味を好きか嫌いかだけでしょう、問題は。
 美貌と変幻自在の声と破綻ない実力を持ちながら、まとぶんてば芸幅が意外なほど狭いんですよ、ナニやってもあんちゃんになるので。
 その「ナニをやっても」ってのは、ソレを好きな人にはたまらない魅力だろうし、そこを認められない人には観劇意欲につながらないだろう、両刃の剣。
 わたしはもお、まとぶんのそーゆーところはアリだと染みこんでいるので、彼があんちゃんでないことに逆に驚いてしまうという(笑)。

 まとぶんが、大人の男だ。
 抑えた声で話し、暴走していない。

 相手役が変わる、ってのは、こーゆーことなのか。

 それはとても新鮮な驚きだ。
 このまま大人でいてくれるのか、結局はあんちゃんとして暴走をはじめるのか、見守るのが楽しみです。……どっちでも楽しめる自信がある! まるごとまとぶんだもん!

 作品的には、悪くない小品になっていると思う。

 かわいらしく、オシャレにまとまっている。
 気軽に口に出来る小さなお菓子。3度の食事とは別に、いつでもお茶してよし、みたいな。
 くすくすと笑えるし、女の子が好きなドレスもパーティも出てくるし、悪人のいないハートウォーミングなラヴストーリーだし。
 画面もキレイだし、嫌味はないし、破綻もない。

 ただ……劇的に盛り上がるかというと、そーでもない。

 演出家のキャラクタが出ているのかもしれない。
 こじんまりして平坦、という。加点法ではなく減点法で作劇というか。冒険はしないので減点されない、結果として合格点だけど、最初から満点は取れないことがわかっているというか。
 爆発的に盛り上がるところがない、クライマックスがない、同じテンションで終始する。
 派手にとんがらない分、かわいくオシャレである、と辻褄は合っている。
 濃くないから、口当たりは悪くなく、激しい感動はなくても「いいんじゃない?」という感想にはつながりやすい。

 主人公はあくまでもサブリナだが、現在彼女は経験の浅い初心者ヒロインが悪戦苦闘中であり、また男役至上主義のタカラヅカである以上、視点をサブリナ一本に出来ずライナスにも振る必要があるため分散、二足のわらじを履いた結果すべてが薄くなる。……ということなのかもしれないが。

 演出で盛り上がることはない。そして、演出が邪魔をしてドン引きすることもない。良くも悪くも、とっても中村Aな作品。
 いや、奥行き皆無の紙芝居作品だの前後のつながりの悪すぎる破綻作品を作り続ける演出家なので、もっとわけのわからないモノが出てくるのではないかと危惧していただけに、この「ドラマティックではないが、悪くもない」作品は「良かった」と言えるのではなかろーか。

「で、この『サブリナ』って、面白いの?」
 と、という疑問を何度か聞いた。
 未観劇の人が言うんじゃないの、今観終わった人が、言うのよ(笑)。

 面白くないとかキライとか不快とかは、特にナイ。ただ、面白いのかどうかわからないだけで(笑)。
 楽しく観られるし、最後はちょっと泣けたりもするんだけど、なにしろ爆発的にどーんっと来るモノはないので。観劇直後に「面白かったっ、この作品すごい!」と叫ぶよーなモノではないので。

 ある意味、可能性がある、のかもしれない。
 土台がベーシックで大きな穴がないなら、いくらでも化けられる。演じている人たちもそうだし、観ている側もそうだ。

 全部、差し出されているんだ。
 料理みたいに。

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