思うんだけど。
 もしもいつかこの宝塚大劇場が閉鎖され、廃墟となったときには。

 時間関係なく、さまざまな音がするんだろうな。

 拍手や歓声、笑い声。オーケストラの音。
 建物に染みついた音が、するんだと思う。誰もいなくても。

 『クーロンズゲート』というゲームにあるんだ。
 天堂劇場という、廃墟になってしまった劇場を歩くマップが。
 巨大な劇場からは、どこからともなく歓声や拍手の音が聞こえてくる。遠く、近く。
 劇場はもう、死んでしまったのに。
 スターも観客も、誰もいないのに。
 廃墟の中に、かつての華やかな記憶だけが置き去りにされ、風化している。

 劇場はただの建物とか入れ物とか、そんな次元を超えた「心」の積もった場所だと思う。

 たくさんの人が、人生のあちこちでこの光を、そして歓声を聴くんだろう。
 なにもないところで、いつか、どこかで。

 
 『愛のプレリュード』『Le Paradis!!』千秋楽は、抽選にはずれちゃったのでバウホール中継観劇。
 バウで中継を観たことは今まで何度もあったけれど、これほど「遠い」と思ったこともない。
 わたしの体調やらモチベーションの問題かもしれないが、なんかすごく舞台が遠く感じられ、集中できなかった。
 いやその、客入りのアレさもあるかもしんないけどさあ。バウ中継鑑賞券、売り切れてないんだもんよ。
 中継がはじまっても場内はしーんとしたままで、拍手もナニもないし。

 スクリーンでしかなく、出演者たちはそこにいない。
 だから拍手する意味はない。つか、ぶっちゃけ無意味。無意味なことをする必要はない、無駄を省いてエコ上等。
 それはわかっているんだけど、それでもこんだけしーんとしているのは味気ない。

 そんな状態だったんだけどさあ。

 『EXCITER!!』ってすごいね!
 手拍子起こるんだもんよ。
 みんな染みついてる?(笑) この曲が流れたら手が動くの。

 スクリーン相手に拍手しても意味なくね?なんて、吹っ飛んでくの。
 空気が動くの、温度が動くの。

 一旦拍手OKだってわかったら、拍手する人はするよーになるし。手拍子するし。
 出演者に聞こえるかどうかは関係ない、今、心が動いたから、手が動くんだもの。
 感動を、感謝を、伝える行動が手を打ち鳴らすことだから、だからするの、理屈じゃないの。

 退団者の挨拶に、無意味なのに拍手するんだよ。
 せずには、いられないんだよ。

 
 中継のいいところは、それぞれの表情をアップで見られること。
 ナマではとても見えない大きさで。
 みんないい顔で笑っていて、切ないけれどうれしい。愛しい。

 繰り返されるカーテンコールで、まとぶんがいつものよーにぐだぐだになっていくのも、おかしいやらかわいいやら。
 てゆーかしゅん様、ナチュラルだなあ……。

 
 しゅん様を個別認識したのは、オサコン『I got music』だった。「様」までが渾名、若手ダンサーだと聞いた。なんで様まで渾名なのか、未だもってわからないまま。オサコンのときはよく知らないから、「あんなに下級生なのに『様』付けで呼ばれるってことは、ゴーマンキャラなのかしら?」と思った。や、そーゆーキャラ立ちはアリだと思う、芸能人なんだから。
 でもしゅん様はどっちかっつーとヘタレで、泣き虫さっちゃんで、舞台のオトコマエさに反してやたらかわゆくて。
 いつぞやのバウ楽で、泣いてるしゅん様をよっちが姫抱っこしてたよなあ。ナニやってんだ88期(笑)。
 骨太な舞台姿、ダンサーなのに歌ウマで、武人を演じるともれなく体育会系ホモになる芸風も愉快だった。
 もっともっと、見ていたかった。

 じつはかなりショックな、はるちゃん退団。
 転向したてのころはとまどいばかりだったけど、途中からかなり好きな娘役さんになっていた。
 『EXCITER!!』のドリームガールズは、はるちゃんロックオン率がいちばん高かった。いちかもくまちゃんも大好きだけど、はるちゃんの「いい女」ぶりは、わたしを沸き立たせる。
 あの銀スパンドレスで両手を振り上げてワイルドに歌い上げるところなんか、大好物過ぎて!!
 『相棒』もそうだったし、はるちゃんの「女子」を全面に出したオンナっぷりが、わたしの好みど真ん中らしい。
 反対に、ハバナでまっつに寄り添っているところとか、『コード・ヒーロー』の薄幸系美女とかは、好みからはずれる……(笑)。
 肉食系を演じてくれたとき、すっげーときめくんだ。
 
 カテコなどで話しているはるちゃんは、かなりこう、ぽややんとしたお嬢さんのようで。あんなにくっきり派手な美貌なのに、ナニあのパステル系のふわふわしたひと(笑)。
 中の人と別人度が高い役の方が、さらに彼女のポテンシャルを解放したのかなとか思う……ああ惜しいよ、舞台にいるべきだよ!! 手足の長さだけぢゃないよ、実ははるちゃんナニ気に胸も大きいし!(え) すげー舞台映えするひとなのにー!

 眉月王子は雪組から見ているから。
 わたしが彼を個別認識したのは、94年『雪之丞変化』新公あたりか。素顔が美人なのに、舞台化粧がイマイチで惜しいと思っていた。
 んでなにより驚いたのが、96年3月27日「日刊スポーツ」の高校野球ニュースに、何故かカラーでばーんと載っていたんだ。「“勝利の女神”が微笑んだ」と見出し付きで、野球帽にメガネ姿、スタンドでメガホン振ってる……。歌劇団の正式なお仕事ではなくプライベートを掲載されたよーな印象。
 雪組では無名に近い下級生なのに、なんなんだこの扱いは?!と、びびった(笑)。後にも先にも、こんな載り方をした子はいなかったぞっと。(あんまりびっくりしたのでスクラップしてある・笑)
 そのあと組替えがあり、路線スターになるのかな……と思ったら、そうでもなかった。美人だけど、芝居がアレ過ぎたからかなあ……。
 それでもじっくり時間を掛けて、いい舞台人になっていたよね。いついかなるときも、美形で「ジェンヌ」で「男役」で、夢を壊さない人だった。その名の通り、「王子」だった。
 千秋楽の入りも白尽くめのマント姿で、王子様過ぎて震撼した(笑)。

 めおくんとあまちゃきは、新公主演やバウ主演経験のある路線スターさん。その卒業が惜しい人たちなのは、前にも語った通り、つかナニを言おうと足りないくらい。
 学年と共に個性が出てきて、これからが楽しみな人たちだった。

 みらいくんと鳳龍くんは、まだ大階段も降りられない学年なんだ……。
 名前を呼ばれて脇から現れる、そのことに切なさが増す。
 まだ海とも山とも決まらない学年だろうに、もう旅立ってしまうのか。

 彼らの最後の挨拶を、スクリーンならではのアップで眺めた。
 届かないけど、拍手した。

 
 サヨナラパレードまで見送って。
 袴姿のまとぶんの美しさ……と、サービスの良さ(笑)。よく動くし喋るし、肉声いっぱい聞けたよありがとう。

 まとぶんの車を見送って。
 花の道まで来て、改めて劇場を振り返った。

 不思議なところだ、宝塚大劇場。
 明かりの消えた建物は夜に沈み、だけどその手前には鈴なりの人、詰めかけたファン、交通整理の警官、係員、会スタッフ。
 何十回、何百回繰り返された出会いと別れ。

 これからも、続いて欲しい。
 たくさん泣くけれど、泣いて別れを惜しむほどの、愛する人たちに出会いたい。

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