すみません、わからないことがあります。

 ガイ@キムは、レイチェル@あゆを、いつ愛したのでしょうか?

 タイトルが『はじめて愛した』で、いちお、この台詞が印象的に使われているのに、この疑問って……(笑)。

 わたしがアホなだけだろうけど、マジわからん。

 なにしろ、「いつものマサツカ」。
 陳腐な、ふつーの恋愛ぢゃないんだぜ、俺様はそんなもん書かねーぜ、てなハリー哲学にて話は進む。
 ガイがレイチェルを殺さなかったのは、彼女が美しい若い女性で、思わず手をさしのべてあげたくなるタイプだったからでしょう。不細工で憎々しげなおっさん相手に、同じことをしたとは思えない。
 だから最初からレイチェルを好きだった、一目惚れだったとすることはできる。
 でもガイはいちおー、そうではないというスタンスを取っている。恋愛感情や下心で助けたのではないと。
 アンリ@りんきらが「そうなのか!」と脳内で盛大なラヴストーリーを展開しているらしいのに、「いやソレ、チガウから」と素でツッコミ入れてるし。

 わたしにも、恋愛ではないように見えていた。
 自分探しINGのガイが、揺らぐ自己の確立にレイチェルを……か弱きモノを助けることが必要に見えた。レイチェルが魅力的な女性であることが大きいにしろ、即恋愛ではないと。

 
 レイチェルの記憶が戻った場面の緊迫感がたまらん。
 ジュリアーノ@咲ちゃんをカッセル@ホタテくんが連行したあと、記憶の戻ったレイチェルに、ベルモンド@ちぎが立て続けに質問する。

 殺人現場を、殺し屋を目撃したのではないか、という質問に。
 話しているベルモンドではなく、レイチェルは離れたところに立つガイを見つめる。
 進退の掛かったガイはもちろん、レイチェルを凝視している。
 結ばれる、ふたつの視線。

 ガイと見つめ合ったまま、レイチェルは「ナニも見ていない」「銃声はしたかもしれないけど、わからない」と答える。

 共犯が、生まれた瞬間。

 それまでは、犯人と目撃者、あるいは被害者、だったかもしれない。
 でもこの瞬間、レイチェルは川を渡った。境界線を越えた。

 見つめ合う罪びとたちの、しんと張りつめた美しさ。

 なんの解説もない、でもレイチェルはこの間にすべてを理解したはずだ。ナニが起こっているのか、ガイが誰で自分が何故ここにいるのか。

 その前の場面で、レイチェルの絶望、感情の爆発を知っているだけに、わたしは勝手に思いをめぐらして震撼しました。

 「殺して」ってことよね?

 ガイが殺し屋であることを警察には言わない、黙っていてあげる、そのかわり、殺して。
 ジュリアーノを。

 追いつめられて、絶望した女。
 死のうとして果たせず、生き残った今、死ぬことさえ許されないとわかった。
 あるのは、地獄だけ。

 慟哭のあとの、虚脱、空白。
 絶望、地獄、そして目の前に、殺し屋。

 目の前の、殺し屋。

 …………あの、緊迫感。
 わたしが演出家なら、絶対「殺して」コースにするわ。
 完全な被害者、天使のようなレイチェルが、罪に堕ちる瞬間。

 天使は自ら翼を折り、殺し屋に魂を売る。
 殺し屋の名は「バード」。
 翼を失った天使と、飛べない鳥が、罪を共有して地を這う物語。

 てな物語が、瞬時にしてわたしのアタマの中を走り回ったのですよ!!(机叩き)

 いや実際は、そんなダークな話ではなかったんですがね。
 あのみょーに明るいラストシーンにたどり着くためには、レイチェルが闇堕ちしたらまずい。
 だからあくまでも、彼女が黙っていたのは「助けてくれたから」という、かわいらしい理由で、ガイとレイチェルの見つめ合いの緊迫感も、「殺し屋だってバラされたらどうしよう!」というだけの場面だった、てことですが。

 そこは語りすぎない、不親切がデフォのマサツカ作品ですから、勝手に脳内補完可なんですよ。
 ここでレイチェルが「殺して」の闇キャラ堕ちしたら、それって『銀の狼』になだれ込みだもんなー。『ラストプレイ』に着地する予定なのに、それはまずいよなー、なにしろお披露目公演だから、いくらキムがヤンデレ得意でも、最初からソレはまずいよなー。と、作家の事情も想像しつつ。
 作品がどうあれ、見ているわたしがいろいろ想像の翼を広げられる、そういうモチーフを、場面を、エピソードを、あちこちにちりばめてくれているのが、ありがたいのですよ。

 わたしが瞬時に煮えたぎった、闇展開のふたりではないにしろ。
 ガイとレイチェルは、十分「運命のふたり」なわけで。

 ふたりだけの世界に突入しているガイとレイチェル、そしてその横で必死に話しているベルモンド、の図がイイ。
 ベルモンドが善良であればあるほど、ガイとレイチェルとの隔絶感が増す。

 いやあ、ここのベルモンドが、めちゃくちゃ好きだ。
 銃声を聞いたかどうかわからない、と言うレイチェルに、「そーですよね、それどころじゃなかったですもんね」と自己完結してるベルモンドが、かわいすぎるっ。

 ベルモンドは、正しい人だ。
 善良で誠実で、なにも間違ってない。彼は正しい。

 でも彼は、誰も救えない。

 あんなに必死になって努力しているのに。レイチェルに顧みることさえされず、ガン無視されて、実際ガイたちに利用されるだけで。
 彼の優しさ、まともさ、正しさは、なんの役にも立たないんだ。
 その現実の残酷さが、萌え。
 ベルモンド好きだ……うおお。

 ベルモンドのまともさを背景に、進んでいく罪びとたちの物語。
 正しいのはベルモンドなのに、間違っているガイやレイチェルを中心に物語は進むんだ。

 ガイはレイチェルを「見殺しにできない」と言う。それだけの理由で、彼女を連れて逃げる。
 恋愛だとは本人も認めていないし、そう語ることもない。

 それともあの、ぼそぼそぼそぼそ長々長々ゆってるモノローグ(録音)で、ナニか言ってたのか? あんまりモノローグばっかし続くんで、聴くことを放棄してたのが敗因?

 好意があったから助けたんだろう、連れて逃げたんだろう、だからといって、お気楽な恋だの愛だのじゃない。
 「死んだふり大作戦」をやるために、レイチェルが必要だった、「愛する女のためにのこのこ現れた」という理由付けのために利用した、そういうことだろう?

 死の間際、血まみれで「はじめて愛した……(ごふっ)(がくり。ご臨終です)」をやるためだよね。

 タイトルの台詞がフェイクって、すげえブラックだなヲイ。と、マジで思ったんですよ。

 ガイがあそこで死んでないことは、観客はみんなわかっている。
 嘘の演技だからこそ、やりすぎなほどクサイ台詞を吐いているんだと、思うよね?
 たった一度のタイトルの台詞が、嘘。クサイ芝居。
 って、さすがマサツカ!! こーゆー台詞使いさせたら天下一品よねー!
 と、思っていただけに。

 そのあと、再会したガイとレイチェルが「愛してる!」「うれしいっ」でハッピーエンド、ところかまわず音楽も照明も一気にチェンジ、ラヴラヴ・デュエットダンス、という『BOXMAN』仕様のラストにぼーぜん。

 えええ。いつの間に??
 てゆーかガイ、アンタ人格変わって……ゲフンゲフン。

 
 いやあ、ツッコミどころの多さも含めて、好きですこの作品(笑)。

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