なんか盛り上がらないなあ、コレ……と、しょんぼり気分で、それでも舞台上の彼らのがんばりと一生懸命さには拳を握って見守っていた、新人公演『ロミオとジュリエット』

 ひとり、ものすごーく愉快な人がいた。

 ベンヴォーリオ@がおりくん。

 すらりとスタイルのいいベン様で、本役さんとのヴィジュアルの差にくらくらしながら(ちびっこで悪かったな、うわああぁぁぁん!なキモチ・笑)、本公演でのモンタギューの男も含め、がおりくんキレイになったなあ、と眺めていたわけなんですが。

 途中からこの人、トバしはじめるの。

 「狂気の沙汰」リプライズあたりからぐわーんとアクセル入った。
 がおりくんがダンサーなのは周知のこと。翻弄される困惑ダンスが美しい。
 わたしが彼を認識したのは、実はダンスではなく歌でなので、わたしにとっては歌ウマさんくくり、ベン様の歌についてもなんの心配もしてなかった……が、思ってたよりずっとうまい!! ファルセットもOK!
 そしてさらに、カーテン前ソロ「どうやって伝えよう」が。

 面白かった。

 いやごめん、うまい、うまいんだ。期待以上にうまかった、見事に歌った。
 でもそれ以上に、面白かった。

 舞台ってさ、ナマってさ、うまいヘタだけで決まるものではないんだ。
 うまくても興味を持てないものはある。最低限の技術は必要だよ、でもその上でテストの点数ではないナニかが重要。

 このベンさんは熱血漢で、あちらこちらで魂のアツさを垣間見せていた。
 いかにもコスチュームプレイなロン毛は黒+金で、いやソコは本役さん踏襲しなくても(笑)な色合い、されどぶわっと大きくなびかしているところは、ライオン風でわかりやすい。背が高いと髪のボリューム多めでもいいんだよなあ。
 きれいで派手でスタイル良しの、アツいハートのロッカーなベンさん。

 彼がそのアツいハートを爆発させ、魂のシャウトをするのが、「どうやって伝えよう」だ、面白くないはずがナイ!

 いやもお、顔芸すごいから。
 「狂気の沙汰」からすでに。身体表現も大きいけど、表情筋の動きも大きい。

 技術に増して、「ナニか面白い」というものは、観客に伝わる、動かす。
 がおりのソロで、客席が動くのがわかった。
 舞台を自分のモノにする、「主役」になる。
 今は新人公演だから、他のみんながいろいろと足りていないし真面目な固さに満ちあふれた舞台だ、本公演で同じことができるかどうかは別だが、今この舞台、この公演で一気に劇場の空気を動かしたのは、間違いなくこのがおりベンさんだと思う。

 ソロが終わったときの、拍手の大きさ。熱さ。
 この公演でいちばんだった。

 やっぱナマ舞台って面白い! 観に来て良かった! と思わせてくれる。こーゆー空気がぶわっと動く瞬間って、そこにいてすごく気持ちいいんだもの。感動するんだもの。

 がおりベンさんの面白さは、なんつーんだ、蘭寿さんがベンヴォーリオを演じたらこんな感じかも、と思わせてくれるような面白さだった。
 らんとむもすごく「面白い」スターさんで、若いときからとにかく目を引く……好き嫌い以前に衆目を集める「面白さ」のある人だった。
 やっぱスターさんは面白くなくっちゃねー。なんかわかんないけど見てしまう、目が離せない、そーゆー味のある人っていいわあ。
 そこからさらに、美しさや格好良さ、オトメをくらくらさせる色気なんかを開花させていけば鉄板ですよ。

 がおりくんというと、うまいけれど地味めな人という印象、舞台を締めてくれる貴重な人という印象だったんだけど、どんどんスキルを磨いて存在感を増しているなあ。
 いやはや、すごく楽しかった。拍手!
 

 構成の悪さで足を引っ張りまくられていた気の毒なこの公演で、ベンさん大爆発まできてよーやく劇場内の空気が動き、暖まった。
 ……って、もうラストやん!(笑)

 次に面白かったのが、ジュリエット@あゆっちだ。

 かわいい、というのはあゆちゃんの武器。とにかくかわいいジュリエット。
 なんだけどやっぱり彼女はまぎれもなく「おねえさん」だった。
 本役のジュリエットより上級生だし、コムちゃん時代から抜擢を受けたきたスターだ、丸顔とロリっぽい持ち味で今まで忘れていたけれど、すでにもうこんなにも「大人」になっていたのかと驚かされた。
 ロミオとの実の年齢差というかキャリア差があちこちに見える。
 咲ちゃんロミオも子どもっぽすぎるわけではないけど、やっぱり幼い。それに比べ、ジュリエットは大人の部分が見えた……役作りではなく。

 ロミオとジュリエットが何故恋に落ちたのかわかんない、という致命的な構成の悪さ。なにしろ、主役とヒロインが観客に個別認識できたのが「天使の歌が聞こえる」を歌い出すときからで、そのとき彼らはすでに恋に落ちていたので、その前がわからないという。
 そんなひどい状態で、それでもよくキモチをつないで、演じていたと思う。

 かわいいし、よくやってるし、歌はまあご愛敬っつーことで、ぜんぜんイイんじゃないの、ってあたりの感じでまったり愛でていたんだが。

 ラストの霊廟。
 早とちりロミオが自殺しちゃったあと、ナニも知らずに目覚めたジュリエット。
 ロミオが死んでいるとわかった途端。

 あ、狂った。

 ちょ、ジュリエット、狂っちゃったよ??!

 客席から心の手を伸ばしたよ、ちょっと待て、と(笑)。
 愛ゆえになんの迷いもなく死を選ぶ、というより、狂気の域だからこそ笑いながら自分の心臓にナイフを突き立てるんだと。

 あゆっち、ぶっトバしてるなああ!!
 ジュリエットの狂気にぞわっとした。

 そうだよな、自分のせいで愛する人が死んじゃったんだもんな、心が壊れないはずないよな。
 狂った瞳で「ふたりのパラダイス」を歌うジュリエットが、めちゃくちゃ素敵だった、美しかった。……切なかった。

 このジュリエット、キムロミオの相手役で見てみてぇ!!と、心底思った。

 
 がおりは研7、あゆっちは研6。
 若者の成長が遅くなった現代、やはりこれくらいの年輪を重ねてはじめて花開くモノはあると思う。主役独占で作られるのではなく、いろんな役を経て力を溜めて経験を積んで、それゆえに輝くモノが。
 若ければそれでイイっつーのは、年配男性の感覚なのかなあ。今の時代、入団間もない下級生はほんとに幼いよ、姿もタカラヅカスキルも。歌やダンスという基礎技術は昔の人よりしっかりしてるんだろうけれど、タカラヅカスターとして「見せる」力は昭和時代とまったくチガウ。
 幼いスターに機会を与えて鍛えるのは大切だけど、偏執しすぎるのはどうかと思う。

 目を離せない、惹きつけられる「面白い!」と膝を打ちたくなるよーなスターを、舞台を、タカラヅカには作り続けて欲しい。

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