地味に続いている、『はじめて愛した』感想、ジュリアーノ編の続き。

 ジュリアーノ@咲ちゃんは、レイチェル@あゆっちの弟を殺した。

 レイチェルはそれに絶望し、自殺まで追いつめられる。

 レイチェルも彼女の母@ヒメも、ジュリアーノを責めるばかりで、もちろんそれは当然なんだが、ほんとのとこ、ジュリアーノは弟を殺すつもりはなかったと思うんだ。
 弟がシスコンでもともとふたりがつきあうのに反対だった、というのはわたしの妄想だが(笑)、それ以後、ジュリアーノがギャングだとわかったあと、弟がふたりがつきあうのに反対していたのは物語からわかる。
 
 殺すつもりはなかった。
 ジュリアーノは基本、レイチェルの嫌がることはしたくないんだ。
 喜ばせたいと思っているんだ。好かれたいと思っているんだ。
 なのに、弟を殺すはずがない。
 母子家庭で育ち、家族を愛している、ふつーの娘なんだから。
 愛する女の子の、弟を殺したいはずがない。

 だけどジュリアーノは、キレやすい性格で。キレたら即暴力、即拳銃。ギャングの若様として、そーゆー環境で育ち。
 レイチェルと別れろと言う弟に、ついかっとなって……うっかり、殺しちゃった。
 そんなつもり、なかったのに。

 弟のことでなじられると、ジュリアーノはバツの悪い顔をする。最初からレイチェルを脅すための「見せしめ」として殺したのなら、そんな顔する必要ない。
 殺すつもりはなかった、彼女を泣かせるつもりはなかった。なのに、自分の落ち度でそんなことになってしまった。だから、痛いところを突かれた、という顔をする。そして、キレる。
 間違いを指摘されたら認めたり謝ったりするのではなく、威嚇したり暴れたりして誤魔化して来たんだね。
 誰も彼を叱ってくれなかった。謝り方を教えてくれなかった。
 だからジュリアーノは、暴れ続ける。
 大切なモノを傷つけて、自分も傷ついて。

 
 レイチェルママとジュリアーノの場面が、わざわざあることを考える。
 ヒメに役を付けるため・出番を作るため(笑)とかゆーことは、置いておいて。
 別にレイチェルの母親を出す必要はないんだ。出したとしても、ちらりとでいい。ジュリアーノが母親を人質にしているとわかる程度で。
 なのにわざわざ、しっかりと1場面使って、ふたりのやりとりを見せている。

 それによって、台詞だけで「オマエが逃げたら、母親がどうなるかわからないぞ」と言わせるのとは、違ったモノが見えてくる。

 ジュリアーノがギャングだとバレていなかった頃、彼は当たり前にレイチェルの家族ともつきあっていた。ママにもかわいがってもらっていた。
 ギャングだとバレた途端手のひらを返され、そのことにジュリアーノが傷つくほどには、仲良くやっていたんだろう。
 嫌いな相手、どーでもいい相手に「ギャングだからキライ」と言われても、ムカつきはしても、ショックは受けないだろう。生まれてからずーっと同じ台詞は表で裏で言われ続けていただろうし。
 ママに「ギャングだから」と否定され、ジュリアーノは「痛い」表情をする。一瞬、深く傷つく……すぐにアタマ悪くキレて吠えるけれど。

 ママはたしかに人質で、レイチェルを捕まえておくためのエサなんだうけど。
 スパイ物とかでよくある「母親の命が惜しかったら組織に協力しろ」ネタの場合、母親はどこか遠くに監禁されていて、顔も見られないのがデフォ。「母は元気なの? 会わせて、声を聞かせて!」「お前が命令に従えば会わせてやる」……で、大抵すでに人質は殺されてるのな。死んだという確証がない限り、命令に従うしかないから。
 大人ひとりを生かして見張り続けるのは大変だよ? そんな労力払うくらいなら、殺して「生きている」と思わせる方が遙かに楽。
 ママは地下牢に監禁されているわけじゃなく、ふつーにアパートかなんかで暮らしているわけでしょ。
 そんだけややこしいことを、お金と労力使ってやってるのは、ひとえにレイチェルのため。

 ジュリアーノは、レイチェル自身もだけど、彼女を形作った彼女の背景も愛していたんじゃないかな。

 やさしくてこわいママがいて、美人の娘がいて、生意気な弟がいて。
 「ただいま」と言って、帰る家。

 レイチェルがママにハグして、夕飯の支度を手伝う話をして。紹介されたジュリアーノは、場違い感に棒立ちしていて。椅子を勧められて、あわてて坐って。
 キッチンから聞こえる母と娘の会話や、豪華ではなくても大切に整えられたインテリアを眺めて、時折声を掛けられたら居住まいを正して。
 帰ってきた弟にねめつけられて、睨み返して。こいつ気にいらねえ!と双方思って(笑)。
 家族みんなで囲む食卓、他愛ない日常の会話。
 レイチェルがレイチェルとして育ってきた場所。彼女が笑う場所。

 母親を殺すことだって出来た。でもあえて生かした。家や金を与え、ナニ不自由ない生活をさせた。
 弟を殺すつもりなんかなかった。いろいろとうるさいヤツだったけれど、殺したいとは思ってなかった。あんなに突っかかってこなけりゃ、ナニもしなかったんだ。
 ただ、レイチェルが欲しかった。彼女に、喜んで欲しかった。笑って欲しかった。愛して欲しかった。

 子どもの癇癪まんまにレイチェルを探し、探させ、ガイ@キムの家でよーやくレイチェルを見つけたときの、うれしそうな顔。

 ただ、会いたかったんだ。会えてうれしいんだ。そんな顔。

 
 ジュリアーノはほんとにどーしよーもないアホボンだけど。
 こんな男に人生費やすのは無駄でしかないと思うけど。

 「ギャングに生まれたのはオレのせいじゃない」「だからオレは悪くない」「オレはナニもしなくていい」と、なにひとつ現状を変える努力はせずに、責任転嫁して暴力をふるうだけ。
 まともな人間関係を一切築けなかったから、いちばんの部下にも「清々したよ」と見捨てられる。
 それがとーぜんの、どーしよーもない男だけど。

 ジュリアーノのどーしよーもなさの中に、いたいけな子どもの顔が見え隠れするから、切ない。

 そんなふうにしか育つことが出来なかった、いびつな子どもの悲しさが。哀れさが。

 レイチェルと結婚して、「家族」を作りたかったよね。
 「ただいま」と言って、帰りたかったよね。

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