思い出すのは、『銀の狼』。

 『はじめて愛した』は、「いつものマサツカ」であるがため、過去のマサツカ作品があっちこっちパッチワークされているので、どこにどう引っかかるかは、見ている人次第だろう。

 わたしは思い入れの深さから、『銀の狼』雪組再演版を思い出す。

 記憶喪失の目撃者を殺せず、手元に置く殺し屋の物語。

 ガイ@キムはそーやってレイチェル@あゆちゃんを手元に置き、よーするにそれは恋だった、ってオチだから、つまり同じシチュエーションのレイ@水しぇんは、シルバ@コム姫を愛してたってことでFAよね、という。
 『薔薇に降る雨』のジャスティン@タニがイヴェット@ウメに言う、「大丈夫?」という台詞で、『愛するには短すぎる』でフレッド@わたるくんがバーバラ@となみちゃんに言った「大丈夫?」の意味がわかったように!

 恥ずかしい人だわ、ハリーって!!(ナニを今さら)

 正塚せんせの恥ずかしさについてはもういいので(笑)、『はじ愛』のセンチメンタル中二病全開殺し屋ガイくんのこと。

 『はじめて愛した』は、『銀の狼』に似ている。つか、もうひとつの『銀の狼』……悪く言えば、自己模倣で過去作品を軽くなぞった『銀の狼』。
 『銀の狼』がふつーの小説なら、『はじめて愛した』は、ライトノベル。『銀の狼』が単館上映の映画ならば、『はじ愛』はアニメかアイドル主演映画。

 わたしは『銀の狼』を名作だと思っているけれど、あんな絶望的にイタイ物語は、そうそう出していいもんぢゃないとも思っている。タカラヅカには、もう少し希望とか救いがあるべきだ。
 だから、『銀の狼』をもっとライトにしたものが、『はじ愛』。
 主人公は男女にして、恋愛して、お笑い要素も含んで、最後は明るくハッピーエンド。

 でもって、ここが最重要、主人公が、かっこいい。

 ガイって、いい男だよね。

 こんなにストレートに「カッコイイ!」と思えるキムラさんに会えるとは、うれしい驚き。

 モノローグ多すぎだけど。
 そしてそのモノローグでぐだぐだ中二病なことをほざいていて、ウザいけど(笑)。オマエソレは14歳で卒業しとけ!な「生きるってナニ」「人間ってナニ」「トツベツな俺様のトクベツな悩み」「俺は病んでいるのかもしれない」で、「自分探し」っぷりがウザいけど(笑)。

 それでも、かっこいいの(笑)。←笑いマーク多すぎ。
 

 ガイがいつレイチェルを愛したのか、もう1回観たらわかるかな、と思ったけれど、結局わからなかった(笑)。

 そしてここでの問題は、いつ愛したのかではなく、そんなことはどーでもいい、と思わせてしまうことだろう。

 もういいや。劇的なフォーリンラヴでなくても、「このふたりならいいや」と思えるから。

 2幕最初の、カメラの場面。
 あっこ、泣けるんですけど。
 ガイが笑ってるもの、たぶんきっと、本来の彼の顔で。
 戦争さえなければ、父親さえ殺されなければ、彼はきっとこんな風に笑って写真を撮る、ふつーの若者だったんだ。

 こんな顔を見せるのだから、きっと彼は、レイチェルに心を許しているんだなと。

 そして、ラストの再会場面。
 だまされていた、利用されていた、とわかったレイチェルが取り乱して怒って、いろいろ言う。
 もし私が来なかったらどうするつもりだったの、てな言葉に。

「待つつもりだった」
 と、答えるガイ。

 愛の言葉も言ってないし、聞いてない。キスひとつしてない。
 それでも彼女の愛を利用し、操って。
 警察の前であそこまで本気で泣いてくれりゃあ、誰もガイの死を狂言だとは思わないだろう、見事な嘆きっぷりで。
 ソレで本来、彼女はお役ご免。確実に操っていたのは、そこまで。
 その後彼女がつらい記憶を全部忘れて、なかったことにして、人生やり直してしまうかもしれない、そこまでは操れない。

 それで、どうするつもりだった?

 待つつもりだった。
 自分から会いに行けば、彼女の愛を得られるとしても。そうはせず、彼女の気持ちに懸けた。

 レイチェルに「選択の自由」を与える。
 それがガイのけじめだったんだろう。そのため彼女を失うことになったとしても。罰として受け入れるつもりだったんだろう。

 ……勝手だけどね。正しいかどうかは、わからないけどね。
 それでも。

「待つつもりだった」
 と言う男に、胸がずきゅんと撃ち抜かれました(笑)。

 バカだけど、愛しい男だ。カッコイイ男だ。
 バカだけどね(笑)。

 約束の日にえんえんマリポーサの花を贈り続ける系の、バカで独りよがりで、女の気持ちがわかっていない迷惑な男。
 でもわたし、こーゆー男が好きだ。マリポーサの花を贈る男が好きだったように。
 ったく、マサツカはこーゆー男を「カッコイイ俺」と思って書いてるんだうなあ(笑)。でもってわたし、正塚せんせのそーゆーとこが好きよ(笑)。

 
 『銀の狼』の絶望感が大好きだけど、あれはある意味正塚せんせらしくない作品だと思うの。
 彼の書く物語の根底にあるのは、骨太な人間讃歌、人生讃歌だから。
 コム姫とまーちゃんという、闇や毒を多分に持った人たちが演じてしまったので、ラストの旅立ちの輝度が苦くなっていた。
 それだからこそ、大好きなんだけど。

 でも、まっすぐにハッピーエンドにたどりつく、ライト・バージョンの『銀の狼』も、あっていいと思う。
 似た設定、似た物語、でも、まったくの別物として。

 
 にしてもさ、よーするに主人公がカッコイイ、ってだけで、オールオッケー、他は全部吹き飛ばすんだなと、なんか久しぶりに納得した、タカラヅカというシステムを(笑)。

 ガイくんは好みです。
 いろんな面で。

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