舞台の上には、死@咲ちゃんがいる。
 タカラヅカ版『ロミオとジュリエット』には、象徴的に死と愛@せしるが踊っている。
 だけど。

 それとは別に、ほんとうの「死」は、マーキューシオではないのか?

 マーキューシオ@ちぎはトラブルメーカー。悲劇の発端は、いつだって彼だ。
 仮面舞踏会へ行こうと誘い、それによってロミオ@キムとジュリエットが出会ってしまう。
 ティボルト@ヲヅキに殺されることで、ロミオが復讐し、ヴェローナを追放になる。

 いつだって、きっかけはマーキューシオ。

 とまあ、これは周知のことで今さら確認することでもない。

 それとは別の部分。

 ストーリーのキーとなる出来事として、まず「ティボルトがマーキューシオを殺害」というのがある。これは原作にある通り。
 でもこのヅカ版ではティボルトはジュリエットを愛していて、彼女がロミオに奪われたためロミオに対し殺意を持った、という流れになっている。
 おかしいじゃん。ティボルトが殺そうとしたのはロミオ、なのに何故マーキューシオが殺される?
 「決闘」場面ではロミオもいるのに、積極的に闘っているのはティボとマーさんだ。ティボはマーさんを挑発するのに忙しくてロミオなんか眼中にない感じ。ロミオを羽交い締めにしてマーさん煽るとか、そんなことしてるヒマがあったらとっととロミオ殺せよっていう。

 ティボルトのロミオへの憎しみは、ぶっちゃけモンタギュー関係ないんだよね。
 ふたつの家が長年争っていて、それによって若者たちが殺し合うことになった……つーストーリーの大筋とは無関係。
 ただの失恋逆ギレだもん。
 相手がロミオでなくても、ティボルトは殺意を持ったと思う。それこそパリス@ひろみでも。政略結婚であてがわれたのではなく、ジュリエット自身が心から愛する男と結ばれる、てなことになれば、ティボルトはやはりキレていただろう。

 ティボルトはそこまで、追いつめられていた。
 ロミオが原因ではなく、代々続く憎しみの連鎖に囚われ歪んでいく自分自身に。ジュリエットを救いとしていた、彼女を愛することでなんとか現実と折り合いをつけていた……のだから、最後の砦を失ったときに彼は破滅するしかなかった。

 では、ティボルトを狂わせた「憎しみ」とはなにか。
 ろくに口をきいたこともない、話に聞くだけのヴァーチャルな存在に対し憎しみを発酵させていたんだろうか?
 もちろん「反モンタギュー教育」を生まれる前からほどこされ、洗脳されて育ったんだから、嫌悪し憎んでいるのだろうけど。
 話で聞くだけでなく、日常の中で実際にモンタギューを憎む、積み重ねがあったんじゃないか。
 体験に勝る教育はないですよ。
 「悪い奴らだ」とただ聞かされるより、実際にそいつらに悪いことをされたら、実感を伴って納得するじゃないですか、「本当に、悪い奴らだ」と。

 ティボルトを日々苛つかせ、憎しみを煽っていたのは、マーキューシオじゃないの?

 ええ、ティボルトに感情移入して見ると、マーキューシオがちょうウザいんだわ。ムカつくんだわ(笑)。
 むっきーっ、て感じでアタマにくる。だからケンカになることを、納得してしまう。

 ドラゴンをやっつけるヒーローを夢見る、ふつーの男の子だったティボルトを、歪ませてしまった憎しみの直接的原因は、マーキューシオじゃないのか。

 ムカつくヤツがいる、だから殴る。……ふつーはここで大人が止める、叱る。ムカついたからといって暴力はいけません、人はひとりずつチガウのだから、あなたがムカつくからといって相手が悪いとは限りません、他人を理解し許し合いましょう。
 しかしモンタギューとキャピュレットの確執ゆえに、大人は誰も止めない、どころか煽る。ムカついたのは正しい、だってアナタは正義、相手は悪、悪を攻撃するのは正しい、さあ暴力を!!
 大人たちの洗脳によって、少年は戦士となる。正義の名の下に暴力を行使する、歪んだ戦士に。

 それってチガウんじゃないかな、と聡明なティボルトが首を傾げることがあっても、目の前にムカつくマーキューシオがいて、わんわん吠えている。うざいから思考をやめて、とりあえず殴る。
 その繰り返し。
 そんな習慣づけで成長したティボルトはもう、自分を止めることが出来ない。ムカついたら殴る。即暴力、即ナイフ。
 おかしい、と思っても止められない。マーキューシオを見たら攻撃せずにはいられない。

 ロミオへの殺意は、ただの記号でしかない。
 ロミオでなくてもいいのだから。
 それがパリスだったとして、パリスを殺すということは、ティボルトはもうすべてを捨て、愛するジュリエットさえ捨て、死へ向かって走り出したということ。
 「本当の俺じゃない」と苦しんでいた彼は、「偽りの世界」を破壊し尽くし、滅びようとした。

 だからこそ。

 ティボルトの刃は、マーキューシオに向かう。

 ティボルトを病ませていたのは、モンタギューへの憎しみ。大人たちの教育を基盤に、実体験を重ねて燃え上がった。
 その現実の憎しみ相手……マーキューシオ。

 ティボルトを壊した、憎しみの権化。憎しみの象徴。

 だから仇のロミオを前にしても、ティボルトはロミオなんか眼中になく、マーキューシオを挑発する。マーキューシオと闘う。

 すべての不幸は、マーキューシオからはじまった。
 仮面舞踏会にロミオを誘ったのも、ロミオに殺人をさせたのも。
 だがそれ以前に、ティボルトの人格を壊すほどの憎しみを与え続けた。なにかしら特別なことではなく、日々の蔑みや嘲笑、暴力で。

 でもそれは、マーキューシオにとっても同じ。
 ほんとのところ、マーさんもまた憎しみに支配された自分たちに疑問は持っている。
 自分が死ぬのはティボルトに刺されたからというよりも、両家の憎しみゆえであると。
 死の間際に彼は本心を吐露する。
 憎しみに踊らされる現実を受け入れ、それゆえある意味道化を演じていたことを。
 それらを打破するために、ロミオにジュリエットを愛し抜けと告げる。

 ティボルトにとってのマーキューシオ、マーキューシオにとってのティボルトは、同じだった。
 大人たちの洗脳と、等身大の現実としての憎しみ相手。
 死@咲ちゃんにふたりそろって翻弄されて、ロミオの前に現れるように。等しいふたり。

 ただマーキューシオにはロミオとベンヴォーリオ@まっつがおり、ティボルトほど追いつめられていなかった。友だち偉大。
 
 てことで。
 ティボとマーさんが同じだったとしても、悲劇の口火を切るのはぼっち星人のティボ。
 ティボを苛つかせるのはマーさん。ロミオは言い訳。

 すべての悲劇は、マーキューシオから。
 マーさんこそが、「死」。

 彼こそが、ヴェローナに巣くう「憎しみ」の具現。

 マーキューシオ自身にはそんなつもりも悪意もない。
 彼はふつーにかわいい、ありがちな不良少年だ。彼はただ自分の人生を、彼らしく生きている。

 でもそれゆえに、それこそが、「死」。
 悪意なんか、自覚なんか、あるわけないよ、「死」に。

 ただ、そこに「在る」ものだもの。

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