『ロミオとジュリエット』、まだ続いている、こあらった目線の見どころベンヴォーリオ@まっつ。

 「どうやって伝えよう」は好きな歌。
 ご贔屓が歌っているから以前、初演を観たときから大好きだった。でもまっつが歌ってなお好きになった。

 「昨日までの俺たち」というフレーズが好き過ぎて。
 わたしは「有限の楽園」に弱い。いずれ失われることがわかっている、壊れることがわかっている、美しいモノ。「昨日までの俺たちは世界治める王だった」と切なく美しいメロディラインで、有限の楽園が歌われる。過去形で。失われ、もう手に入らないモノとして。

 無垢な少年だった。
 汚れることなんて知らなかった。
 失うモノがあるなんて知らなかった。

 「今日の俺たちは誰も生き返らせることは出来ない」「誰ひとり」「ジュリエットさえ」「マーキューシオさえ」

 ジュリエットは話の流れからわかるけど。
 そのあとに出てくる「マーキューシオ」。

 ベンヴォーリオはいったい何回、マーキューシオの名を呼んだのだろうか。

 あれほど、カストルとポルックスのよーにいつも一緒にいて。触れあって、じゃれあって。
 いつもいつも2個イチで行動してきた幼なじみの親友。

 彼の命が失われ、ひとりになってしまったあと。
 ベン様は、何度その名を呼んだんだろう。

 隣にいるのが当たり前だから、自然に「なあ、マーキューシオ」と呼びかけて、そこに誰もいないことを知る。
 もう永久に。
 
 呼びかけて、失ったことを再確認し。
 何度も、何度も。
 習慣なんてすぐには改まらない。
 伸ばした手が空を切る、呼びかけた声が宙に浮く。

 そうやって、喪失を繰り返す。

 だから。
 だからあそこで、「マーキューシオさえ」と歌う。その名が出る。

 あのとき伸ばした腕が、彼に届いていたら。
 そうしたら、彼は死なずに済んだのに。
 悔恨が燻り、「マーキューシオ」の名はいつもベンヴォーリオのなかにある。
 だからあそこで、「マーキューシオさえ」と歌う。その名が出る。

 いったい何回彼を恋い、彼の名を呼び、そして……そして、自分を責めたんだろう。

 「どうやって伝えよう」には、過去と現在が歌われ、未来へ踏み出す決意で終わる。
 現在苦しみ続けているベンヴォーリオだからこそ、ロミオ@キムに伝えるのは自分の役目だと覚悟した。
 マーキューシオを救えなかったことを悔いている彼は、ジュリエットを救えなかったことも悔いている。どちらもベン様に罪はないけれど、それでも彼は悔いている。自分の力が足りなかったせいだと。

 
 ところでロレンス神父@にわさんと、ベンヴォーリオは仲が良くなかったらしい。
 神父はベンヴォーリオを「粗忽者」と言い、マーキューシオ@ちぎを「女ったらし」と言っていた。
 現実にはまったく合っていない評価。
 つまり神父はベンヴォーリオのこともマーキューシオのことも、よく知らなかった。
 ロミオは子どもの頃からなついてなにかとそばにいたんだろうけど、不良少年のベンマーコンビは神父には寄りつかなかった。まあ当然だろう、顔を見ればお説教されたろうし。
 それで神父は見当違いのイメージをふたりに持ったまま、それを変だと気付くこともないくらい、遠い存在。

 大公閣下@しゅうくんがロミオの行方を尋ねるときにベンヴォーリオを見たり、ラストシーンでベンヴォーリオをいたわるように目線を合わせたりしていることから、「ロミオの親友はベンヴォーリオ」というのは、中立の立場の人間でも知っていそうなもんだが。
 神父はそのことを失念していたらしい。思い出しもしないくらい、神父とベン様に接点がなかったんだろう。

 「ジュリエット死んだふり大作戦」をやるなら、神父様はベンヴォーリオにそのことを告げるべきだろう。親友なんだから、恋人が自殺したら知らせに行くぐらい、とーぜんじゃないか。
 若くて元気にケンカ上等な不良少年が、使いに出したお坊さんより足が速いのだってとーぜんのことだし!

 これらのことから想像すると、ベン様はやっぱ大公派だったんだなと。
 大公閣下と神父様、共に中立で両家の争いを嘆いている有識者。神父様から存在を忘れられているベン様は、殺人事件のあと大公閣下のもとにいたんじゃないかな。モンタギュー家で夫人の話し相手になったりしている時間をのぞけば。
 両家の争いを収めたいと。なんとか出来ないかと。
 ベンヴォーリオ不在の間に、がおりを中心にモンタギューの若者たちはキャピュレットへの報復をと団結している。ベン様出遅れてるもん、どこかモンタギューとは別のところにいたんだよ。

 ベン様がもー少し信心深くて、ちゃんと礼拝に行く人ならよかったのにね。
 そしたら神父様と接点あったかもしんないのに。マーさんとふたりして、いつも逃げ回ってたんだろうな。

 マントヴァに着いたベン様は、すげーあっさりロミオに発見される。
 ロミオのうれしそーな笑顔ったら。

 真っ先にジュリエットのことを尋ねるロミオは、疑ってもいない。ベンヴォーリオが、自分の味方だと。

 ベンヴォーリオが自分のために、自分の恋人の伝言を預かってきたとか様子を伝えるために来たとか。
 ねえ、ここまで「味方」なのに、どーして神父はベン様がロミオ側って、味方だって知らなかったのかなあ。
 ロミオへの使者は、親友にするべきだろー、どう考えても。

 んで、あんだけ長々歌って決意して、やってきたわりにロミオへ伝える場面が「短っ」と拍子抜けするんだが、わたしだけかな。
 もう少しちゃんと会話しろよお前らってゆーか、詳しく説明必要なんじゃないの?
 ベン様が言った言葉って「君に会いに」「ジュリエットは亡くなったよ。自ら毒を飲んで」だけですよ?
 そんだけで納得するロミオってば……。

 いやその、ほんとにロミオはベン様に絶大な信頼を置いてるんですね。彼が自分の味方であり、自分を害するはずがない、裏切るはずがないという前提だからこそ、信じられないことを言われても、なんの証拠もないまま全面的に信じてしまう。

 ここのロミオの「嘘だ」という台詞が好きだな。
 ここでスイッチ入るんだよな、キム。正直すげーこわい(笑)。
 そりゃベン様も、視線合わせられなくなりますわ……目の前で親友が壊れるんだもんよ。自分が、壊したんだもんよ。
 ただジュリエットの死を伝える、他人事のメッセンジャーではなく、ジュリエットを守れなかったことを悔いている、自分の責任だと思っている……だからこそ、親友を目の前で壊している、狂わせている、自覚ゆえに、目を合わせられない。

 これはベンヴォーリオの、懺悔でもあるんだな。
 ロミオという、彼の中の神に、罪を告げる。
 ベン様にとってのロミオは天使、美しいモノ、無垢なモノ、少年時代、青春時代の象徴。
 それを自らの罪で失う……。

 
 続く。

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