年寄りなので、昔話をする。

 その昔、『ノバ・ボサ・ノバ』を観たときの話だ。
 残念ながら、初演・再演は観ていない。さすがに無理だ。わたしが言う「昔」はひと昔、干支一回りの1999年、再々演のことだ。

 よくわかんないけど「名作」らしい。そして、昔を知る人々から「トドロキに『シナーマン』が歌いこなせるはずがない」と言われ、前夜祭で初の歌声披露、前述の台詞を言った人からは「あの声が保つはずがない、きっと途中で声を潰すわ」と言われた。
 「歌えるはずがない」→「保つはずがない」と意見が変化したってことは、初演ファンの人に「歌えてる」と判断されたんだと思った。でも初演信者さんからしたら「そのうち歌えなくなる」という、あくまでもマイナス感想になる、と。
 わたしも自虐系ファンなので(笑)、「よくわかんないけど名作で、ものすごく難曲らしいから、きっとトドには歌えないんだわ」と思ったし、前夜祭で「なんかすごい歌を聴いた」と思っても、素直に「きっと声を潰してしまうんだわ、あんな品質で歌い続けられるはずがないんだわ」と思っていた。
 わたしはトドファンだけど、彼を「歌手」だとか「歌ウマ」だとか、思ってなかったし。トップスターとして、「歌える」方だとは思ってたけど、なにしろあのクセのある歌い方と声質だし。名曲・難曲様には相応しくないでしょう、と。

 別にトド様、声を潰すことなく歌いきったけどねえ。

 さて、そうやって外側から「名作だ」「名作だ」と言われ、「絶対無理」「トドと雪組で再演なんて身の程知らずな」と言われ、正直、どんだけすごいものなのかと、身構えていた。

 今のようにスカステでいくらでも昔の作品の映像が見られる時代じゃない。
 人の記憶と噂でしか語られない、昔の「名作」とやら。芝居ならストーリーだの台詞だのである程度伝わるモノがあるが、ショーの記憶なんてものは「すごかった」「名作だ」以外にない。
 先輩ファンのお姉様たちから、一方的に「昔は良かった」「今はダメ」を聞かされ続け、どんだけすごいものなのか、さらに妄想はふくらむというか。
 期待というほどストレートに期待していたわけじゃない。どんなに名作でも、自分の好みかどうかは別、と思っていたし。
 でも、好みを超えてとにかく、「すごい!」と思えるようなものが再演されるんだ、現代ではあり得ない未曾有の感動がそこにあるんだ、と素直に思い込んだ。

 で。
 実際に、初日を迎えて。
 23年ぶりの再々演とやら、前夜祭までやった注目の「名作」様とやらで。
 プログラムでは同時上演の芝居『再会』の演出家イシダせんせが「みんな『ノバ・ボサ・ノバ』観に来たんでしょ? くっついてる芝居なんかどうでもいいと思ってるでしょ? わかってますよ、だから『ノバボサ』だけ観るつもりだったけど、ついでで観た芝居も悪くなかったわ、と言ってもらえるように作りました」みたいな、ひどい挨拶文書いてるし(笑)。
 内部ですらそんな扱いなんだ、『ノバ・ボサ・ノバ』様ってどんだけおエライんだ。
 そんだけ言われ、持ち上げられまくるほどの名作ショーって、どんなんだ??

 はい。
 初日初見では、ぽかーん、でした。

 さんざん聞いていた、空前絶後の名作!!とかなんとか、抱いていたモノとかけ離れすぎていて。

 えーっとコレ、名作……?
 ど、どのへんが……?

 みんな真っ黒だし、チリチリ頭だし、裸足だし、きれいっていうような画面でも衣装でもキャラクタでもないし、筋は単純を通り越してつまんないし、変な場面ばっかだし、ダンスがどうの言ってたけど上下運動だけ激しくてバカみたいな振付だし。

 いちばんの感想は。

 古っ。
 ダサっ。

 でした。

 それでも組ファンなので、雪組のみんなが演じている、それだけで楽しめる面はあった。顔もキャラもわかっていて、あの人があんな役を、という楽しみ。
 そして、トドは美しく、歌声の迫力も素晴らしいモノでございましたので、そこは十分楽しい。

 しかし、前評判ほどの「名作」とは、とても思えない。

 身構えていた分、ぽかーん。

 もちろん、初演ファンのお姉様たちにはフルボッコ。
「名作が汚された!」と。
 演出が良くない、出演者が良くない。完全否定は当たり前。『ノバボサ』が名作なのは前提、名作が名作に見えないのはすべて演出と出演者のせい。

 いや、その……これって演出がとか出演者がとか以前に、古いですよ、どう考えても。
 四半世紀前なら良かったかもしんないけどさあ、今1999年ですよ、来年ミレニアムですよ? こんな時代に見せられてもさあ。
 組子たちみんな黒塗りアフロで格好良くないし見分けつきにくいし、数名の真ん中さんたちしか美味しくないし、ストーリー仕立てで通し役だから、ここは美味しくないけど次の場面ではオイシイとか好みとかいう、ショーにありがちな「逃げ道」がないし。
 これリピートすんのって、きっつー。

 ただでさえ、その前の前の公演で2名、この公演でさらに2名、雪組には男役スターが組替えしてきている。わずか1年でスターが4名増え、組替えで出て行ったスターは1名。
 組の生え抜きスターは番手が上がらないばかりか、扱いが落ちるばかり。
 下級生ファン的にはきつかったろうなあ。
 『真夜中のゴースト』で単独3番手だったトウコ、4番手だったかしげは、その次の『春櫻賦』で4番手、5番手に落ち、この『ノバボサ』ではトウコがトリプル4番手、かしげに至っては何番手? 7番手、って言葉あるの??てな状態へ。

 芝居で役がないのは仕方ないけど、ショーまでストーリー仕立てで芝居と同じように「役のある人」と「モブ」にされちゃったらなあ……ここ1年、生え抜き生徒はポジション据え置きか格下げ続きだもんなあ、そこにコレはきついよなあ。

 と、思いました。
 初見では。

 リピートつらい、と思ったんだけど。

 『ノバ・ボサ・ノバ』の神髄は、リピート観劇にこそあった。
 ……わたしには(笑)。


 年寄りの思い出語り、続く。

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