『ロミオとジュリエット』ムラ公演にて、やたらとノリノリだったある日のベンヴォーリオ@まっつ。
 敵と裏切りにはひたすら硬質にこわい人で、仲間に対してはかわいこちゃん全開。

 で、そんなテンションのままマーキューシオ@ちぎを失うと、どうなるのか。

 喪失が、すごいことになっていた。

 臨終の際のマーさんが「愛する友よ」と、ベン様の方へ手を伸ばす。その手をがっしり握りしめる。
 マーさんの手を握りしめたまま最後の言葉を聞く……のは、いつもと同じっちゅーか、「手を握るバージョン」でよく見る光景。でもこの日は。

 一度勢いだけで握った手を、握り直した。
 単に角度が悪くて持ちにくかったとかいう、身も蓋もない理由があるのかどうかはわからないが、わざわざ再度ぎゅっと握った。
 そして、マーさんを見つめる。
 ロミオ@キムにばかり必死で話しかけ、歌いかけるマーキューシオを、ずっとずっとひたすら見つめる。手を、握ったまま。
 そうやってマーさんだけを見ていたのに。
 この日のベンヴォーリオは、マーキューシオが事切れたのを彼が目を閉じたとか首をがくりと折ったとかいうことで知ったのではない。

 自分の手を握りしめたマーキューシオの手が、すべり落ちていくことで、彼の死を知ったようだ。

 しっかり握りしめていた手。
 ただ握っているだけに留まらず、ときには臨終の苦しみゆえ強い力が加わっていたんだろう。
 その手から力が抜け、すべり落ちていく。
 それは、マーキューシオの命が、魂が、抜け落ちていく、そのままの姿で。

 ロミオをはじめ、その場の全員がマーキューシオの顔を見て嘆き悲しみ、声を上げている中、ベンヴォーリオひとりが違うところを見ている。
 仲間たちの輪の中で、ただひとり。

 自分の手のひらを見つめ、放心している。

 彼は多分、その中に握っていたんだ。愛する親友の命を。
 人間の手のひらは、包み込むことが出来る。獣とは違い、他者を包み、守ることが出来る。
 ずっとずっと当たり前に、マーキューシオの手を、腕を、身体を触ってきた手。
 その命に触れてきた手。

 「憎しみ」でも「綺麗は汚い」でも触れていた。抱き合っていた。
 いちばん、近くにいた。いちばん、愛していた。

 変わることなどないと信じ、親友を抱きしめてきた手を、見つめる。
 最期の瞬間、マーキューシオの手は、命は、たしかにベンヴォーリオの手の中にあって。
 どこへも行かせないと、指を絡めて握りしめて。
 なのに。

 その手は、すべり落ちた。

 ベンヴォーリオの手から。

 マーキューシオの命が、魂が、消えた。

 たしかに握りしめていた、そこにあったものを見つめて、ベン様は呆然としている。そこにあった……自分が握りしめていたものを、見つめて。

 周りが動いている中、叫んでいる中、ひとりだけ動かない姿。
 ひとりだけ、マーさんの亡骸すら見ずに、自分の手のひらを見つめている姿。

 どんだけ。
 どんだけの悲しみよソレ。

 こわれる。
 あの人、壊れちゃうよ。

 も、心配で心配で。他の人どころぢゃない、オペラでベン様ガン見。ちなみにSS、4列目、この距離でオペラ使いますかアンタ、てな。周り誰もオペラ使ってないのにー。

 ロミオの歌声に合わせてベン様も泣き声を上げるんだが、ここでも彼はマーさんを見ず。
 自分の手を見たまま、天を仰いで慟哭して。

 みんながマーキューシオを見て嘆いている、その群れの中でただひとり、ちがうところを見ている、ベンヴォーリオ。
 その壊れ方の激しさ、こわさに、震撼した。

 そのあと、ロミオ乱心ゆえあわてて立ち上がるけど、それがなかったら立てなかったんじゃないかな。放心しきっていて。
 立ったはいいけど、結局ロミオを止められず、ティボルト@ヲヅキ殺害を目の当たりにして。
 ベン様、ナニか切れちゃった模様。
 仲間たちに声掛けられても、反応しないし。ぼうっと突っ立ってるベン様に、一方的に女の子がなんか言ってる図。女の子が腕を取るんだけど、ベン様反応せず、女の子があきらめて放したベン様の腕が、彼の胴に当たって跳ねる。
 唯一、モンタギュー夫人@ゆめみさんに「なにがあったの?!」って詰め寄られたときだけ、弱々しく話している様子。夫人にはよく躾られてるんだろうな、詰問されたら答えます的な。(例・「ロミオを探してきてちょうだい」「はーい、仰せの通りに」)
 でもほんとのとこ、思考できる状態ではないようで。
 ロミオを守るために右往左往、「僕たちは犠牲者だ」とか歌ってみたりするのも、思考手放してる。どこか呆然としたまま、本能だけで動いてる。ロミオを守らなきゃ、って。
 幼児が泣きながら大人の胸をぽかぽか殴る、あの感じというか。自分がなにを言ってなにをして、それがなんの意味があるのかわかっていない、おぼえていないような。
 ロミオ追放決定には崩壊して、(涙の有無ではなく)すごい泣き顔だし。

 「狂気の沙汰」は無力感半端ナイ。
 登場したときからすでに虚無入ってる。止められると思って止めているのではなく、絶対無理だとわかってすがっている。その、絶望。
 それでもよく、立ち上がると思った。
 途中がっくりと膝を折って。ほんとにもう立てないんじゃないかこの人、と思った。それでも「やめろ」って立ち上がるんだけどね。

 で、目玉のソロナンバー「どうやって伝えよう」とその直後のロミオへの伝言は、ここでは省略、また別欄で(笑)。

 ラストの霊廟シーン。
 その前の場面でけっこう持ち直していた、落ち着いていたテンションだったが、ロミオの姿を実際に目にしちゃうとスイッチ入っちゃったみたいで。
 ぺたんと坐り込んだまま、人形のようになっていた。
 ロミオとジュリエットが横たわる石壇の縁にたどりついたときには、そのまま泣き崩れちゃって、顔上げないし。
 縁の端に両手を残したまま、顔だけ沈んでるの。
 縁に残った指の、力の入り具合ったら。かきむしるように、指を立てて。すがりつくように。

 そのあと「罪びと」の感動的な大合唱シーンになるんだけど、ベン様群衆のセンターでなんかぶちキレてて。
 みなさんイイ笑顔で希望を込めて歌う場面、実際ベン様の声が朗々と響いてるんだけど……しかしベン様あーた、壊れてるよね??
 どこか呆然とした笑顔がこわいです、この人ココロ戻ってません、整理ついてません!!

 そんな彼を後ろから抱くよーに長い腕を広げて促す大公様@しゅうくんに、望みを託します、お願い閣下、その人助けて、救ってあげて!!と(笑)。
 あまりにもベンヴォーリオが哀れすぎて、壊れきっていて、こわかった。

 あんだけものすごい喪失ぶりで、最後笑うんだもん……! いや、あそこは笑顔だと決められているんだろうけど、ベン様その精神状態で笑ったらそりゃすでにあちら側の人ですよ!という。

 
 終始一貫して、テンションの高い日だった。
 そして、テンション高いとえらいことになるんだなと。

 ベンヴォーリオを演じるまっつは、面白すぎる……。

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