『アルジェの男』、ストーリーについて感想。
 その、わたしは柴田せんせの古い古い再演作品がとーーっても苦手なので、つまりはそういう感想です。


 実のところ主人公のジュリアンさん@きりやんって、よくわからない。
 ナニがしたいんだか。
 「努力しないで出世する」はずのフィンチがものすごーく努力家で、仕事と真摯に向き合っている……ために起こる居心地の悪さ、それをジュリアンにも感じる。
 公式ページには、「野心を抱き、自分に心を寄せる女性を利用してまで成功への道を駈け上がろうとする青年の姿。青春はその輝きの裏に残酷な翳りをともなう。」とあるんだけど、ぜんぜんぴんとこない。

 ジュリアンってさ、別に女性を利用してないよね?

 自分から女に近付いて口八丁手八丁、騙してエロしてメロメロにしたわけじゃないよねえ?
 ジュリアンを欲する権力者たちが「ジュリアン、オマエが欲しい。娘のエリザベート@りっちーをやるから、息子になってくれ」とか「ジュリアン、アナタが欲しいの。姪のアナ・ベル@みくをあげるから、我が家へ来てちょうだい」とか言い出して、提案を受けただけだよね?
 自分からやってないよねえ。
 遊び半分に女を抱くことも捨てることもしない、生活はストイックで勤勉。努力努力、ひたすら努力の人。
 女を利用する必要なんかどこにもなく、ふつーに仕事面の優秀さだけで出世している。
 なんでわざわざ「自分に心を寄せる女性を利用してまで成功への道を駈け上がろうとする」という設定なんだろう? 女を利用してないのに。
 最初にボランジュさん@リュウ様がジュリアンを雇うとき、「娘との結婚が条件だ」と言い出したとか、ボランジュさんちで働くためにまず娘を口説いて口添えをさせたとかなら、「利用した」になるかもしれないけど。
 ボランジュさんに雇ってもらったのは、あくまでもジュリアン自身に見どころがあったからで、その後彼が出世したのも本人の能力だよねえ?

 アルジェにいたときの恋人サビーヌ@まりもを捨ててはいるけれど、それは彼女が勝手に身を引いたせいもある。ジュリアンがひどい捨て方をしたわけじゃない。合法的に別れているだろ、あれは。

 サビーヌは終始一貫「アナタの邪魔になりたくないの」という後ろ向きな女で、いつもいい子ぶってやせ我慢ばかりしている。
 この女じゃ、捨てられても仕方ないと思うよ。
 「オレはこのままでしは終わらない。いずれパリに行ってビッグになるんだ」てな、ありがちな夢を語る男に、「わたしもついて行く」と言わない。「別れたくないなー、一緒にいたいなー」というオーラをゆんゆんと出しながら、自分からはナニも言わず黙ってじーーっと見つめているタイプ。
 なりふりかまわず、「愛してるの、そばにいて!」と言えばいいのに。泣いてすがればいいのに。
 ジュリアンはまともでやさしい男だから、本当に愛している女にそう言われたら、あっさりパリには行かないと思うよ。もしくは、大真面目に雇い主のボランジュさん相談するとか。結婚を誓った相手がいる、パリへは夫婦で行ってもいいか、とか。
 ボランジュさんはジュリアンが独身かどうか確認せずに雇うことを決めている、つまり雇用条件とは無関係、最初から女房持ちだと言ってあれば、それごと受け入れてくれただろう。
 サビーヌははっきりしない。自分の気持ちをなにも言葉にはせず、重苦しい「私、耐えてます」オーラだけは恨みがましく発散する。
 これじゃ男も逃げるわ。どうすることもできないじゃん。

 で、この「自分からはナニも言わず、要求オーラだけ出す女」の特徴である、ストーカー行為。
 ナニも言わずに追いかけて引っ越しまでし、近くに住みながら男を監視し続ける。
 で、このテの女の特徴その2、依存体質なのでひとりでは暮らせない、別の男にしがみつく。ひとりで慎ましく待っていたりしない。

 ジュリアンは「女を利用している」というより、「女に騙されている」感じなんだよなあ……。
 サビーヌは不幸陶酔タイプのストーカー女だし、エリザベートは自我肥大タイプの女帝だし、アナ・ベルは許容量の少ない短絡思考少女だし。
 公式ページには「その彼に心惹かれ、悲しい運命を辿ることになる三人の女性たち。」とあるけど、「貪欲な三人の女たちに求愛され、哀しい運命をたどることになるひとりの青年。」が正しいと思うわ。
 つか、ジュリアンが女運悪すぎて切ない……。まともな女はひとりもいないのか。

 書き方の問題だと思うけどね。
 この脚本が書かれた40年近く前なら、なにかしら共感のある女性たちであり、主人公だったのかもしれないけれど、現代からするとツッコミどころ満載。
 最初から変人として描かれたエリザベートがいちばんマシってどうなの。

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